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めぐる、めぐる(鳶泥)

《※現代風味》



等間隔に立っている街灯と街灯の間、吐いた息は明かりに照らされほんの一瞬きらきら光る。すぐに夜の空気にとけてしまうそれに儚さをなぞらえて寒い夜道でご高説を承る羽目になったのは、今年の頭頃だったか。この季節特有の感情にさいなまれながら男はまた息を吐いた。この寒さだ。さぞ赤くなってしまっているであろう鼻や頬は、橙色の面に阻まれて確認することは容易ではない。黒のコートと赤いマフラーの上のそれはこの界隈ではもはや見慣れたものとなっている。
人気の少ない住宅街を歩いていると目に入るのはカーテン越しに部屋からもれるあたたかそうな明かりだけで、ついこの間まで姿を見せていたクリスマスの飾り付けの名残など微塵も感じられない。切り替えが早いというか、なんというか。そんなに急いで新しい年に向かうことなんてないのに。呟く男は口振りとは裏腹に足早に町を行く。腕に提げたビニール袋が風に吹かれてかさかさ音を立てている。風をしのぐように小走りで駆け込んだ目の前のマンションこそが、目的地だったらしい。


「お届けものでーす」
「間に合ってます」
「あっ、ちょっと先輩!」


ドアを挟んで使い古された定型のやり取り。半開きの隙間に提げていた袋の中身を見せれば、入れよの言葉と共に一人分の入口が開かれる。まるで怪しげな取引の現場だが、中身はみかんだ。


「近所の人にたくさんいただいちゃって」
「お前んちにおいたままでもどうせオイラも食うのに」
「だってウチこたつないんですもん」


みかん食べるならこたつでしょ、と言いながらワンルームに鎮座する冬の風物詩の上に袋を置く。上着や手袋、防寒具を全て外して手を洗いには行くくせに一番違和感のある面だけはそのままでこたつにもぐりこんだトビを、斜めに座ったデイダラは訝しげにじっと見つめてみたが背中を丸めてくつろぎだしたのであきらめて袋の中のみかんに手を伸ばした。


「はあ~やっぱりこたつはいいッスね~」
「そんなに言うなら自分ちに買えよな」
「ボクの部屋狭いの知ってるでしょ」
「あんま変わんねえだろうが。暖とりたいだけならよそ行け、よそ」
「…そうじゃないです」
「知ってるよバーカ」


手近にあったみかんを同じ色に向かって投げつける。100点。短い悲鳴と共にこたつ布団の上に転んだそれを拾い上げて皮をむきだしたトビを後目にデイダラは時計を見た。あと数分で今年も終わる。


「ボク豆電球の明かりってあんまり好きじゃないんですよ」
「うん?」
「寝室とかについてるあれです」
「…ああ、オレンジ色の」
「なんだか怖くないですか、トンネルの中みたいで」
「そんな色の面つけてるくせに」
「オレンジ色は相手の緊張をやわらげて、陽気さや親しみを感じさせる色なんですよ~」
「何色だろうが渦巻いた怪しい面つけた奴を警戒しない奴はいねえよ、うん」
「先輩は警戒しました?」
「どうだったかね。つうかその効果通りならなんでお前は豆電球を怖がんだって話だよ」
「…、だから先輩今日は一緒に寝てくだ」
「もっぺんぶつけられたいか」
「まだあるんでいいです」


トビの手元のきれいにむかれたみかんは、一房ずつ同じ色をした面の下へと吸い込まれていく。いちいち面をずらしてものを食べるのは面倒ではないか。デイダラは常々そう思っているのだが、他言はしないようにしている。聞いたところで返ってくる答えは毎度はっきりしたものではなかったし、人にはそれぞれ事情があるのだ。にしても、通常では考えがたい仮面をつけての生活を受け入れているデイダラも相当懐が深い。もしくは、負けず劣らず変わっている。


「今年も終わるな」
「ですね」
「実感ねえけど」
「ボク、クラッカーとかもってきちゃったりして」
「…なにすんの」
「鳴らすんですよ!カウントダウン!」


みかんと一緒に入れられていた小さなビニール袋には、少し大きめのパーティークラッカーがふたつ。鼻歌まじりに封を開けひとつをデイダラに、もうひとつを自分で持ったトビが時計を見る。秒針が進むのをこんなにも真剣に眺めるのは一年のうちでもこの数秒間ぐらいだろう。3、2、1、小気味よい音と色とりどりのセロファンでできたカラーテープがきらきら宙を舞って、新年を祝う言葉と共に降ってくる。


「チャチな爆発」
「100均のクラッカーですからその辺は…それにあんまり派手だと危ないでしょ、夜も遅いことだしお隣さんに怒られちゃいますよ」
「景気よく鳴らすためのもんなんだし、どうせならこの一瞬にもっとインパクトのある爆発音と仕掛けを…」
「せんぱい聞いてます?」


クラッカーとつながったセロファンをくるくると巻き取りながらトビが投げた言葉はクラッカーの中身よろしく降って落ちた。後片付けは楽なようにできている。時折何か呟きながらまだ考えこんでいる様子のデイダラの顔を覗き込んで新年早々物騒ッスよ、と言えば青い目がそちらをちらりと見やって一言。


「新年もなにも、年越したからって今すぐ何か変わるわけでもねえだろ。代わり映えしないツラも目の前にあるし」


折角まとめたセロファンがまた散らばった。気にする様子もなく、思考に区切りがついたのかデイダラは先程まで渦中にあった手元のクラッカーとトビの前の散らばったそれとを適当にまとめてビニール袋に入れる。クラッカーは末路を辿るのが早い。こたつ布団をひっぱり上げ肩の辺りまですっぽりと収まったデイダラを見て、ようやく我に返ったらしいトビが仕切り直しとばかりに口を開いた。


「ね、今から初詣行きましょうよ」
「やだよ寒ぃ」
「なに言ってんすか若いのに!」
「そういうこと言うの年食った証拠だぜ」
「先輩ったらなんてことを…ボクだって若いですもん!まだ!」
「年齢不詳が随分大きな口叩きやがるな」
「あーもうっ細かいことはいいじゃないですか!出店でなんかおごってあげますから、ね?」


たこ焼き、りんご飴、ベビーカステラ。三つばかり思い浮かべたところで、こたつと一体化寸前だったデイダラは立ち上がって上着に手をかけた。豆電球のように光りはしない橙色の面がぱあっと明るくなったように見えたのは気のせいではないだろう。さて、単純なのはどちらか。


「おみくじはひくでしょ…あ、先輩お守りとかって買います?」
「あんまり」
「えぇ~ほら例えば恋愛成就とか」
「へぇ、相手なんかいんだなお前」
「ヤダ先輩ったら!ボクの口から言わせるつもりですかぁ?」
「あと2秒で靴履かねえと先行くからな」
「あっちょっと待ってくださいよ!あと10…5秒でいいんで!」


ブーツの靴紐にもたもたしている間に数秒なんてすぐ過ぎる。ドアを開けると数歩先から面をめがけてカギが飛んできた。戸締まり、とだけ言って歩き出してしまったデイダラを急いで役目を果たし追いかける。何メートルも離れていない距離を走って追いつき、掴んだ手のひらにカギを手渡す。隣に並んでいつものように歩き出す。デイダラさん、といつもは呼ばない名前で呼べば青い目は不思議そうに隣を見た。


「ことしも、よろしくおねがいします、ね」


ふりしぼったような、ごくあたりまえの新年の決まり文句。それが数年ぶりに誰かに向けて口にされたことなど短く返事をしたデイダラは知る由もないが、トビにとっては重大な変化なのだ。
吐いた息がきらきら光る一瞬をきれいだと言えば、またいつかと同じようにデイダラが弁をふるう。はじまったばかりの新年に、去年のいつかに思いを馳せながら最寄りの神社まで。変わらないふたつの白い息が新しい夜にとける、午前一時前。





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なにやら昔いろいろあったらしいトビと、その部分には気長な対応のデイダラさん ここでは時間はあるからね
なんやかんやで一緒に過ごしてる現代パラレルな世界のふたりのちょっと早めの年越し話でした かわらないがかわるはじまり
とにもかくにも、こたつとみかんは正義!


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