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ぬばたまのゆめ(鳶泥)

「あっ流れ星」


きっと星の方も聞き飽きたであろう常套句で紺色の空を差す黒に包まれた指先。大抵の場合、一連の動作が済んだ時にはもうお目当ての姿はなくなっている。それを知ってか知らずか、ひとり言に近い呼びかけに空を見上げることもせずそっけなく返した相手は下を向いたまま落ちている枝を拾う手を休めない。遥か上方より遥かに明るい金色が地面の近くで宙に流れてゆれている。それを後目にもう見えない星に向けて庇のようにかざした手は、夜空の下では意味はない。遠くが見えるわけでもなし、ましてや眩しいわけでもなし。ゆるりと降ろした右手のままに屈んで、地面につきかけていた金色の髪を軽く掬いあげる。かち合った視線でぴたりと止まって、揃って立ち上がると先程の流れ星に対するデイダラの反応の薄さにトビが大げさに不平をこぼしてみせる。それに対して口より手を動かせ、と返したデイダラは空いている方の手を爪をたてるような形にして手首を軽く上下させる。獣に襲われるぞと言いたいらしい。


「薪集めなんてどかーんとやっちゃえば一発じゃないっすか?」
「生木はちゃんと燃えねえだろ」


とっとと拾ってこい、とひらけた地面に抱えていた枝を置きデイダラは踵を返した。焚き火は野営に不可欠だ。忍であれども野生の生き物を甘くみるべきではない。炎は身を守るため。暖をとるため。辺りを照らすため。
しょうがないとでも言いたげな素振りで、残されたトビも周囲に落ちている枯れ枝を拾い歩く。適当な量を集めて戻ってみれば、デイダラの姿はまだない。同じように抱えた枝を先程の上に重ね置き、印を結んで息を吸う。軽く吐く。一瞬、面の下の白い肌が炎に照らされ面と同じ色に染まった。戻ってきたデイダラの目に映ったのはいつもの面と橙色に燃える焚き火。いつのまに、と問う声にボク火おこし得意なんですよね、と返してみせた表情は見えない。


「知ってました?」
「知らねえよ」


座り込んで追加の薪を火にくべながらデイダラが一蹴する。ごもっとも。少し空けてトビも隣に座る。ぱちぱちはぜる音の間でちっとは役に立つこともあるんだな、と声をかけられ、でしょう?と首を傾けてみせた。


「流れ星に願い事すれば叶うって言うじゃないですか」


時折たちのぼる火の粉を目で追って、懲りずに話題を戻す。てっきり先輩なら何お願いします?とでも尋ねるのかと思えば。もし今夜もう一回見れたなら、の前置きの後に続いた言葉はてんでばかげているがどこか冷ややかに真剣だった。


「世界征服とか、どうですか」


黒い燃え滓が炎をまとって舞い上がり、煤になる。暗闇と紺色の空の間でいつのまに、どこに消えるのかはわからない。ぱち、と小さくはぜる度に辺りの澄んだ空気は熱と煙をはらんで少しこもっていく。
でも三回も唱えなきゃいけないなんてケチですよねぇ、と黒に包まれた指を三本立てて軽い感じで空を仰いだトビにそりゃ星も身軽で流れたいんだろ、と伏し目のまま笑ったデイダラ。長めの木の枝で空気の通り道を調節すると炎は少しだけ勢いを増した。瞳の青に輝く橙が映り込む。


「先輩そういうの信じない人ですよね」
「流れ星はきらいじゃねえけどな、うん」
「三回なんて言えなくたって先輩とならできちゃう気がするなあ、世界征服も」
「なんだそれ。まあ、暁の目的はそれに近いもんもあるだろうけど」


青い目は少し細められ、炎と一緒にゆれている。最近は移動がてらのちまちました交戦が続いていた。今日は挙げ句に日が暮れ近場に町もなく、粘土のストックも残り少ないということで、こうして野営する羽目となったのだ。火をおこしたからには念のため、見張り番も必要だ。枝が燃えていく音と同じぐらいの声量で先輩、と隣から呼びかける声。青い目は顔ごとそちらを見た。


「ボク平気なんで寝といてください」
「寝不足で足手まといになられても困るしお前寝とけ」
「先輩眠たいんでしょ」
「しばらく火の番しといてやるから」
「…じゃあもう、ふたりで起きときます?」


ぱちぱち、青い目で、橙色が燃えている。じっと見ているそれはなにも言わない。引き込まれる。いつものようになんてね、と。それだけ言えれば何事もなかったかのように眠れたものを。すっと伸びてきた手が黒をつかんでひっぱる。少し空いていた間は詰まって、バランスを崩しそのまま地面に傾く。土の上に広がった外套。裏地の赤にも辺りの闇にも、どうにも映える金色を、黒が覆い隠してしまう。番をする人間がいなくなった焚き火は次第に燻り消えてしまった。獣に見つかろうが文句は言えない。なにがあろうと、誰も。誰にも。




「忍なんざ明日をも知れぬ身だろ」


まあオイラはそう易々と死ぬ気はねえけど。ほどけた髪を結い直し、首から胸元に流れた残りを後ろへかき上げ元どおり。炎の影はすっかりない。


「じゃあなんで、」
「なんでかね」


辺りは仄かに明るく日の出も近いようだ。明日はやって来た。結局は、そういうものなのだ。
埃っぽくなった外套をはたき、朝の空気を取り込んでふわりと羽織ったデイダラはいつものように一言でトビを呼ぶ。それに応えて立ち上がり一歩踏み出す。消し炭にもならずに黒と白の灰になった枝は踏まれてぱきりと鳴って、風に紛れて消えてしまった。





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(枕詞はピロートークの和訳じゃない です)


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