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みはなされたい(泥鳶泥)

言葉に有効期限なんてものがあるのなら。そんな話をしている。


「嘘になるとまでは言わないですけど、時が経っても変わらないとも言い切れないものですし」
「その瞬間確かにそう思って言ったんなら嘘にはなんねえし、言われた瞬間感じたことだって確かなもんだろ。よくもわるくもな」
「先輩ならそう言うかなって思いました」


案外こいつの微妙な空気のゆれはわかりやすい。こういう話題を振ってくる時は普段とは別の調子で殊更しゃべる。面倒なのはいつだって変わらないのでそれ自体はさして問題でもないんだが、こうやって自分であらかじめ決めていたような答えをほしがるのがすこし、気に食わない。誘導尋問に乗ってやっているつもりはなくても結果そうなっているようでこちらとしては面白くないし、気に食わないものはどうにかしたい性分。軽く息をついて俯いた橙に、こちらも一度は伏した目をぐるりと持ち上げる。かち合わせた視線に対してわざとらしく傾げられる小首。口元から旋回する言葉を差し向ける。じゃあ、そうだな。


「お前の全部なんか知ったこっちゃねえ、けどその全部、置いてついて来いって言ったら?」
「それも悪くないかも」


力なく笑う音がした。



「どこいくんですか」
「しらね」
「いいんですか」
「まあオイラはどこだろうがやってけるしな、うん」
「先輩ひとりじゃ不安だなあ、生き急ぎそうで」
「お前がいんだろ」
「…すごい口説き文句っすね」
「暁にゃそれなりに恩もあるし、情もあるっちゃあるけど」
「情」
「そう情」


何が変わるわけでもないはずの、小さなもしもで歩いている。
連れ立つ男が途切れた会話をしりとりのようにとって、再びそっと流れにもどす。じわりじわりと浸食するそれを軽い感じで受けとめる。なんだよお前さみしいのかい。ぼんやり浮かぶ橙色を仰々しく目にいれて、オイラがいるのに。なんて言ってやればめずらしくくつくつと笑った。


「そうですよ、薄情でしょ?」
「オイラが知ってるお前はそういうやつだから別にいいよ」
「わあ寛大」


ほんと、なんでねえ、デイダラさん、
自分で言った言葉にひっかかって、ぽつりぽつり、形の定まらない切れ端を吐いている。灰色の空は夜に内側から膜をはっているかのようで、いつものようにとけてはいかない。むしろその黒がいっそう、際立っている。もしかしたらこちらが外側なのかもしれない。トビ、と呼びかけるとすこしあいていた互いの間の空気がふるえてじわりとにじんだ気がした。


「なんか、ねえのかよ。やりたいこととか、行きたいところとか」
「…なにもないですよ、オレには」
「だから先輩についてくって言ったじゃないですか」
「ここまできたんだから責任とってくださいよ~?」
「ほーんと、見捨てないでくださいよね」
「なんちゃって。ボク知ってますよ」
「先輩はそんなことしないんだもの」


すらすらすらすらと。これ見よがしに浮かべられる言葉達。起爆粘土で爆破できるもんならとっくにやっている。専門外だが、目には目を。


「そんなこと言っておきながらさいごまではついてこないんだろ」
「なに言ってんすか~趣味、先輩のお供は伊達じゃないっすよ?」
「お前がなんで今こうしてるか当ててやろうか」
「いま、なんて目に入ってないからだろ」
「バレてねえと思ったか?丸わかりなんだよ」
「よくしゃべる奴。それなのに、そのくせに、この期に及んでも何ひとつ言いやしない」
「さっきも言ったが別にそこを追求する気も拘る気もねえよ。ただな、」
「あんまり先輩なめてんじゃねえぞ」


膜のような灰色が、ふいに一部分だけ取り除かれた。仄かな明かりでゆらゆら足元がゆれる。満月だった。ちょうど線で結んだように、その下にはトビがいる。まるでそれを背負っているかのように。


「ねえ先輩」
「なんだよ」
「ボク先輩のことすきですよ」
「そりゃどういう意味だ」
「そのまんまの意味です」


どっちも馬鹿だ。救いようなんてない。距離がつまる。肩を掴まれる。空洞のような黒の先でようやく目が合って、それは一言だけつぶやいた。


「ごめんね」


赤い光で瞬間的に空気が割られる。電流が流れるような衝撃でぼやける頭で考えた。やっぱりもしもの話なんて嫌いだ。絵空事なんてろくなもんじゃない。ざまあみろ。
視界が閉じるその前に。絶対に言わなかったことを、わざとらしいくらいの穏やかな顔で声に乗せた。


「ひどいやつだよ、おまえは」





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身 放されたい

(どちらが?)

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