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アマレット(鳶泥)

《※現代風味》



昔、近所に住んでいた妹分をあやしたことを思いだした。どこにもいかないで、なんてちいさな子どもが言うには可愛いげもあろうものの。胸元に縋る筋張った手は明らかに大人のそれで、服をつかむ指もかわいくもなんともない。のびるからやめろ、と窘めたのは何年前の話だったか。まさか今頃、それも年上の男に向かって同じセリフを吐く羽目になるとは。さらに聞き分けの悪さは子ども以上ときたもんだ。いやですじゃねえだろ。まるで意味が分からない。揉めたわけでもなければ帰ろうとしたわけでもない。ただいつものように他愛ない話をしていただけだ。昔住んでいた町、口うるさいジジイ、近所の妹分や弟分。全部もう過ぎた思い出話。めずらしく聞き手に徹していたと思ったらこれだ。こいつがあまり昔の話をしたがらないのは知っていたが、知っているからこそ、そこはよく知らない。
硬直状態を数分間。指先以外も動かせることを忘れてしまったのかと思っていたら、ぼそりと動いた口から声がこぼれた。普段めったに名前でなんて呼ばないくせして。デイダラさん、と馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返すそれがあまりに頼りないものだから、もてあましていた両手で胸の前にある頭を抱き込んでやった。消え入りそうな声に頷いてあやすような心持ちで触れた手に、ようやく服をつかんでいた指はほどかれそろりと背中にまわる。不気味なほど静かな部屋で、どちらともなく床に沈む。どうかしている。どちらが、なんてことは知らない。


「…すいませんでした」
「泣き疲れて寝るとか、お前本当…ガキじゃねえんだからよ」
「泣いてませんよ!」
「便利なもんだなぁ~その面」
「泣いてない、ですけど、なんかその、安心したというか…」
「どっちにしろガキと一緒だな、うん」
「…返す言葉もないです」


なにもなかった。あるわけがない。万が一あるにしても、こんな状態で何も聞かずに受け入れてやるほどこっちもお人好しじゃない。ただ、直に床の上で一晩越してしまったものだからあちこち痛んでしかたがない。だから絨毯ぐらい買えって言っただろうが。抱き竦められていた腕がほどけず、一発蹴りを入れてたたき起こしたのがついさっき。なんでそんな体勢で熟睡できる。繊細なのか図太いのかはっきりしろ。
言いたいことは山ほどあったが、時計を見て一旦全部飲み込んだ。今日の講義は休むわけにはいかない。帰るんですか、の声に行くんだよ、と返して着の身着のままドアノブをひねる。単位落としたらお前のせいだ。捨てゼリフと一緒に飛び出した。


「後でおぼえとけ」


終業を告げるチャイムが鳴る。
なんとか出席日数を確保し、移動しようと席を立ちかけると妙な話が耳に入ってきた。いやな予感しかしない。得てして、こういう時の勘はよく当たるもんだ。外れてほしいと思いながら、事の詳細を隣の席の奴に尋ねる。とにかく中庭に行ってみろとのことらしい。幸か不幸かそれはこの棟の裏。廊下の窓から外を覗くと、遠目にも目立つ色をした見知った仮面の男が見知らぬ人間と談笑している。他にいるわけがない。というか何人もいてたまるか、こんな奴。


「あ、せんぱい」


じゃないだろう。知り合い?先輩?何科?でもない。ちょっと外野は黙れ。こっちが聞きたいのはただひとつだ。


「なんでいんだよオイ」
「今朝定期入れ忘れてったでしょ」
「わざわざ持ってこなくてもいいだろ…」
「だってもったいないじゃないッスか!塵も積もれば、ですよ?先輩すぐ金欠だなんだって言うんだから」
「お前はオレの保護者か!」


昨日とは逆だな、と皮肉ろうとして思いとどまったのは正解だ。周りがざわついている。ショートコントじゃねえよ。謎のお面野郎がいて、それと知り合いってだけでも十分注目の的なのにこれ以上話題を提供してやる必要はない。今朝の言いたいことも消化しきれていないというのに、聞くべきことが追い討ちをかけてやってくる。少しでいい。休めるだけの時間をくれ。だがまずは目の前の事態を収拾させるのが先決。有無を言わせず黒い手袋をはめた手首をひっつかむ。毎日粘土こねてる人間の握力なめんな。軽い人だかりを抜けて人気のない棟へ辿り着くと、壁にもたれかかってもう一度同じことを尋ねた。なんでいるんだ、と。


「先輩の今を見に、なんちゃって」
「部外者は立ち入り禁止だろ」
「守衛さんにあいさつしたら普通に入れてくれましたけど」


流石変人の坩堝。確かにここではその面も妙に馴染んでいる気がする。実際先程も奇異の目というよりかはむしろ、好奇心丸出しの人間がほとんどだったように思う。仮面と先輩呼びのせいで年齢不詳に見えるが、大概いい歳なのだと伝えてやりたい。まあ、正確に知っているわけじゃないけれど。我ながらなんでこんな奴と関わりをもっているのか疑問でならない。何も知らない。自分だって例に漏れずまともではない。


「で、本当のところは?」
「昨日は本当に大人げなかったなと思いまして…」
「自覚はあったんだな、うん。あのままオイラが姿を見せなくなるとでも?」
「あ、そこは心配してなかったです。先輩言いましたよね、後でおぼえとけって」


だから、じゃない。どんな前向きな発想だ。とはいえ昨日とは打って変わったいつもの調子に少し不服ながらも安心して、このままとっとと帰してしまおうと口火を切りかけた時。意外な方向から先手を打たれた。息を吸う音がする。


「昔ね、大切なひとが急にいなくなっちゃったことがあって」
「誰かの思い出話とか聞くのは大丈夫なんですよ?なんですけど、」
「なんでですかね。昨日は少しだけ、こわくなっちゃって」


少し距離を詰めて、見慣れたオレンジをノックするみたいに軽くこづいてやる。こつ、と中身にあたる音がした。


「ひでぇ顔」
「…見えないでしょ?」
「こちとら泣いてんのもわかるんだぜ」
「だから泣いてませんってば!」
「なんの意地だよ、それ」


あれだけ情けない姿みせといて今更。そう言って笑ってやったらいつもの顔に戻った。始業を知らせるチャイムが鳴る。


「ちゃんと帰れよ」
「わかってますって」
「あと帰り寄るから」
「…はいっ!」


歯切れのよい返事の後でひらひら手を振っていった背中を見送りながら思い出した。定期入れの礼を言うのを忘れた。そこはまあ、帰り道コンビニにでも寄っていけばいい。甘いものでよろこぶことぐらいは知っているのだ。
日も高くなりだした頃合、鳴り終えたチャイムの余韻の中ひとまず作業棟へと足を向かわせる。遅刻のペナルティは三回目から。問題なんてない。





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おいていかれるのがこわい後輩はだめさ3割増(※当社比)
寛大すぎる先輩にトビデイ…トビ…?ってなるのはいつものこと(※トビデイ)

場所柄不審者扱いされないお面が書きたかったんですが相変わらず設定はふんわりしてます 先輩は美大か専門生

アーモンドリキュールの名前だとばかり思っていたアマレットにイタリア語で「すこし苦いもの」「友達以上恋人未満」という意味もあると知ってうおおおとなった奴がこちらです 

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