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せせらぎ(鳶泥)

裾を両手でたくし上げ歩く様は、どこかでみたことがあるような気がする。
ぼんやりとした既視感でゆれる姿と水面が、日の光をちかりと反射して明瞭になった。裸足で水を蹴る様子はなんだか楽しげでめずらしくも思え、こうして傍観を決め込んでしばらく。実際めずらしい話だ。率先して寄り道をしたがる自分をさしおいて、用もないのにこの人が足を止めるなんて。外套を濡らさぬよう両手は塞がっているというのに、普段と変わらぬ身軽さで飛び回っている。文字通り止まっているというわけではない。重い外套なんてそこの岩の上にでも置いておけばいいのに。
そろそろなにか声をかけたくなって適当に口を開く。足、切らないでくださいよ。川の中の石は思っているより鋭利だったりする。声に気づいてこちらを見た顔がにやりと弧を描いた。ただのわるいかおだ。


「岩隠れ育ちなめんなよ」
「抜け忍があんまり大きな声で言うもんでもないですけどね」
「うるせ」


対岸の岩に飛び乗って腰を下ろすその人は、岩場には慣れていると言いたいようで。ぶらぶらさせている足には傷のひとつもあるはずなく。森に囲まれた岩場を流れる小川はさしてめずらしいものではないし、服や体がよごれたわけでもない。しいて言うならば、本日の空模様は快晴。それぐらいだ。
木漏れ日の中、水面は静かに流れている。魚はいるのだろうか、なんてどうだっていいことを考えてみる。道草や寄り道に明確な意図なんかなくて当然なのに、普段と逆の立場になるとどうにも。この人がこういう風な時は決まって芸術とやらが絡んでくる。そのことぐらいは知っていたはずが、気づくのが一足遅かったようだ。突然の水しぶきに声をあげる間もなく頭からずぶ濡れた。
振り返った先には羽をばたつかせる白い鳥。見慣れない姿は見慣れた造形でつまるところ、あそこで片膝を立てて笑っている芸術家の作品であることは明白。光と水のせいでぼやける視界をしばたいて、とりあえず間延びした声で不満をあらわせば反対に満足げな様子のその人はひらりと岩から飛び降りた。


「なんなんすか、この生き物…」


長いくちばしの喉のあたりが袋状に垂れ下がったそれは人に水を吐きかけたっきり、自由に川辺を行ったりきたり。その頭をひと撫でして作者はモチーフについて簡単に説明する。ペリカンという鳥らしい。


「水と一緒に魚を捕って、水だけ吐き出すんだそうだ」
「へえ…器用なもんですね」
「陽動なんかに使えねえかと思ったんだが…やっぱいまいち威力には欠けるな、うん」
「ボク実験台っすか」
「涼しかったろ」


あいかわらずの顔。多分実戦向けの試作、というわけでもないのだろう。せっかくなので野暮な疑問は飲み込んで笑っておいた。賢明な判断だ、我ながら。


「川遊びとかさ、しなかったか?」


言葉尻にあわせて川に石を投げる。大きく二回跳ねたかと思うとすぐに沈んだ。少し苦い顔で向こう岸をにらむ目が可笑しい。


「どうでしたっけね~あんまり覚えてないです」


同じように、平たい石を拾ってなんとなしに投げてみる。一二三四五、六。思いのほかよく跳ねた。


「やだねえ。年食うとこれだ」
「そりゃ先輩よりは大人ですけど…」


今日は尚更。と、皮肉っぽい部分は心の中でなぞる。なんとなく今は、荒立てたくないと思った。
見るといつの間にか足元を整えたその人はもう、先に向けて歩きだそうとしている。切り替えがはやいというのか、なんというか。ねえ先輩、と呼びかけると普段より丸い目が振り向いてこちらを見る。


「もっと寄り道してもいいんですよ」
「お前はそればっかじゃねえか…」
「その方がボクも普段から言い出しやすいですし?」
「目的わすれんなよ」


そう、笑って一言。たまに核心をつくようなことを言うのだ。もっとも、他意はないのだろうけれど。今はなんてことはない任務中。ぜんぶ、なんてことはない途中のはなし。川の流れる音に後ろ髪をひかれながら、前をゆく金色を追いかける。





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あそぼうシリーズ第二段は川であそぼうです
(第一段は町であそぼう)
たまには先輩だってあそんでもいいじゃんね ね

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