へえ、と素直に感嘆詞をもらしたデイダラはまじまじと小さな筆を持つ手先を見た。黒い手袋に覆われたそれが同じ色を丁寧に塗り付けていく。
塗り直してあげます。数分前、おもむろに手をとられたデイダラの指先は確かに所々塗り付けられた色が落ちてきていた。不揃いなそれを目ざとく見つけたのは言うまでもなくトビで、一度は別にいいと断ったデイダラをたまには先輩孝行させてくださいとなんだかんだで丸め込み今に至る。
「意外と器用なんだな」
ぽつりとつぶやいたデイダラにトビは、そうですかあ?先輩に褒められるなんてうれしいな~と声をはずませた。その間も手先はぶれないし、はみ出しもしない。一度断った理由のひとつは予想外、の言葉と共に杞憂に終わったようだ。
「片目でやりにくくねえの」
「先輩に言われたくないですよ」
半端な沈黙にデイダラが言葉を投げると尤もな答えが返ってくる。それもそうか。何を今更。そうこうしている間に指先はきれいな黒で整えられていた。おしまい。小さく言ったトビが手を離して顔を上げるとデイダラは自身の顔の位置まで両の手の甲を持っていき、青い目がそれを端から端まで順番になぞる。
「乾くまで動いちゃだめですよ」
また剥げちゃいますからね、片手間にトビが言い終えると同時にデイダラの目が右端にたどり着いた。その青に満足気な色も浮かべて、普段よりも少し明るい調子で言う。
「今度団子でも奢ってやるよ、うん」
「わ、やったあ」
さてと。用は済んだとばかりに立ち上がろうとするデイダラに道具を片付け終えたトビが気づき、服の裾を掴んでとどまらせる。腕を掴まなかった理由は先程述べた通り。
「もういいだろ」
「だめですって!ちゃんと乾ききらないと…」
あ。
二つの声と視線が見事に交わった。その先では金色が黒に染まっている。原因は勿論デイダラの指先。立ち上がった時に流れた髪があたったのか、無意識の内に触れてしまったのか。どちらにしろトビの忠告は後の祭りと化した。
「あーあ…言わんこっちゃない」
「いいよこんぐらい。どうせまたすぐ…」
「だめです。折角きれいに塗り直したのに」
あと髪についたのもちゃんととらなきゃだめです。言われた当人はほんの少しだけ黒くなった毛先をつまみ上げながらなんとも面倒そうである。
「お前、変なとこ細かいな…」
「任せられたからには最後まできちんと仕上げる責任ってもんがあるでしょ」
「その責任感もっと別のとこに生かせよ…うん」
とはいえ間違ったことは言っていなければ、断る理由もない。珍しく振りかざされた正論に観念してもう一度座り込んだデイダラは、結局また少しの間されるがままになるのである。
「ほら手、かしてください」
差し出された手袋越しの手の上にそっと重ねられる手。これ以上被害を広げないよう爪を気づかって行われた一瞬の動作は笑ってしまうほど仰々しく慎重だった。
こういうささやかな時間がトビにとって団子よりも心躍るものであることを、今おとなしく手を握られているデイダラは知らない。
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暁のなにがかわいいって誰もかれもみんな自分であのマニキュア塗ってるであろうところですよ
たまには塗ってもらったりもすればいいのですよ
もうちょっとはわりと手先が器用なトビを推奨してます
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