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二泊三日のひきこもり(鳶泥)

《※現代風味》



「しちがつ」
「つゆ」
「明けてませんね」
「見ての通りな」


間延びした声が雨の音に混じって降っている。どうも梅雨といえば思い浮かべるのは6月で、月が変わればがらりと気候も変わりそうなものだが実際そううまくはできていない。テレビの天気予報士曰く、向こう一週間は相変わらずの雨模様。加えて真夏の暑さもやってくるらしい。どっちかはっきりしろ、とデイダラが画面に向けて吐き捨てたのが今朝の話。


「おまえそれ蒸れねえの」
「蒸れます」
「とればいいだろ…」
「先輩がちゅーしてくれるなら」


いち、にの、さん、3ステップで簡単に。CMの謳い文句のような軽やかさで面はからんと床に落ち、目を丸くする暇もなく近づいてきた青に飲み込まれる。


「…冗談だったんですけどね」
「じめじめうっとうしい時に湿気増やしてんなよ」


何食わぬ顔で床に置かれたコンビニの袋を物色するデイダラ。少し多めのスナック菓子にチョコレート、アイスはさっき冷凍室に入れた。籠城する態勢は整っている。退屈しがちな雨の日の過ごし方としては、そう。


「悪くもないと思うんですけど」
「この豪雨で恵みの雨だなんて言うんじゃねえだろうな」
「雨の日に閉め切った部屋って、そこだけ世界から隔絶されてる感じしません?」


まるでここだけ切り取られたみたい、などと言うトビを横目にデイダラは食べかけのポテトチップスを咀嚼しながらおもむろに窓を開ける。白くこもった空から垂直に落ちる雨。すこし手を伸ばせば当然触れる。濡れた手をトビに向けて振るって言うことには。


「映画の見過ぎ」


一蹴。部屋にいながら雨粒を受け苦笑いする男の側にはレンタル店の袋。本日限定全品100円、の響きにつられて足を運んだDVDのコーナーから借りてきたものだ。


「まるで泊まりに来るみたいな言い方ですよね」


二泊三日、とレシートの大きな文字をなぞる。新作旧作をあまり考えずにあわせて借りたDVDは、短いものでそれだけの間手元に置いておくことができる。それと、どういうわけか同じ二泊三日でやってきたデイダラ。交互に目をやって、トビは神妙な面持ちで口を開く。


「100円払わなきゃ…?」
「借りられた覚えはねえよ」


返答は想定内。笑った顔は予想外。


「それにそんなに安かねえし」
「ですよね!」


いくつかの円盤から適当に選んで再生したのは世界征服を目論む悪の組織と戦う正義のヒーロー、というよくある話。アクションや演出が派手ないかにもらしい仕上がりで。なんとなく見ていた目はクライマックスの爆発シーンでようやく少し見開かれ、エンドロールが流れ出してからあれはいい爆発だった、などと頷きながらしきりに称賛しだした。隣でクッションをかかえてボクなら世界なんかより先輩がいればそれでいいですけど、とつぶやいた声は文字通りひとり言と化している。クッションに顔をうずめる。


「なんか言ったか?」
「いや…なんでもないです」


アイスたべます?とクッションを置いて立ち上がったトビに、飯の後でいいと返してデイダラは他のラインナップを物色している。なんの気なしのこれ小学生の時やってたやつだ、の声に冷蔵庫の前で固まる背中。不思議そうな視線に本日二回目のなんでもないです、がしぼんで落ちた。


「晩なにたべたいっすか」
「なんでもいい」
「あ、なんかこの会話新婚さんみたいっすね」
「誰と誰がだよ」
「ひどい!先輩ったら人の唇うばっといて!」


両手で顔を覆っての実家に帰らせていただきます!の声で寸劇は続く。かのようにみえたが、デイダラのお前んちここだろ、の一言であっけない幕引きを迎えた。そうでした、と返すトビも一連の流れに満足したようでけろりとして冷蔵庫を覗いている。


「って言っても、チャーハンくらいしかできそうにないですけど」
「いいよそれで」
「あっこのアイス新作…先輩あとで半分交換しましょうよぉ」
「女子かよ…自分の食いたいもん買っとけっての」
「買いましたよ!でも違う種類半分ずつ食べられる方がお得感ありません?」
「やらねぇって言ったらどうすんだ」
「ボクの選んだやつ見たら絶対そんなこと言えませんって」


雨は変わらず屋根や階段、窓を打っている。テレビの音や話す声も、包み込まれて梅雨の景色。二泊三日と一週間の期限が過ぎれば開け放たれる窓から入れ替わりに、夏がくる。





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ふたりでだらだらすごす梅雨と夏のさかいめ
油断してたら現実世界はだいたい梅雨明けしちゃったけどここはひとつ…なんでもない季節を追ってほしいのだ

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