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トリックアンドトリック!(鳶泥)

《※現代風味》



近所のスーパーの一角が申し訳程度にオレンジ色に染まりだすと、通りの向こうの生け垣でも同じ色が目立ち始める。そのおかげで常日頃から身につけているこの仮面への違和感も軽減されるのだけれど、反して人に絡まれることも増える今日この頃。通りで小さな子どもに声をかけられた時の為にこの時期はポケットに飴玉を入れて歩いていると話せば、人のことを心身共に不審者扱いしてきたその人は未だに眠りこけている。
いくら起こしても起きない10月31日、午前11時。揺すろうが声をかけようが身じろぎさえしない爆睡っぷりに苦笑いして無防備にさらけ出されている腕の、継ぎ目のような傷痕をなぞる。今もくっきり残るその痕は、昔ヘマやった時のものだとだけ聞かされている。もう半袖じゃ寒い季節だというのに、それさえも通用しないとなればやむを得まい。最終手段を決行する権限はこちらにある。あちこちで子ども達が口にするであろう決まり文句を小声でつぶやけばそれが免罪符。継ぎ目に軽く歯をたてて噛みついた。


「…にやってんだ、お前は!!」


寝起き特有の声と、寝起きとは思えない力の片手で頭をわしづかみにされ引き剥がされる。おはようございます。


「トリックオアトリートでした」
「事後報告か」


寝ぼけ眼をこすりながらなのに冴えた返しは健在で、寝たふりでもしてたんじゃないかと思う程だ。そんなことをしてもこの人に益はないからそれはないだろうけど。


「先輩が寝穢いからわるいんでしょ~いくら声かけても起きやしないんだから…」
「今何時」
「11時ですね」
「なんでお前んちいるんだっけ」
「終電なくなりそうだったし朝ここから出た方が早いからって」
「うん?いま…何時って?」
「11時です」


右頬に決まるストレート。倒れ込んだ板張りの床が痛い。そろそろカーペットを買った方がいいかもしれない。季節的にも、別の意味でも。
なんでもっと早く起こさなかったんだ、と人を足蹴にした動きはもう寝起きのそれではない。なんでと言われましても、先程述べた通りです。起きない先輩と気持ちよさそうな寝顔が悪いんです。なんて、口に出したらどうなるか。当たり障りのない言葉を漏らしながらしばらく踏みつけられていると、ベッドの上で少しの間頭を抱えた先輩は今日は休むと言って後ろに手をついた。その間にあらぬ方向を向いていた面を直し、床にぶつけた所為で少し痛む頭をさすりながら声をかける。


「いいんですか?」
「今更行っても仕方ねえし」


驚くほど潔い。


「とりあえず…お茶でもいれますね」


勝手知ったるその人は、返事もそこそこに既に洗面所へと消えている。紅茶のティーバッグを探す。生憎ひとつしかない。やかんを火にかけると加湿器なんてあるわけもない部屋の乾燥した空気が少し潤うようだった。秋だ。


「ストレートでしたっけ」
「おー」


先輩の分のカップにティーバッグを入れて沸騰したやかんのお湯をそそぐ。不織布の中の茶葉が十分にひらいた後、そのバッグを自分のカップへ。2回ぐらいなら許容範囲だ。ローテーブルの向かいに座った先輩に貧乏くさ、と呟かれたので節約です、と返す。


「お金持ちだったらもっといいとこ住んでますって」
「ここでいいだろ、駅もわりと近いし」


住んでもいないくせにさも当り前のように答える。前に冗談でじゃあ一緒に住みます?と尋ねたら、さらりと自分ちの方が勝手がいいからと断られてちょっとショックだったのは秘密だ。そのくせこんなことを言うんだから、この人は。砂糖を入れすぎた自分のカップをかき回して一口すする。まだ薄かった。それに甘い。


「そこの花屋にですね、おっきなかぼちゃが売ってたんですよ」
「あれ買う奴いんのかね」
「今から見に行ってまだ残ってたらランタンつくりましょうよ」
「オイラ彫刻は専門じゃねえぞ」
「いいじゃないですか、先輩の芸術みたいなぁ」


予定が無くなったからか珍しく乗り気だ。しょうがねえなと言う声はどこか嬉しそうで、節約がどうとか言ってなかったかとにやにや笑いでつつかれたけれど、イベント事には乗る主義ですと胸を張って返した。


「せっかくだから仮装もしません?」
「お前はそのままで十分だろ、うん」


その言葉通り、外に出ればタイミングよく出くわしたちいさな仮装行列に魔法の呪文をなげかけられポケットに入った飴玉をふるまうことになった。まだ日が高いとは言え、流石当日。隣で先輩は訝しげな視線を投げてくるけれど、子ども達はよろこんでいたし問題なんかない。そういうイベントなんだから。


「先輩も言ってくれたら飴ちゃんあげますよほら、トリックオアトリートって」
「いらねえよ」
「え~ひょっとしてイタズラするつもりですか!ヤダ先輩ったらー!…って、なんで何も言わないんスか。あれ、先輩?」
「お。あったぞかぼちゃ」


先ほどの仮装行列宜しく、たのしげな足取りでオレンジ色のかぼちゃに駆け寄る後ろ姿を見ながら身につけた仮面の中身を青く染めた。でもまあ、家にはポケットの飴玉以外に菓子の類はないのでこちらに分はある。いざとなったら飴玉を渡した上で素直にこう切り返そう。
お菓子いらないんでイタズラさせてくださいって、ね。





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一人暮らしのワンルームなのでベッドはもちろんシングルです
先輩が泊まりにきた日はトビは床で寝ます 床とクッションと毛布です(冬場はちょっと冷えます)
そんな感じの現代季節ネタでした イタズラし返してもこいつ更に倍返しするよ先輩!気をつけて!

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