忍者ブログ
Home > > [PR] Home > *nrt > 一汁一菜を共に(鳶泥)

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

一汁一菜を共に(鳶泥)

食器のかちゃかちゃいう音、そこいらで談笑する声、店員の足音。
先程までとはまるで真逆の環境に置かれてデイダラは不服そうに湯呑みをすすった。これでその他大勢、定食屋に集う人々の仲間入りである。


「先輩目つき悪いッスよ」


向かいに座ったトビがいつもの調子で言う。しかし仏頂面の原因は、まぎれもなくこの後輩にある。いきなり部屋に入ってきたかと思えば粘土と向き合っていたデイダラの、驚く目の下あたりに触れて一言。くま、とだけ言い有無を言わさず連れ出したのだ。この後輩が突拍子もないのは珍しいことでもなかったが、その時の得体の知れない気迫に圧されたのかデイダラもよくわからないまま今に至っている。確かにその目元は一段と陰が濃く、元々つり気味の目つきを更に悪く見せていた。視線の先にうるせえ元からだと返せば、するどく切り返される。


「寝てないんでしょ」
「…寝てるよ」
「ウソばっかり」


ため息まじりに軽く肩をすくめたトビの仕草は声色と噛み合わない。何か言いたげなデイダラも、それで言葉を飲み込んでいるようだ。手元の湯呑みが一役買っている。


「芸術家も、組織の一員としても、身体が資本ですよ。倒れでもしたら元も子もないんだから」


たまに、ごくたまに。こうしてトビが至極まともなことを言うとデイダラはこんな表情になる。ばつが悪そうな、年相応の顔。先輩だってそういう時もある。
何はなくともお腹はすくでしょ、そう言って店員を呼ぶトビはもうまるでいつもの調子で注文ひとつにやたらと賑やかだ。デイダラも後輩の意図を汲んだのかはたまた観念したのか、湯呑みを置いて苦笑した。店員が奥へと戻っていく。


「後輩にダセェところ見せちまったな」
「たまにはいいんですよ、先輩がかっこいいのは知ってますんで」
「お前はいつもダセェけどな、うん」
「そんなことな……、ありますね」
「だろ?」


随分素直に認めるものだ。ニヤリと笑うデイダラはいつもの先輩の顔で、すっかり形成が逆転している。この二人はこれで成り立っているのだから面白い。


「全く…先輩の死因は爆死だ~なんて言っちゃったのに、餓死だなんてそれこそありえないですからね!」
「お前は窒息死な」
「先輩の愛に溺れて?」
「溺れるなら単純に水で溺れろ」


定食屋でするにはなんとも不毛なやり取りをしている間に膳が運ばれてきた。かたや口元どころか顔全体を覆い尽くしている面。どうやって食べるのか甚だ疑問である。ともかく、卓上では二人分の膳が湯気をたてながら待っている。


「あ、先輩何か別のこと考えてる」
「オイラに飯食えって説教たれたのはお前で三人目だなって」
「…へえ~」
「何だその顔。早く食わねえと冷めちまうぞ、うん」


他意はないのに勝手にふてくされているのが可笑しい。笑いながらデイダラが箸に手を伸ばすと、トビもそれに倣った。二人分の膳の前で、二人分の声が重なる。


「ボク出汁巻き好きなんですよね~」
「やらねえぞ」
「まだ何も言ってないじゃないすか!」
「お前は炒り子でも食ってな」
「カルシウムは先輩の方が必要でしょ、いろんな意味で」
「うるせえ。まだ少しは伸びる、うん」
「ボク身長のことだなんて一言も言ってないですよ?それに先輩の歳じゃもうそれほど期待は…」
「平穏に飯が食いたきゃそろそろ黙っとけ」
「はぁい」


何はともあれこのように、食卓は賑やかな方がいい。
睡眠不足の青い目もぐるぐる渦巻く奇妙な面も、今はすっかり定食屋の一部なのだ。





-----
ほうっておいても一人で生きてるんだけど生活するのは少々難ありな先輩
先輩のサポートは後輩の役目 後輩も一人で生きてはいけるんだけど
たとえすこしの間でもちゃんとふたりで生活すればいいよ
持ちつ持たれつ 後輩はもたれる方に傾きがちだけどね!

拍手

PR