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みじかいはなし詰め(鳶泥)

【朝のはなし(※現代風味)】

マグカップにスティック状の粉末。お湯をそそげばあっという間の手軽なぬくもりをひと口飲んで薄い、とつぶやいた声にやかんを傾けながら応える声。規定量書いてあんの無視して多めに湯入れるからだろ。朝。スズメのさえずりと車が走る音をカーテンで隔てた内側。貧乏性なんですもん。欲が出てんだよ、無意識に。うわ、そう言われると…。外の明るさが透けるカーテンはまだそのままでも甘すぎるくらいに甘い(が、薄い)スティックコーヒーをすすりながら苦い顔をしているのは、よくわかる。いつもの橙は昨晩の残骸と一緒に部屋の隅だ。甘ぇ。規定量きっちりのそれを、ひと口飲んで同じような表情。あらら、ボクのと換えます?欲の塊ですけど。甘党にゃこっちのがいいだろ…うん。マグカップと一緒に交差する視線、すこしだけ早い朝。




【ベランダでのはなし(※現代風味)】

ひらひらゆれてるカーテンの先、三角座りでシャボン玉。この時季もう肌寒いベランダで夕日のあたりに透明な球体をひたすら浮かべている。ストローを銜えるためにずらされた、同じ色した面だけがこちらをみてくる。一体何を考えているのか。愚問だ。


「一本どうっすか」
「一本っておまえな」


差し出されたストローを受け取って、隣に座るとコンクリートが冷たい。ベランダ用の100均のサンダルがざり、と音を立てた。なんで裸足なんだよ。二組入りのシャボン玉セットの剥がされたボール紙とプラスチックとがゆるく風に吹かれている。風下はこちら側。飛んでくるのは夕日に向かい損ねてはじけるシャボンと、こういうのも一瞬の美とか言うんですかね、なんて身が入ってないのが丸わかりの問いかけ。芸術を雑に扱うんじゃねえ。ストローをシャボン液に浸けて面に向かっておもいっきり吹く。ぱちぱちとはじけるいくつものそれに、目隠しをした顔がやっとこちらを向いた。


「飯食いに行くぞ、飯」
「あったかいのがいいです」
「やっぱ冷えてんじゃねえかバーカ」




【写真のはなし】

子どもが三人、写真に撮られている。通りがかった町中の別段めずらしいわけでもないそれを、何となく遠巻きに見ていたらめずらしく思ったらしい先輩が声をかけた。子ども達に、ではなく、こちらに。


「嫌いそうなのにな」
「子どもが?」
「写真がだよ」
「そうでもないですよ」


そんなもんつけてるくせに?青い目が言っている。めずらしくもない、いつもの訝しげな顔にすこし頬がゆるむ。なんともまあ写真向きに。真逆の顔と向き合って、同じことを問い返す。


「先輩はお嫌いっすか?写真」
「いいや、別に」
「あら意外。めずらしく合いましたね~ボク達」
「うれしくねーよ、うん」


ばっさりと切られたのをすり抜けて続ける。ボクも今はあんまりですけど。なお訝しんで見る青い目。


「ほら写真って形に残るでしょ?仮にもこんな組織の一員が」
「それこそ手配書ぐらいなもんだな」
「折角気が合ったのに先輩と写真、撮れなくて残念だなあ~」
「オイラだって好きってわけでもねえよ。一瞬は一瞬だ。閉じ込めておけるようなもんじゃねえさ」


そうですね、と返事をしてちらりと見ると三人の子どもはいなくなっていた。明日の任務のため、今日はこの町に留まる。




【三行で済むはなし】

「だれでもいたくないなあ」
「じゃあオイラが爆破してやるよ」
「それじゃあだめなんですって」

*

「ボクは結構、欲深い方ですよ」
「行動が伴ってない、やり直し」
「えっ」

*

「生まれ変わったら、ずっといっしょにいましょうねぇ」
「なんだそれ」
「なんなんでしょうね」




-----
1|目分量じゃわからない
2|シャボン玉すきすぎマンです
3|写真についてふたりの認識のちがい
4|簡単なことばかり

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みじかい鳶泥4つ詰め

【アンコールはいらない】

デイダラが手を止めたのは聞き慣れない聞き慣れた歌を耳にしたからだった。よくしゃべりはするが歌声なんて聞いたのは初めてで、しかもそれは自分も耳なじみがあるときたものだ。どこでそれをと尋ねれば今し方口ずさんでいたものだからと返され目を丸くした。誰が。ここにいるのはボクと先輩だけですね。いつ。だから今ですよ。どちらも悪くはない取り調べのような会話は続く。


「岩のわらべ歌だな、たぶん」


ガキの頃そういうの口ずさんだりしただろ。どうやら無意識だったらしいそれに思考を寄せて結論づけたデイダラに、トビは近くにあった手頃な粘土のかたまりを弄びながらあんまりおぼえてないですと返す。


「おまえほんと…歳…旦那でもそれぐらいの記憶はあったぞ…うん」
「そんなにきてないですってば!」


そこには反論するくせに、昔の話となればのらくらはぐらかす。よくわからねえ奴。デイダラが言えば、何を今更。わざとらしく面を指す。


「でもいいんですよ別に」


なにが、言いかけた声にふたたび短い節が重なる。ね?小首を傾げた橙色。


「おぼえちゃいましたから」
「岩の奴でもねえのに」
「それ言っちゃいます?ボクら抜け忍なのに」
「そりゃまあ、ちがいねえわな」


特に深い意味なんてない。関係もない。ただ、今この時ふたりがおなじ歌を一節だけ知っているという、それだけのこと。




【かみのみぞしる(※転生ネタ)】

ハネムーン症候群、というらしい。なんだかふわふわとした名前だけれど、名は体を表すなんてことばかりじゃない。
成り行きとはいえ半ば同棲状態の生活が始まりはや半月あまり。甘い雰囲気の欠片もないのは自分たちはただの先輩と後輩に他ならないから、この状況がハネムーンなんかではなく後ろについた症候群によるものだから、だ。
ある日突然手が動かなくなった。そんなことはかわいい後輩を見つけるやいなや後ろから一蹴りして呼び止めた後で言うことじゃないし、それをなんとかしろだなんて足蹴にした後輩に頼むようなことじゃない。ちなみに手が云々の前に、この人は元々足癖が悪い。聞けば原因は作業中にそのまま机に伏せて寝てしまったことらしくそれなら尚更自分は1ミリたりとも関与していないのだけれど、こうして白羽の矢が立ったわけでして。あの先輩直々の頼みとあらば無下にすることもできず、断る理由も特になく。一応、なんでわざわざボクに頼むんすかとだけ尋ねてみれば、お前が一番暇そうだからとそれはもう単純明快で清々しいお答えをいただいた。原因を聞いた時盛大に笑ってやればよかった。
しかしどうやらそう呑気な話でもないようで重症であれば半年ほど元に戻らないケースもあるという、日常のちょっとした油断で陥るにしては少々ヘビーなこの症状。この人はよほど業が深いのだろうか、なんて。
作業台は部屋の隅で主が戻るのを待っている。日常生活の不便さよりもなによりも、創作活動ができないことがこの人にとって一番のストレスだろうに。箱庭のようなワンルームで、エベレスト級に高いプライドを持つはずの先輩が、文字通り後輩の手を借りてやっと、普通の生活をしている。こないだまでは猫の手でも借りたいなんて言ってたのになあ。そう洩らす口ぶりは何故だかどこかたのしげで。茶碗を洗う片手間にひとつ、くだらない問いを投げかけた。


「なんか前にもこういうことあった気がしません?」
「さあな。こんなこと二度も三度もあってたまるかよ、うん」


笑っているのは何故なのか。わかる気がしてもわからないままでいる。二度も、三度も。




【きょうのこんだて】

ふらふらと歩いてきた犬に足をとめて、頭をなでている。めずらしいこともあるものだと思った。そこいらの生き物を気にかけるのも、兵糧丸以外の食べ物を持ち合わせているのも、それを分け与えるのも。こちらにはふらふら、とみえた足取りすら見越してのものだとしたらこれは相当したたかな生き物だ。本日何度目の食事だか知る由もないそれを急ぎもせずゆったりと口にする姿を、しゃがんだ金色越しに見る。


「知りませんよ懐かれちゃっても」
「こいつの顔見てみろよ。筋金入りの野良って顔してる」


こういう奴はその日暮らす術よく知ってんだって。言わんとしていることはわかるが、わからなくもある。ただ青色の審美眼は確かだったようで、もらった食事を残さず食べた犬はいつの間にか姿を消していた。な?と振り返った声が今度はこちらに向かって手招きする。そう離れてもいない間合いを詰めてみれば、宙に浮いた掌にそのまま頭をなでられた。思わず洩れたえ、の一文字に目を細めて笑う顔。わかるような、わからないような。とりあえず一声、鳴いておくのが正解かと。




【ショートフィルム】

男が持っている一巻きのフィルムについて訊ねると、これはとある人からもらったものなのだときかされた。
なにが映っているのか見せてほしいと頼んでみたが生憎、映写機がないとのことだ。
いつ頃のものなのかと訊ねても、きっと最近なのだけどずっと前なのかもしれないと、なんとも曖昧な返答。
おぼえていないのか、と問えばそうじゃない。見てみたくはないのか、の問いにはすぐに返事がない。
続けざまに、そうやってとりだしてひっぱって一枚ずつながめていけば思い出せるのに、と言えば胸のあたりで両手で持ったそれに視線を落として一言。
「つつみこんだ時間はあのひとがぜんぶいっしょにもっていってしまったから」
巻き付けたまま、そのままでここにしまっておくんです。そう言った男の表情は頑丈な仮面に覆われていて、何を考えているのか到底、こちらからは窺い知れなかった。




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1|うたえばいいとおもうよ
2|いつもの現代風味とは別の突発転生ネタ
3|トビは筋金入ってない
4|エンドクレジットを含めて30分以内

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お手を拝借(鳶泥)

投げ出された手がいつかのように見えて少しだけどきりとした。なんて言ったら、信じてくれるだろうか。
転ぶという字に寝ると書いてうたたね。語源がどうかなんて知らないけれども、まさにこれは読んで字の如く。試作品であろう彼らはとうとう日の目を見ることはなさそうだ。とはいえ、勝手にいじるとどうなるかは想像に難くないのでそれには触れず、かわりに土の塊の間で同様に転んでいる作者の手の方をとってみる。つぎはぎの先は当然ながら今はしっかりと繋がっていて異形のそれも健在。真一文字に閉じられてはいるもののぷらぷらと弄ばれるまま、起きる気配なんてまるでないのが可笑しい。これはもはやうたたねの域を越えている。流石のこの人も睡魔の前ではおとなしかったようだ。
特段大きいわけでもないその手は、よくよく見れば季節柄なのか扱う素材の所為なのかずいぶんと荒れてしまっている。当人はこんなものなんともないと言うのだろうけれど。
かさつく指に、いつかのことを思い出す。もしもあのまま戻らなければこの手が再び作品を生み出すことも、それによってこんな有り様になることも、こうしてなにかに触れることも全て、なかったのだ。いくら知っていてできる無茶もあるとはいえ千切れた手が元通りになるだなんて普通のことじゃないし、だから千切れたって構わないというのはまともな発想じゃない。でもこの組織ではそれが可能だった。
知っていたから?そうじゃなかったとしたら?
その手で生み出す芸術とやらは、この人には生きることそのものだろうに。
無鉄砲、というわけではない。むしろ意外なほどに洞察力にはすぐれているし、聡い人だ。それでいて自尊心もなかなかで短気なところもある。まあ、それがらしいといえばそうなのだけれど。
知っていてできる無茶。それは油断なのかわざとなのか。はたまた信頼、なのか。例えばこのうたたねはなんと呼ぼう。問いかけようにも手の主はぐっすり眠っている。今は手袋越しでもわかるくらいにあたたかいそれ。あのとき引き千切れた腕を、姿を、みてもなんとも思わなかったはずが。


「…罪つくり」
「んなもんつくってねーよ」
「起きてたんすか」
「わりと早いうちからな」
「わーいなんで喝されなかったんですかねボク」
「する理由が見当たらなかったから」


寝ぼけているのかと思うようなお言葉をしっかり開いた目から賜る。油断、わざと、まさか残りのひとつだとでも言うのだろうか。にやにや笑う表情に、頭を一回転。これはわざとだ。


「ねえ先輩」
「なに」
「手、だいじにしてくださいね」
「わかってるよ」


一体どこまでなのかは知れないがそれでいい。この人は、思いのほか聡いのだから。触れ合った手の先からなにか伝ってしまうんじゃないか、なんて馬鹿げたことがよぎってぱっと放した手は、振り子のようには揺れなかった。


「あ、そうだ先輩。手荒れと言えばボクこんなのもってるんですけど」
「なんだそれ」
「なんとっ馬の鬣部分からほんのわずかしか採れないという天然の保湿成分がこの一瓶に!」
「どこのうさんくせえ商人だよ…うん」
「まあまあ、モノは試しですってば」


再び目的をもって触れた手の主は、こういう時は存外素直に従ってくれる。罪悪感なんかじゃないけれども、どこかしらが痛む気がして一瞬手が止まった。それに気づいた青い目に見られて、浮かんだ言葉を飲み下す。にぎった手に塗る薬は誰のため?


「安心しろよ。試作のテストはお前でしてやるからさ」
「ぜんぜんうれしくないんですけど!?」


ねえ先輩。どうかその手で、
あとにつづく言葉ぐらいなら伝ったって構わないのに。そんな都合のいい思いでつつんだ手もやはり、あたたかいのだから困ったものだ。





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知っていてそうした先輩の手をいたわるのは自己肯定と庇護も含んでるんだよっていう ほ 補足ゥ…
(手締めできない)


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みはなされたい(泥鳶泥)

言葉に有効期限なんてものがあるのなら。そんな話をしている。


「嘘になるとまでは言わないですけど、時が経っても変わらないとも言い切れないものですし」
「その瞬間確かにそう思って言ったんなら嘘にはなんねえし、言われた瞬間感じたことだって確かなもんだろ。よくもわるくもな」
「先輩ならそう言うかなって思いました」


案外こいつの微妙な空気のゆれはわかりやすい。こういう話題を振ってくる時は普段とは別の調子で殊更しゃべる。面倒なのはいつだって変わらないのでそれ自体はさして問題でもないんだが、こうやって自分であらかじめ決めていたような答えをほしがるのがすこし、気に食わない。誘導尋問に乗ってやっているつもりはなくても結果そうなっているようでこちらとしては面白くないし、気に食わないものはどうにかしたい性分。軽く息をついて俯いた橙に、こちらも一度は伏した目をぐるりと持ち上げる。かち合わせた視線に対してわざとらしく傾げられる小首。口元から旋回する言葉を差し向ける。じゃあ、そうだな。


「お前の全部なんか知ったこっちゃねえ、けどその全部、置いてついて来いって言ったら?」
「それも悪くないかも」


力なく笑う音がした。



「どこいくんですか」
「しらね」
「いいんですか」
「まあオイラはどこだろうがやってけるしな、うん」
「先輩ひとりじゃ不安だなあ、生き急ぎそうで」
「お前がいんだろ」
「…すごい口説き文句っすね」
「暁にゃそれなりに恩もあるし、情もあるっちゃあるけど」
「情」
「そう情」


何が変わるわけでもないはずの、小さなもしもで歩いている。
連れ立つ男が途切れた会話をしりとりのようにとって、再びそっと流れにもどす。じわりじわりと浸食するそれを軽い感じで受けとめる。なんだよお前さみしいのかい。ぼんやり浮かぶ橙色を仰々しく目にいれて、オイラがいるのに。なんて言ってやればめずらしくくつくつと笑った。


「そうですよ、薄情でしょ?」
「オイラが知ってるお前はそういうやつだから別にいいよ」
「わあ寛大」


ほんと、なんでねえ、デイダラさん、
自分で言った言葉にひっかかって、ぽつりぽつり、形の定まらない切れ端を吐いている。灰色の空は夜に内側から膜をはっているかのようで、いつものようにとけてはいかない。むしろその黒がいっそう、際立っている。もしかしたらこちらが外側なのかもしれない。トビ、と呼びかけるとすこしあいていた互いの間の空気がふるえてじわりとにじんだ気がした。


「なんか、ねえのかよ。やりたいこととか、行きたいところとか」
「…なにもないですよ、オレには」
「だから先輩についてくって言ったじゃないですか」
「ここまできたんだから責任とってくださいよ~?」
「ほーんと、見捨てないでくださいよね」
「なんちゃって。ボク知ってますよ」
「先輩はそんなことしないんだもの」


すらすらすらすらと。これ見よがしに浮かべられる言葉達。起爆粘土で爆破できるもんならとっくにやっている。専門外だが、目には目を。


「そんなこと言っておきながらさいごまではついてこないんだろ」
「なに言ってんすか~趣味、先輩のお供は伊達じゃないっすよ?」
「お前がなんで今こうしてるか当ててやろうか」
「いま、なんて目に入ってないからだろ」
「バレてねえと思ったか?丸わかりなんだよ」
「よくしゃべる奴。それなのに、そのくせに、この期に及んでも何ひとつ言いやしない」
「さっきも言ったが別にそこを追求する気も拘る気もねえよ。ただな、」
「あんまり先輩なめてんじゃねえぞ」


膜のような灰色が、ふいに一部分だけ取り除かれた。仄かな明かりでゆらゆら足元がゆれる。満月だった。ちょうど線で結んだように、その下にはトビがいる。まるでそれを背負っているかのように。


「ねえ先輩」
「なんだよ」
「ボク先輩のことすきですよ」
「そりゃどういう意味だ」
「そのまんまの意味です」


どっちも馬鹿だ。救いようなんてない。距離がつまる。肩を掴まれる。空洞のような黒の先でようやく目が合って、それは一言だけつぶやいた。


「ごめんね」


赤い光で瞬間的に空気が割られる。電流が流れるような衝撃でぼやける頭で考えた。やっぱりもしもの話なんて嫌いだ。絵空事なんてろくなもんじゃない。ざまあみろ。
視界が閉じるその前に。絶対に言わなかったことを、わざとらしいくらいの穏やかな顔で声に乗せた。


「ひどいやつだよ、おまえは」





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身 放されたい

(どちらが?)

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