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お手を拝借(鳶泥)

投げ出された手がいつかのように見えて少しだけどきりとした。なんて言ったら、信じてくれるだろうか。
転ぶという字に寝ると書いてうたたね。語源がどうかなんて知らないけれども、まさにこれは読んで字の如く。試作品であろう彼らはとうとう日の目を見ることはなさそうだ。とはいえ、勝手にいじるとどうなるかは想像に難くないのでそれには触れず、かわりに土の塊の間で同様に転んでいる作者の手の方をとってみる。つぎはぎの先は当然ながら今はしっかりと繋がっていて異形のそれも健在。真一文字に閉じられてはいるもののぷらぷらと弄ばれるまま、起きる気配なんてまるでないのが可笑しい。これはもはやうたたねの域を越えている。流石のこの人も睡魔の前ではおとなしかったようだ。
特段大きいわけでもないその手は、よくよく見れば季節柄なのか扱う素材の所為なのかずいぶんと荒れてしまっている。当人はこんなものなんともないと言うのだろうけれど。
かさつく指に、いつかのことを思い出す。もしもあのまま戻らなければこの手が再び作品を生み出すことも、それによってこんな有り様になることも、こうしてなにかに触れることも全て、なかったのだ。いくら知っていてできる無茶もあるとはいえ千切れた手が元通りになるだなんて普通のことじゃないし、だから千切れたって構わないというのはまともな発想じゃない。でもこの組織ではそれが可能だった。
知っていたから?そうじゃなかったとしたら?
その手で生み出す芸術とやらは、この人には生きることそのものだろうに。
無鉄砲、というわけではない。むしろ意外なほどに洞察力にはすぐれているし、聡い人だ。それでいて自尊心もなかなかで短気なところもある。まあ、それがらしいといえばそうなのだけれど。
知っていてできる無茶。それは油断なのかわざとなのか。はたまた信頼、なのか。例えばこのうたたねはなんと呼ぼう。問いかけようにも手の主はぐっすり眠っている。今は手袋越しでもわかるくらいにあたたかいそれ。あのとき引き千切れた腕を、姿を、みてもなんとも思わなかったはずが。


「…罪つくり」
「んなもんつくってねーよ」
「起きてたんすか」
「わりと早いうちからな」
「わーいなんで喝されなかったんですかねボク」
「する理由が見当たらなかったから」


寝ぼけているのかと思うようなお言葉をしっかり開いた目から賜る。油断、わざと、まさか残りのひとつだとでも言うのだろうか。にやにや笑う表情に、頭を一回転。これはわざとだ。


「ねえ先輩」
「なに」
「手、だいじにしてくださいね」
「わかってるよ」


一体どこまでなのかは知れないがそれでいい。この人は、思いのほか聡いのだから。触れ合った手の先からなにか伝ってしまうんじゃないか、なんて馬鹿げたことがよぎってぱっと放した手は、振り子のようには揺れなかった。


「あ、そうだ先輩。手荒れと言えばボクこんなのもってるんですけど」
「なんだそれ」
「なんとっ馬の鬣部分からほんのわずかしか採れないという天然の保湿成分がこの一瓶に!」
「どこのうさんくせえ商人だよ…うん」
「まあまあ、モノは試しですってば」


再び目的をもって触れた手の主は、こういう時は存外素直に従ってくれる。罪悪感なんかじゃないけれども、どこかしらが痛む気がして一瞬手が止まった。それに気づいた青い目に見られて、浮かんだ言葉を飲み下す。にぎった手に塗る薬は誰のため?


「安心しろよ。試作のテストはお前でしてやるからさ」
「ぜんぜんうれしくないんですけど!?」


ねえ先輩。どうかその手で、
あとにつづく言葉ぐらいなら伝ったって構わないのに。そんな都合のいい思いでつつんだ手もやはり、あたたかいのだから困ったものだ。





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知っていてそうした先輩の手をいたわるのは自己肯定と庇護も含んでるんだよっていう ほ 補足ゥ…
(手締めできない)


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