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颯と突き抜け春嵐(鳶泥)

春に降るにわか雨を春驟雨、というらしい。
説明するトビにそのまんまだなと言うデイダラ。急に降り出した雨の中、立ち往生する笠がふたつ。その上では雨粒が跳ね、足下からは土の匂いがする。ぬかるんでくるのも時間の問題だろう。外套の裾がばさばさと風にはためいている。泥が跳ねても目立ちにくい色だとはいえ油断は禁物だ。


「にしても、こんなに降りますかねぇ。にわか雨ならすぐやみそうなものですけど」
「嵐になりそうだな」
「風もつよくなってきましたしね」
「飛ばされんなよ」
「先輩こそ」
「オイラが多少の風に負けるわきゃねえだろ、うん」
「そりゃまあそうでしょうけど…先輩小柄ですし万が一ってことも」
「お前だって背丈の割にひょろいくせに」


からかう口振りを慣れた様子で一蹴し、懐に手を入れたデイダラが二本指を立てるとお馴染みの真っ白な鳥が姿を現した。どうやら飛ぶつもりらしい。この天候の中を。


「え、本気ですか。一旦どこかで雨宿りした方がいいですって」
「こりゃちょっとやそっとじゃやまねえよ。どうせ蛇行で行ったって濡れるもんは濡れんだし、嵐に乗じて突っ切った方が早いぜ」
「…先輩、雷とかではしゃぐタイプでしたっけ」


トビの呟きに耳を傾ける素振りもなく、どこか楽しげなデイダラはひらりと白い背に飛び乗った。雷遁苦手なくせして、と小さくこぼしながらもそれに続くトビ。こういう時の先輩は殊更聞く耳をもたないので、大人しく従うに限るのだ。時と場合によっては、この後輩だって聞き分けがいい。雨がいよいよ激しさを増していく中、お構いなしとばかりに大きな鳥はふわりと舞い上がった。かぶった笠を打つ雨音がうるさい。しかし、それに負けないぐらい今日のデイダラは饒舌だ。


「なんかなぁこう、だーっとひと思いに降りゃ季節も変わる気がすんだろ」
「だーっとひと思いに降られてるボクらの季節は逆行してる気がしますけどね」
「そんなに寒かねえだろ」
「体感温度は結構なもんですよ」
「まあちょっとの辛抱だ」
「鳥さん大丈夫ですかこれ」
「オイラの芸術はそんなヤワにできてねえよ、うん」
「でも雷落ちてきたら?」
「うるせえ」


トビの心配を余所に先輩ご自慢の芸術作品は大の男ふたりを乗せて、荒れた空をまっすぐ進んでいく。さらに勢いを増す雨。吹きつける向かい風。笠を押さえる手を離し、うずうずした様子のデイダラが何か言った。聞き返す間もなく、加速。


「っえぇ!?ちょ…ちょっとせんぱぁい!」
「落ちるんじゃねぇぞトビィ!」


向かい風を押し返すような勢いに、頬に当たる雨粒が痛い。もっとも、ぎゃいぎゃい騒ぎ立てている方は頬など出てはいないのだが。まるでこちらの方が何もかもをふき飛ばす風を生んでいるかのよう。めずらしくデイダラが声を上げて笑った。


「すっきりしただろ?」
「もう全身びっしょびしょですけどね…」
「あー明日は晴れるな、うん」


ぬかるんだ土を踏む足音がふたつ。つま先を泥まみれにしながらも晴れ晴れした様子のデイダラにつられたのか、頭についた枯れ葉をとりながらトビも笑った。ついさっきまでそこにあったはずの笠はふたつとも行方知れず。財布役にどやされる、なんてことは後で考えればいい。相変わらず雨は降り続いているが、なんだかもやがひとつ晴れたような、そんな風にも見える。


「先輩、桜が咲いたらお花見とかどうッスか」
「まずは任務な」
「とりあえずは宿でしょ」


降り立った先は目的地の最寄りの町。ほころびかけた桜並木を見てこれが咲く前でよかった、などと見頃には忘れてしまっているであろう町の木々を勝手に案じてみたのはどちらだろう。ずぶ濡れの袖を振りながらボク服乾かしたいですと言うトビの意見はごもっとも。すっかり重たくなった外套にあらためて目をやって、ふたり揃って破顔した。春の気配の嵐の後は、果たして春と相成るものか。とりあえず、明日が晴れれば言うことはない。





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フラッドの春の嵐を聴きながら!
うちの先輩は春がお好き
たぶん近いのは雨の中ジェットコースターに乗った時の気分

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