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構造色のからくり(鳶泥)

平和な村だ。何の変哲もなく、のどかで平和な。子ども達の笑い声に、騒がしくはないが活気付いた通り。黒く重たい外套はその中にあって異質だったが、周囲は大して気にした様子もない。何分のどかなのだ。下手に警戒されるよりはいい。立ち寄った理由もデイダラの私用であって、組織や任務とは何ら関係がないのだから。あくまでも今回の任務とは、だが。
アジトへ帰る道すがらついてきたトビは、大通りからは外れた路地で待機中。村とも用事とも関係がないこの男も、唯一関係のある先輩の命とあらば大人しく座っているしかない。デイダラは用件のみを手早く済ませるタイプなので、待つのが苦になる程ではないがやはり所在なく。別に忠犬の如く一歩も身じろぎせずにいることはないのだが。以前何度か落ち合うはずの場所を勝手に離れひどく叱られた経験から、いい加減賢明でない行動は避けるようになったらしい。仏の顔も三度まで。もっとも、この男は二度目から既に爆破を以て制裁を加えられている。
仕方がないので視線だけを動かす。板葺きの屋根。軒下の野菜。果物。点々と生えている背の低い広葉樹。ふわふわ飛ぶ透明な球体。ぱちん、はじけて消えた。しゃぼん玉だ。飛んできた方向に目をやれば続けざまに大小様々ふわふわと。待て、の効力が弱まる。ふわふわしたそれに誘われてふらふら、角をひとつ曲がれば想像通りに子どもが数人で遊んでいた。


「何持ってんだそれ」
「あ、これですか?さっきまであそこに子どもがいたんですけどね、何気なく見てたらくれたんですよ」
「怯えてたんじゃねぇの」
「…できるもんならやってみろってニヤニヤ突きつけられました」
「できるもんならやってみろよ」
「も~先輩まで…」
「子どもは素直だよなあ、うん」
「目から泡出るとこ見たいっすか」
「むしろガキは好きだろそういうの」
「どうしようかと思ってるうちに親に呼ばれたみたいで行っちゃいましたけどね」


用を済ませたデイダラとしっかり元の場所で落ち合ったトビであったが、その手には何か液体の入った容器と筒状の細い棒が一本。所謂しゃぼん玉遊びの道具一式。風体の怪しさに輪を掛けているが幸いにも本人の言うとおり今は子どもの姿も親の姿もない。


「先輩やったことあります?しゃぼん玉」
「多分」
「じゃあやってみせてくださいよ~ボクできないんですよぉ」
「お前な…」


呆れ顔のデイダラがトビの手から一式を受け取る。筒の一方を液に浸してから、もう一方を軽くくわえて空気を送り込む。先程見たものと同じ、透明な球体が七色に光って宙を飛んだ。わざとらしく間延びしたトビの声が空に向かうそれらを見送る。幾らもしないうちにはじけて消える。はずが、全てが一定の高さで動かなくなり急旋回。面に向かって勢いよくぶつかった。


「あ、れ。なんで割れないんです?」
「ちょっと考えればわかる話だろ」
「…あぁ、なるほどね~」


にやりと笑って、次から次へとしゃぼん玉をつくりだすデイダラ。大小様々、ふわふわと。ただひとつ違うのは、触っても割れないというところ。数個のそれを弄びながらはずんだ声のトビが囃す。


「これこそ子ども喜びますよ~どうします?」
「どうもこうも…仕組みはアレと同じだ。こうすればすぐ…」


いつものように指を二本、胸の前で立てて一言。破壊力こそないものの宙に浮いていた数個のしゃぼん玉が一斉にはじける。手品さながらの光景にトビがぱちぱちと拍手を送る。後ろの角から子ども達が目を輝かせて見つめていた。面倒なことになった。


「あ~…つかれた、うん。任務の数倍つかれた」
「先輩もわるいひとですよね~練習すればお前らもできる、とか言っちゃうんだから」
「あの状況で他にどう言えっつうんだよ」
「あーあ、こうやってまたいたいけな子どもが非行の道に…」
「どういう意味だオイ」
「そのまんまの意味ですけど」
「…つかれてるから無駄なチャクラは使わねえ」
「そうした方がいいですよ~元々先輩スタミナもある方じゃないんだし…ったぁ!」
「殴るぐらいの余力は残してあるけどな、うん」
「流石先輩、忍のカガミっすね」


平和な村を、子ども達に見送られて後にした。何と言うか、あるまじき事態である。もらってしまった一式を手に夕暮れの道を並んで歩いている。軽口を叩いたその口でトビが筒を軽く吹けば七色に光ったそれらは、一瞬宙を飛んで当然のようにはじけて消えた。できんじゃねえか、とつぶやいたデイダラが隣を見た時には既に面は定位置におさまっている。


「やっぱりしゃぼん玉なんてもんはすぐにはじけてこそだな、うん」
「いつものアレですか」
「誰もが吹けば一様にそうなるシンプルな造形、油膜がつくる色合いも偶然の産物ではあるが一瞬一瞬で表情が変わり数秒ともたずに消えてなくなる」
「先輩、ボクちょっとついてけないです」


つかれてるし、と言えばどっちでも大して活躍しなかったくせにと鋭く核心をつかれる。軽口の上塗りで応戦すれば後ろから軽く蹴り上げられた。前につんのめりながら蹴る力も残ってるんすね、と言った弱々しい声に当然だろ、と返すデイダラ。体勢を立て直したトビから落としはしなかった一式を再び受け取り、立ち止まってひと吹きする。宙に浮かんだ夕日がかった七色は、今度はどれもすぐにぱちんとはじけた。





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物質にチャクラを練り込む禁術なんだから先輩シャボンランチャーみたいなこともできるんじゃないかなって…(小声)
あっでもひょっとしていっぺんしゃぼん液口に入れなきゃいけn まあいい

しゃぼん玉するトビデイちゃんってかわいいな~と思っただけです!おちなし!

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このままぼくらは(鳶泥)

《※現代風味》



旅に出たいと言ったのは先輩の方だった。理由は曰わく単純明快なもので、芸術家は常に刺激を求めていないと感情が鈍るからだとかなんとか。ボクからすれば十分に複雑怪奇ですけど。別に誰とどこに行きたいだの、そういう話ではないのだろう。この人は一人でだってどこへでも行くし、きっと連れ立つ同志だっているのだ。それならば。鈍行の電車にがたごとゆられることも、遠いとも近いとも言えない時間をかけて向かう先も勝手に決めて、軽く連れ出してみた。


「で、なんで冬場に海なんだよ」
「だめですか?ボク結構好きなんですけどね~静かだし」


夏場は賑わっていただろう海水浴場も、今は誰もいないし何もない。天候だって一面の曇り空。真っ白い空は雪こそ降ってはいないものの、色に違わずつめたく寒い。時折吹きつける風と一定で緩やかな波、どちらのほうがつめたいのだろうか。雪よりは白くない白い砂で、そう歩いたわけでもないのにブーツは真っ白。無意味とわかっていながら一度それをはたく。今度は手袋が白に。上からも下からも白に挟まれて、まるで自分が異質のものみたいに思えてくる。なんて。もうひとつ砂浜に続く足跡の先に目をやれば、何もお構いなしに波打ち際に立つ姿。遙か先のどこかを見つめる目はこの海のように青い。と言いたいところだけれど、あいにくここの海はそんなにきれいじゃない。海が青く見えるのは太陽の反射と空の青さも関係していると聞いたことがある。この天候じゃ尚更。
声をかけたところで今は応えてくれそうにない背中を横目に、自分の些細な疑問を試してみることにした。砂浜に傾いて倒れるブーツ。素足で触れた波打ち際は想像よりも平気だった。それともあまりの冷たさに感覚が麻痺でもしたのだろうか。なんだか腑に落ちなかったのでそのまま足を進めてみる。脛のあたりまで海水に浸かったところでトビ、と名前を呼ばれた。示し合わせたかのようにそのタイミングで勢いのいい波が跳ねる。少し服をやられた。


「ダッセェ」
「先輩がいきなり声かけるから」
「ほっといてもそのまま進んで濡れてただろうけどな、うん」
「思ったよりつめたくなかったもんで」
「そうか?」
「先輩も入ってみたらどうです?」
「そりゃいいけどよ、お前拭くもん持ってんの」
「…向こうで砂払ってきます」


濡れたままの足で砂を踏む。コンクリートで舗装された防波堤まではそう遠くなかったけれども案の定、足は十二分に砂まみれ。貝殻を踏まなくてよかった。あれは踏むとなかなか痛い。砂を落としてブーツを履き直すと側にあった自販機の、あまり買わないココアのボタンを一回押した。こちらに向かって歩いてきていた先輩に手渡す。靴はちゃんと履いていた。


「お前は?」
「ボクは大丈夫です」
「ふーん。じゃあこれやるよ」


手渡されたのは小さな飴の包みがひとつ。この人にこういうものを持ち歩く習慣はないので、大方もらいものかなにかが出てきたのだろう。ツートンカラーのそれに文字はなく、何の気なしにそのまま開けて口に入れる。ミント味。不意をつかれて思わず声が出た。別に苦手ではないのだけれども。隣で缶に口をつけながら、先輩が訝しげな視線を送ってくる。


「なんだよいきなり…」
「いや、甘いと思って食べたからちょっとびっくりして」
「文句言うんだったら返せ」
「やです。先輩からもらったんだし食べます」
「…あっそ」
「あ、でもほら、」


ココアの缶は今は手元。面の下にはミントの飴玉。合わさればなんの味かといえば。


「ね、びっくりするでしょ」


近くで見る青い目はやっぱりきれいだ。


「…チョコミントは好きじゃねえ」
「そうですか?ボクは好きですけどね」
「甘いんだか辛いんだか、はっきりしねえだろ」
「どっちもたのしめるからいいんじゃないすか」
「合わせる必要はねえな…うん」
「じゃあココアひとくち」
「なんで」
「口直しにもういっかいどうかと」


缶の残りを一気に呷って逆さにしてからべ、と舌を出してこちらをみる先輩。残念、だって。それはこっちのセリフです。


「これからどうすんの」
「えーと、…特にかんがえてませんでした」


ぱちり。瞬きひとつの間。それを合図に波の音に笑い声が加わる。


「じゃあ、どっかいっちまうか」
「…どこに?」
「どこへでも」
「いつまで?」
「うーん。朝が来るまで、かね」
「あ、そこは結構具体的なんすね」
「オイラ休み明日までだし」
「期限付きの逃避行かぁ~…」
「そもそも逃げる必要なんてねえだろ」


ですよね、と笑って返したものの。先立って駅へ向かう背中を見ると、どうにも足がまごついた。後ろめたいことなど何もないはずなのに。ただ、漠然と。


「なにやってんだ、おいてくぜ」


振り返った目がとらえていたのは自分。足が動いた。単純な話だった。
改札を抜けて適当なホームに向かい、はじめに来た電車に揃って乗り込む。扉が閉まる音。ゆっくりと進み出す小さな箱。がらがらの座席に並んで座って、このまま乗ってたらどこに行くんでしょうと尋ねれば、そりゃ終点だろうと目が覚めるような答えをいただいた。この人は芸術家なのに妙な所でリアリストだ。芸術家という人種が一般的にどんな風なのかなんて知らないけれど。興味があるのはその括りではなく隣に座るデイダラという人だけなもので、別に問題なんてない。
がたごとゆれる箱の中からくるくるかわる景色を見る。見知らぬ土地のありふれた風景。これからどこで降りようが、端から見れば自分たちだってその一部。明日になればいつもの毎日。逃避行の醍醐味と対極だけれど隣り合わせにあるそういうものに、ひどく安堵している。その理由は。口に出したらまた笑われそうなので、今は黙ってゆられておくことにした。





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バレンタインも近いことだし末永く爆発系なトビデイ つづくしあわせとあてどない旅にでてほしかったのでした

「まあどこいってもその面は目立つけどな、うん」
「先輩のきれいな金髪だって目立ちますぅ~」
「オイラのは地毛だ。お前とじゃ目立つの種類がちげぇだろ」
「(そうは言うけど無理に取れとは言わないんだよなあ、この人)」

\いっしょうやってろ!!!!!/

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いちにの、ぽかん(鳶泥)

鳥が二羽、滑空している。
煙の臭いをはらんだ風の音だけが前から後ろへと通り過ぎるなか、トビが口を開いた。


「例えばの話なんですけど」


都合の悪い記憶だけをはじめから無かったように消してしまえたら。
つい一時間前までは集落であった場所を遥か眼下に、鳥はどんどん前方へと進んでいく。


「先輩の爆発みたいにばーんって、一瞬で」


両手を広げて仰げば、少しだけ上を飛んでいたデイダラが心外だとばかりに高度を下げて横並びになる。その目は完全に持論を語る時の色。トビがあまり見たことのない種類のものだ。後輩は芸術についての造詣は深くない。


「オイラの芸術は単に消すだけのものじゃねえ、うん」
「現に村ひとつ消えてますけど」
「村は消えたけど更地が生まれたろ」
「屁理屈じゃないスかそれ」
「何言ってんだ。現にオイラの芸術を見てお前の中には感情の変化が生まれたじゃねえか、うん」
「そういうもんですか」
「そういうもんだよ」


違和感もなく再び風の音だけが聞こえるようになった頃、でも。ひとりごとのような声は続ける。


「戻りたい記憶とか、忘れたい記憶ってあるでしょう」
「それを消しちまって無かったことにできても意味はあんのか?」


問いに答える声はない。それに。デイダラは続ける。


「戻りたい記憶があるだけ幸せなんじゃねえの」
「戻れなくても?」
「オイラにゃそういうのよくわかんねえけどな、うん」


積み重ねては昇華していく。それを人よりめまぐるしいサイクルで繰り返すのがデイダラだ。彼が持つ一瞬というものの意味合いも、それへの拘りも期待も、並みの定義でははかれない。


「記憶喪失にでもなりたいんだったら、お望み通り爆発させてやってもいいぜ」
「ちょっとシャレになんないッスよこの大きさだと!」
「じゃあソフトにそっから落ちてみるか」
「どこがソフトなんですか…っとと、先輩それあぶな…あっ」


落ちた。それはきれいに真っ逆さまに。
コンマ数秒、デイダラの乗った鳥が地面に向かう塊を追う。早い段階でそれは二人乗りになった。まだ地面も木も、岩山すらも近くない。大きな白い鳥はすぐに高度を上げ、何事もなかったかのように水平に風を切る。
確証があったわけではないが、おそらくこの先輩は後輩を助けただろうしそうじゃなかったとしても自力で助かるだけの術が、トビにはあった。うっかりなのかわざとなのか。どちらにしてもはじめからわかっていたのは、地面へ落ちきることなどなかったということだ。


「ったく…どんくせぇんだよお前は!」
「だって先輩さっき鳥さん揺らしたでしょ!」
「あれしきの揺れで忍が落っこちるかよ」
「あっ否定はしないんスね」
「しっかり乗っとく自信がないならどっかつかまっときな」


ましてや一緒に、なんて。そんなことはたとえ前を向く背中に伸ばしかけた手が肩を掴んでいたとしてもあり得ないのだろう。
一羽の鳥はただひたすらに、風が前から後ろへ通り過ぎるなか飛んでいく。はためく金色。錘のようになった黒色。風が強くて助かった。つぶやいた声は聞こえないし、煙の臭いはもうしない。





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形あるものを生んで変化を生んで無すらも生んじゃう一瞬の芸術 形そのものは残らなくても
後輩は通常運転です

(小ネタも入れたらこれで50本!だいたいが先輩と後輩!まだまだ書きたい先輩と後輩!)

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一汁一菜を共に(鳶泥)

食器のかちゃかちゃいう音、そこいらで談笑する声、店員の足音。
先程までとはまるで真逆の環境に置かれてデイダラは不服そうに湯呑みをすすった。これでその他大勢、定食屋に集う人々の仲間入りである。


「先輩目つき悪いッスよ」


向かいに座ったトビがいつもの調子で言う。しかし仏頂面の原因は、まぎれもなくこの後輩にある。いきなり部屋に入ってきたかと思えば粘土と向き合っていたデイダラの、驚く目の下あたりに触れて一言。くま、とだけ言い有無を言わさず連れ出したのだ。この後輩が突拍子もないのは珍しいことでもなかったが、その時の得体の知れない気迫に圧されたのかデイダラもよくわからないまま今に至っている。確かにその目元は一段と陰が濃く、元々つり気味の目つきを更に悪く見せていた。視線の先にうるせえ元からだと返せば、するどく切り返される。


「寝てないんでしょ」
「…寝てるよ」
「ウソばっかり」


ため息まじりに軽く肩をすくめたトビの仕草は声色と噛み合わない。何か言いたげなデイダラも、それで言葉を飲み込んでいるようだ。手元の湯呑みが一役買っている。


「芸術家も、組織の一員としても、身体が資本ですよ。倒れでもしたら元も子もないんだから」


たまに、ごくたまに。こうしてトビが至極まともなことを言うとデイダラはこんな表情になる。ばつが悪そうな、年相応の顔。先輩だってそういう時もある。
何はなくともお腹はすくでしょ、そう言って店員を呼ぶトビはもうまるでいつもの調子で注文ひとつにやたらと賑やかだ。デイダラも後輩の意図を汲んだのかはたまた観念したのか、湯呑みを置いて苦笑した。店員が奥へと戻っていく。


「後輩にダセェところ見せちまったな」
「たまにはいいんですよ、先輩がかっこいいのは知ってますんで」
「お前はいつもダセェけどな、うん」
「そんなことな……、ありますね」
「だろ?」


随分素直に認めるものだ。ニヤリと笑うデイダラはいつもの先輩の顔で、すっかり形成が逆転している。この二人はこれで成り立っているのだから面白い。


「全く…先輩の死因は爆死だ~なんて言っちゃったのに、餓死だなんてそれこそありえないですからね!」
「お前は窒息死な」
「先輩の愛に溺れて?」
「溺れるなら単純に水で溺れろ」


定食屋でするにはなんとも不毛なやり取りをしている間に膳が運ばれてきた。かたや口元どころか顔全体を覆い尽くしている面。どうやって食べるのか甚だ疑問である。ともかく、卓上では二人分の膳が湯気をたてながら待っている。


「あ、先輩何か別のこと考えてる」
「オイラに飯食えって説教たれたのはお前で三人目だなって」
「…へえ~」
「何だその顔。早く食わねえと冷めちまうぞ、うん」


他意はないのに勝手にふてくされているのが可笑しい。笑いながらデイダラが箸に手を伸ばすと、トビもそれに倣った。二人分の膳の前で、二人分の声が重なる。


「ボク出汁巻き好きなんですよね~」
「やらねえぞ」
「まだ何も言ってないじゃないすか!」
「お前は炒り子でも食ってな」
「カルシウムは先輩の方が必要でしょ、いろんな意味で」
「うるせえ。まだ少しは伸びる、うん」
「ボク身長のことだなんて一言も言ってないですよ?それに先輩の歳じゃもうそれほど期待は…」
「平穏に飯が食いたきゃそろそろ黙っとけ」
「はぁい」


何はともあれこのように、食卓は賑やかな方がいい。
睡眠不足の青い目もぐるぐる渦巻く奇妙な面も、今はすっかり定食屋の一部なのだ。





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ほうっておいても一人で生きてるんだけど生活するのは少々難ありな先輩
先輩のサポートは後輩の役目 後輩も一人で生きてはいけるんだけど
たとえすこしの間でもちゃんとふたりで生活すればいいよ
持ちつ持たれつ 後輩はもたれる方に傾きがちだけどね!

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