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いちにの、ぽかん(鳶泥)

鳥が二羽、滑空している。
煙の臭いをはらんだ風の音だけが前から後ろへと通り過ぎるなか、トビが口を開いた。


「例えばの話なんですけど」


都合の悪い記憶だけをはじめから無かったように消してしまえたら。
つい一時間前までは集落であった場所を遥か眼下に、鳥はどんどん前方へと進んでいく。


「先輩の爆発みたいにばーんって、一瞬で」


両手を広げて仰げば、少しだけ上を飛んでいたデイダラが心外だとばかりに高度を下げて横並びになる。その目は完全に持論を語る時の色。トビがあまり見たことのない種類のものだ。後輩は芸術についての造詣は深くない。


「オイラの芸術は単に消すだけのものじゃねえ、うん」
「現に村ひとつ消えてますけど」
「村は消えたけど更地が生まれたろ」
「屁理屈じゃないスかそれ」
「何言ってんだ。現にオイラの芸術を見てお前の中には感情の変化が生まれたじゃねえか、うん」
「そういうもんですか」
「そういうもんだよ」


違和感もなく再び風の音だけが聞こえるようになった頃、でも。ひとりごとのような声は続ける。


「戻りたい記憶とか、忘れたい記憶ってあるでしょう」
「それを消しちまって無かったことにできても意味はあんのか?」


問いに答える声はない。それに。デイダラは続ける。


「戻りたい記憶があるだけ幸せなんじゃねえの」
「戻れなくても?」
「オイラにゃそういうのよくわかんねえけどな、うん」


積み重ねては昇華していく。それを人よりめまぐるしいサイクルで繰り返すのがデイダラだ。彼が持つ一瞬というものの意味合いも、それへの拘りも期待も、並みの定義でははかれない。


「記憶喪失にでもなりたいんだったら、お望み通り爆発させてやってもいいぜ」
「ちょっとシャレになんないッスよこの大きさだと!」
「じゃあソフトにそっから落ちてみるか」
「どこがソフトなんですか…っとと、先輩それあぶな…あっ」


落ちた。それはきれいに真っ逆さまに。
コンマ数秒、デイダラの乗った鳥が地面に向かう塊を追う。早い段階でそれは二人乗りになった。まだ地面も木も、岩山すらも近くない。大きな白い鳥はすぐに高度を上げ、何事もなかったかのように水平に風を切る。
確証があったわけではないが、おそらくこの先輩は後輩を助けただろうしそうじゃなかったとしても自力で助かるだけの術が、トビにはあった。うっかりなのかわざとなのか。どちらにしてもはじめからわかっていたのは、地面へ落ちきることなどなかったということだ。


「ったく…どんくせぇんだよお前は!」
「だって先輩さっき鳥さん揺らしたでしょ!」
「あれしきの揺れで忍が落っこちるかよ」
「あっ否定はしないんスね」
「しっかり乗っとく自信がないならどっかつかまっときな」


ましてや一緒に、なんて。そんなことはたとえ前を向く背中に伸ばしかけた手が肩を掴んでいたとしてもあり得ないのだろう。
一羽の鳥はただひたすらに、風が前から後ろへ通り過ぎるなか飛んでいく。はためく金色。錘のようになった黒色。風が強くて助かった。つぶやいた声は聞こえないし、煙の臭いはもうしない。





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形あるものを生んで変化を生んで無すらも生んじゃう一瞬の芸術 形そのものは残らなくても
後輩は通常運転です

(小ネタも入れたらこれで50本!だいたいが先輩と後輩!まだまだ書きたい先輩と後輩!)

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