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しらじらしいはなし(鳶泥)

蝉が鳴くのを止める頃になっても、不本意そうな顔はそのままだった。
まあこの人は派手好きだし、などと独り合点しているトビの隣で黙々と足を運んでいるデイダラ曰わく地味な任務は、数年前に廃された寺が蔵している書物の回収。何が書かれているかなどはどちらも知る由もないし興味もないが、どうもいまいち乗り気でないのはめずらしいことにデイダラの方。その理由は単純明快。トビの独り合点もあながち間違いではない。


「こういうのはイタチと鬼鮫とかのが適任だろ、うん」
「仕方ないでしょ~手が空いてるのボクらしかいなかったんですから」
「せめてとるもんとったら爆破していいなら…」
「だめですって!今回特に隠密行動って言われてるんだし」


さらりと物騒なことを言うデイダラをトビが窘める。が、隠密でなければいいという問題でもないのでどっちもどっちだ。今回はいつも以上に秘密裏に動く必要があるらしく行動は日が落ちだしてから、十八番を使っての移動も禁止。こうして人里離れた山道を地道に歩いている。


「それにやめといたほうがいいッスよ」


ここらへん、出るらしいです。
人差し指を立て、もったいぶったように小声で言う。この状況下で出るといえば思い当たるものはひとつしかない。わざとらしくこわーいなどと身を竦めてみせる姿に呆れながらもデイダラは構わず歩を進める。虫の声と青緑の夜の風景がすり抜けていく。つれない様子に不満げな男は、何もない草陰なんかを指差しては気を引こうとするが結果は風景宜しく。終いには隣を歩くその人自身を差してこう。


「あっひとつ目小僧だ」
「お前が言うな」
「ボク小僧なんて歳じゃないですもん」
「じゃあひとつ目爺だな、うん」
「…大人ですもん」


無駄話をしている間に目的の廃寺に着いた。どこからかひんやりとした空気を漂わせているそれはトビの言うようにいかにも肝試しなどに使われそうな佇まいだが、何分物好きであっても近寄らないような辺鄙な所に建っている。故に廃寺となったのか、廃寺故にそうなのか。どうだっていい憶測もそこそこに本堂へ続く短い階段を踏みしめると、いつ崩れても不思議ではない音で軋んだ。揃って内部を見渡す。唯一の照明は壊れた屋根から入りこむ仄かな月明かり。夜目が利けば問題はないだろう。馴染むまで暫くかかりそうだと入口近くに留まるデイダラとは対照的に不用意にうろつくトビが、やおら向き直ると口を開いた。


「先輩は幽霊っていると思います?」
「いるんじゃねえの。殺しても死なねえ奴もいるような世の中だし」
「あら意外。そういうよくわからないはっきりしないものは信じない方かと…って、これこそボクが言うなって感じですよねえ」


いやに饒舌な男は暗闇の中迷いもせずデイダラの胸の辺りに向けてすっ、と手を伸ばす。黒に包まれたそれはそのまま、ゆっくりと心臓の辺りをすり抜けていく。


「ほら、なんだかわかったもんじゃない」


貫通した手を背中の方で二、三回。ぱたぱたと振ってみせる声に色はない。さながら幽霊、のそれを臆することなく掴んだデイダラは、こう返す。


「お前はトビでオイラの後輩。そこらの幽霊よかは所在知れてんだろ、うん?」


ようやく利きだした互いの目が捉えたのは、語尾を上げてにやりと笑んだ顔と月光で青みがかって見える面。一呼吸、向き合えば。突如として悲鳴がひんやりとした空気を劈く。


「なんだよいきなり!」
「そこっ…その柱の陰!」
「はあ?」


肩の後ろに隠れたトビが指差す先に目をやる間もなく引き摺られるように、幾瞬間。腕を掴んだ後輩の手は、今度はすり抜けはしなかった。
本堂も敷地からも遠のいて、揃って肩で息をして、膝についていた掌を拳にしたデイダラが口を開く。よりも先に重いそれを少し高い頭に向けて振り下ろす。言わんとしていることはわかるらしくだって先輩!とトビがわめく。幽霊なんかいなかったろ、先輩さっきいるんじゃないかって言いましたよね、そう都合よく現れるかっての、でもそういう話してると寄ってくるって、云々。息つく暇もない。


「ったく…まだ目的のもんも見つけてねえってのに」
「あ、それならご心配なく」


じゃじゃーん、と懐から巻物を取り出してみせたトビを訝しげな目が射る。言いたいことはひとつ。いつの間に、だ。


「まあまあ、先輩だって早く終わらせて帰りたかったでしょ」


何はともあれ結果オーライってやつですよ、面に巻物を近づけて言うトビからそれをふんだくり、懐にしまうデイダラ。踵を返して先々歩き出すその背に常套句が飛んでいく。
虫の声。揺れる草木。生ぬるい風の音。そこに浮かべられたわざとらしいんだよ、の言葉はどこにかかっていたのやら。真意は懐の巻物の如く。





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夏だしなんちゃってホラ~
さて ほんとうにこわいのはなにかな?

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