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このままぼくらは(鳶泥)

《※現代風味》



旅に出たいと言ったのは先輩の方だった。理由は曰わく単純明快なもので、芸術家は常に刺激を求めていないと感情が鈍るからだとかなんとか。ボクからすれば十分に複雑怪奇ですけど。別に誰とどこに行きたいだの、そういう話ではないのだろう。この人は一人でだってどこへでも行くし、きっと連れ立つ同志だっているのだ。それならば。鈍行の電車にがたごとゆられることも、遠いとも近いとも言えない時間をかけて向かう先も勝手に決めて、軽く連れ出してみた。


「で、なんで冬場に海なんだよ」
「だめですか?ボク結構好きなんですけどね~静かだし」


夏場は賑わっていただろう海水浴場も、今は誰もいないし何もない。天候だって一面の曇り空。真っ白い空は雪こそ降ってはいないものの、色に違わずつめたく寒い。時折吹きつける風と一定で緩やかな波、どちらのほうがつめたいのだろうか。雪よりは白くない白い砂で、そう歩いたわけでもないのにブーツは真っ白。無意味とわかっていながら一度それをはたく。今度は手袋が白に。上からも下からも白に挟まれて、まるで自分が異質のものみたいに思えてくる。なんて。もうひとつ砂浜に続く足跡の先に目をやれば、何もお構いなしに波打ち際に立つ姿。遙か先のどこかを見つめる目はこの海のように青い。と言いたいところだけれど、あいにくここの海はそんなにきれいじゃない。海が青く見えるのは太陽の反射と空の青さも関係していると聞いたことがある。この天候じゃ尚更。
声をかけたところで今は応えてくれそうにない背中を横目に、自分の些細な疑問を試してみることにした。砂浜に傾いて倒れるブーツ。素足で触れた波打ち際は想像よりも平気だった。それともあまりの冷たさに感覚が麻痺でもしたのだろうか。なんだか腑に落ちなかったのでそのまま足を進めてみる。脛のあたりまで海水に浸かったところでトビ、と名前を呼ばれた。示し合わせたかのようにそのタイミングで勢いのいい波が跳ねる。少し服をやられた。


「ダッセェ」
「先輩がいきなり声かけるから」
「ほっといてもそのまま進んで濡れてただろうけどな、うん」
「思ったよりつめたくなかったもんで」
「そうか?」
「先輩も入ってみたらどうです?」
「そりゃいいけどよ、お前拭くもん持ってんの」
「…向こうで砂払ってきます」


濡れたままの足で砂を踏む。コンクリートで舗装された防波堤まではそう遠くなかったけれども案の定、足は十二分に砂まみれ。貝殻を踏まなくてよかった。あれは踏むとなかなか痛い。砂を落としてブーツを履き直すと側にあった自販機の、あまり買わないココアのボタンを一回押した。こちらに向かって歩いてきていた先輩に手渡す。靴はちゃんと履いていた。


「お前は?」
「ボクは大丈夫です」
「ふーん。じゃあこれやるよ」


手渡されたのは小さな飴の包みがひとつ。この人にこういうものを持ち歩く習慣はないので、大方もらいものかなにかが出てきたのだろう。ツートンカラーのそれに文字はなく、何の気なしにそのまま開けて口に入れる。ミント味。不意をつかれて思わず声が出た。別に苦手ではないのだけれども。隣で缶に口をつけながら、先輩が訝しげな視線を送ってくる。


「なんだよいきなり…」
「いや、甘いと思って食べたからちょっとびっくりして」
「文句言うんだったら返せ」
「やです。先輩からもらったんだし食べます」
「…あっそ」
「あ、でもほら、」


ココアの缶は今は手元。面の下にはミントの飴玉。合わさればなんの味かといえば。


「ね、びっくりするでしょ」


近くで見る青い目はやっぱりきれいだ。


「…チョコミントは好きじゃねえ」
「そうですか?ボクは好きですけどね」
「甘いんだか辛いんだか、はっきりしねえだろ」
「どっちもたのしめるからいいんじゃないすか」
「合わせる必要はねえな…うん」
「じゃあココアひとくち」
「なんで」
「口直しにもういっかいどうかと」


缶の残りを一気に呷って逆さにしてからべ、と舌を出してこちらをみる先輩。残念、だって。それはこっちのセリフです。


「これからどうすんの」
「えーと、…特にかんがえてませんでした」


ぱちり。瞬きひとつの間。それを合図に波の音に笑い声が加わる。


「じゃあ、どっかいっちまうか」
「…どこに?」
「どこへでも」
「いつまで?」
「うーん。朝が来るまで、かね」
「あ、そこは結構具体的なんすね」
「オイラ休み明日までだし」
「期限付きの逃避行かぁ~…」
「そもそも逃げる必要なんてねえだろ」


ですよね、と笑って返したものの。先立って駅へ向かう背中を見ると、どうにも足がまごついた。後ろめたいことなど何もないはずなのに。ただ、漠然と。


「なにやってんだ、おいてくぜ」


振り返った目がとらえていたのは自分。足が動いた。単純な話だった。
改札を抜けて適当なホームに向かい、はじめに来た電車に揃って乗り込む。扉が閉まる音。ゆっくりと進み出す小さな箱。がらがらの座席に並んで座って、このまま乗ってたらどこに行くんでしょうと尋ねれば、そりゃ終点だろうと目が覚めるような答えをいただいた。この人は芸術家なのに妙な所でリアリストだ。芸術家という人種が一般的にどんな風なのかなんて知らないけれど。興味があるのはその括りではなく隣に座るデイダラという人だけなもので、別に問題なんてない。
がたごとゆれる箱の中からくるくるかわる景色を見る。見知らぬ土地のありふれた風景。これからどこで降りようが、端から見れば自分たちだってその一部。明日になればいつもの毎日。逃避行の醍醐味と対極だけれど隣り合わせにあるそういうものに、ひどく安堵している。その理由は。口に出したらまた笑われそうなので、今は黙ってゆられておくことにした。





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バレンタインも近いことだし末永く爆発系なトビデイ つづくしあわせとあてどない旅にでてほしかったのでした

「まあどこいってもその面は目立つけどな、うん」
「先輩のきれいな金髪だって目立ちますぅ~」
「オイラのは地毛だ。お前とじゃ目立つの種類がちげぇだろ」
「(そうは言うけど無理に取れとは言わないんだよなあ、この人)」

\いっしょうやってろ!!!!!/

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