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ハートのキング(鳶泥)

《※現代風味》


季節感だけ揃えておいて真っ昼間から再放送された心霊番組なんて、無念でそれ自体が化けて出そうなものだ。さっきまで見ていたのは去年の霊だったか。ならばもっと体も冷えようものだが。麦わら帽子は日差しよけ。編み目の隙間をとおる光が顔に網模様をほどこしていて、こっちの方がよっぽど涼しげ。なんてことを考えている男の顔には季節を問わず橙色の渦模様。半歩先をゆく麦わら帽子から、ちらと青い目がのぞいて話しだす。おまえは。


「ぎゃあぎゃあ言う方かと思ってた」
「さっきのッスか?ん~あんまり怖くなかったですし…あ、ぎゃあぎゃあ言った方がかわいげありましたかね」
「やめとけよただでさえ暑いのに…それにかわいげなんて求めちゃいねえし」
「じゃあかっこよさ?」
「もっとねえな、うん」


繊細そうな金の髪をたずさえて、いい意味で神経が太いデイダラは霊の類も物ともせず。なんとなく、でも頭のどこかで刺激と涼を期待してながめていたテレビに案の定効果は望めなかった。そもそも隣にいる男が一番怪談向きなのだ。できれば夜道では出逢いたくない。その男も、おばけがばっと出てくるより先輩がぱっと消えちゃったりした方がずっとこわいですね、なんてつぶやく始末。なに言ってんだと一蹴された言葉にほっとする面の下の繊細さの仕組みは、甲虫類のそれと似たようなもの。もっとも、常日頃はそこらの木にとまっているセミの方に近い。
一瞬の儚さに美を見いだすデイダラにとって夏はなかなか誂え向きな季節に思えるが、曰わく暑いもんは暑いしうるせえもんはうるせえ、らしい。それでもこうしてまだ日も照りセミの鳴く時分に出てくるあたり満更でもないのだろう。好きな花火は打ち上げ花火。かき氷はレモン味。暑さは苦手だが髪は切らない。こだわり半分、仮面の男の呪いが半分。長いそれを適当に結わえているシュシュはシャンプーだか何だかのおまけについてきたはず。生活に馴染むと記憶は案外曖昧になる。


「なんでこんなクソ暑ぃのに出てきちまったんだか」
「テレビと扇風機に限界感じたからッスかね」
「よくよく考えりゃ外出たところで解決しようもねえのにな…」
「でも先輩、あれ見てくださいよ」


ほらオアシス。その声と指が差す方には古ぼけた商店が一軒。すだれの掛かった店先ではラムネの瓶が冷やされている。透明な瓶と氷が浮かぶ水はいかにも夏らしく、率先して駆け寄って日に焼けていない手を浸けて手招き。歳いくつだあいつ、と洩らしたデイダラも結局桶の中を覗き込めば同じこと。店の人に怒られんぞ。買うんなら大丈夫ですってちょっと休憩しましょ?瓶を二本片手にすだれの内側に吸い込まれていった後輩のペースだ、完全に。溶けた氷の滴をはらって後に続くほかない。
こじんまりとした空間には駄菓子と日用品が半々にならんでいて、小上がりの畳に座す店主と思しき小柄な老人と何やら話す仮面の男。どうやら会計を済まそうとして橙のそれを売り物と間違えられたらしい。壁に掛けられたくじや面をながめていたデイダラの耳にもとどいた自前ッス…の声に、先程までの勢いはまるでなかった。


「そのへんのヒーローか美少女戦士と変えてくかぁ?」
「やめてくださいよもう…」


すだれの脇にはベンチ。ラムネの空き瓶は足元のケースに返していくらしい。吊された風鈴に気づいて、ならんで座る。栓代わりのビー玉を押し込む音が輪唱。先陣を切ったデイダラが冷たい炭酸を流し込む隣で、件のトビはというとあたかも当然のように面を耳の辺りまでずらしてそれに続く。


「…取れば」
「いやぁ~こんな外じゃちょっと」
「誰も見てねえよ」
「先輩が見てるでしょ」
「今更かよ」
「あ、そうだ」


ビー玉がからんと鳴った音で仕切り直し。少々不服そうな顔のデイダラの目の前に、同じ色をしたあめ玉がひとつ。よく見るとひよこの形をしていて、プラスチックの輪っかのついた台座に乗ったそれは指輪のようになっている。ラムネといっしょに買っていたらしい。そのまま渡されるのかと手のひらを向けて出された右手をこっち、とうら返して。人差し指の上にちょこんと乗った青いひよこ。なんだこれ。ただのあめちゃんですよ。ふーん。日にかざすと透き通った青が同じ色に吸い込まれていく。ぱちぱちとまばたきをする横顔を見る視線の出所は、いつの間にか見慣れたそれに戻っていた。ひと足早く空になった瓶を日焼けしたケースに収める白い手曰く、先輩っぽいなと思って。こういうことを言って当人にあまり好評を得た試しがないのだが、今回はそうでもないようで。


「まあ、たしかに飴細工なんかはなかなかいいなと思ってるぜ、うん」
「でしょお?ボクもずいぶんわかってきたとおもいません?」
「自分で言ってんじゃねーよ」


瞼の内側にため込んだ青の光がはじけるように笑った。綯い交ぜの夏の中でも確かなそれで、ほんのすこし面の下は目を閉じる。





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夏の盛りに書き出したのに気づけばすっかり秋の気配ですがここはひとつ…
青いひよこの指輪キャンディは探してみるもいまだに実物みたことないです


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