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まほうのへや(鳶泥)

鉛筆が紙の上を走る音だけが響いている。簡素な部屋の中で頬杖をついてもう一人が立てるそれを聞いていた。おもむろに音が止まったので視線をやると、うんざりした様子で口を開くところだった。そのまま続きを聞く。


「必要なもんが多すぎて困る」
「そうですか。ボクは先輩ぐらいですけど」
「え」
「え?」


もう一人こと先輩が、持っていた鉛筆を買い出しリストの上に落とした音で我に返った。同じ文字についてきた疑問符は自分に向けて。一体何を口走っているのだろうか。


「うん、まあ…オイラもそうかもな」
「はい?」
「行ってくれんだろ、買い出し」


久しく見ていなかった気がする笑顔で言う先輩に、完成したばかりのメモを手渡される。外に出される。扉が閉まる。ばたり。その音で状況を把握した。


「…ボケてんのかな、オレ」


渡されたメモを手に乾いた笑いとひとり言を吐く。アジトから買い出しのできそうな町まではそれなりに距離があるので、人目に付くわけでもなく問題はない。そもそもひとり言以前に怪しいところだらけの自分が今更そんなものの一つや二つ。
閑散とした道を歩く。今は一人なんだから術でも使えばいいものを。考えごとする時は散歩しながらって人も多いでしょ、と誰がいるわけでもないのに言い訳じみたことを思ってみる。
平和ボケ、なんて笑ってしまう。どの口が言えるそんなこと。まだ何も成し遂げていないのに。


「ずるいよなぁ…あの人は」


取り留めのないことを考えていても歩いていれば足は進むし町は変わらずそこにある。さっきのメモを取り出し開くと、流石困ると言っていただけあって上から下までびっしりと文字が敷き詰められている。とりあえず上から順番に店を回ることにした。非効率かとも思ったけれど、よく見れば一箇所に訪れるのは一度で済むようになっている。あの人はあれでいて頭がいいから。


「ええっと、後は…」


やっと辿り着いた一番下の行に目をとめて往来で本格的に噴き出してしまった。
ああ、これはもう、ごまかしようがない。平和な町に不審者一丁上がり。ほんとずるいです先輩。


「いつの間に書き足したんだろ」


斜線だらけになったメモに残った最後の文字は『お前の好きな店の団子(種類は任せる)』と、きたもんだ。まいったね。
既に両手は荷物だらけ。これに団子まで加わっちゃうもんだから、さあ大変。いろんな意味で早く帰りたい。けれどもひたすら歩く、歩く。ボクは大した術なんて使えないですから。なんちゃって。それでも歩いていれば足は進むしあの部屋は今のところ、変わらずそこにあるのだからかまわないことにする。






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先輩がいるからいるボク、は何かと自由で不自由
でも個人的なしあわせは結構単純 そんなにむりばっかしなくてもいいのよ
いろんなずるいがあるだろうけど、お互い思っててもきっと本人には言わないんだろうなあ

タイトルはひげちゃんの曲から 君がいなければ急転直下、ってね

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