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苟且トリップ(鳶泥)

「先輩って土の匂いしますよね」
「そりゃあ毎日粘土触って爆風浴びてりゃな」
「きらいじゃないですけどね」
「うれしくねえよ、うん」


記憶が呼び起こされる瞬間、とはどんな時だろうか。例えばたまたま手をついた山肌にいつしかよく見た色を見つけた時。朝露で湿り気を帯びた大地で息を吸うとどこか落ち着くことに気がついた時。仕組みは案外単純なもので、些細なことで否が応でも鮮やかに呼び起こされるのだと知ったのはいつだったか、たった今なのか。こんな些細な記憶でしばらく動けなくなる自分もまた単純と言わざるを得ないと苦笑した。
荒野に一人立っている。日の出を済ませたばかりの空気はまだきりりと冷たい。触れる土に熱は無いが、あの人が本当につめたかったことなんてなかった。呼び起こされる記憶はいつかのものなのに、目を閉じてみてもそれは変わらずより違いを感じさせる。次に目を開けて見えるのが金色だといいと都合のいいことを思った。


「トビィッ!」


突き刺さったのは今は呼ばれるはずのない名。再び目を開けた先には見知った、見紛うはずもない金色。
どうしてここにと問えば、お前が集合場所にいつまで経っても来ないからだろうと呆れた声でしかられた。何故なら今は先輩と一緒に日付を跨いでの任務の真っ最中。自分の方は少し早く片が付いたからといって勝手な単独行動をとるなど、何と不真面目な後輩だ。って、ボクのことなんですけど。


「あーもうすいませんってば!でも先輩見て下さいよここの地層、ホラ粘土!」
「本当だな…しかもこりゃ結構良質な…」
「ね!ボクだってただ暇つぶしてたわけじゃないんですよ?」
「偶然だろ、うん」
「違いますよ!ボクは先輩のことを思って」
「はいはいよくやったよくやった。とりあえず持てるだけ削りとって帰んぞ」
「ひょっとして、持つのは」
「お前以外いねぇだろ」
「先輩ったら人使い荒いんだから~…」
「無駄口叩く暇あんなら手ぇ動かす。誰の所為でこんな押してると思ってんだ」
「はーい…」


山肌を削ればよく見る色はやはり冷たく、ひんやりとしている。にも関わらずあたたかさを感じるのは高くなりだした太陽の所為だろうか。なんて。腕いっぱいに抱えた白い塊はやはり懐かしい匂いがして、いつかの会話をなぞった。
その続きなら、これからいくらでも。


「先輩、この任務終わったら、どうします?」


これがオレの創り出した世界。





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様々な空白の矛盾を埋められるのも都合のよさを知っているのも創世主のみ
本当のことは、世界がこわれるから話せない話さない

っていうもしもの中のもしもの話でも一番どうしようもないパターンの話

(無限月読ってこわくね?)


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むだばなし(鳶泥)

あくびをしたら涙がでた。それを長い指が掬っていった。なにしてんだと聞いたら、そんなに綺麗な目から出るもんだから宝石にでもなるんじゃないかと思って、だと。


「ロマンチストか」
「どちらかといえば」


日のあたる窓辺で粘土をこねていたら、その辺にいたらしく通り過ぎ様にこう。先輩の髪がそんなに綺麗なのはお日様の光を吸い込んでるからなんですかね、だと。頭膿んでんじゃないのかこいつ。


「お前のオイラに対するそのイメージはどっからきてんだ」
「だって綺麗なんですもん」
「どこが」
「んー…全部です」
「答えになってねえよ」


綺麗なものは綺麗なのだから仕方がない。本当にそういうものを目にした時は理由など述べられないと、よく知りもしないくせに芸術を引き合いに出してきやがる。まあ、それも一理ある。そもそも芸術とは、云々。
気がつけば日が傾いていた。うまいことはぐらかされたようでなんとなく不服だが、それを側でずっと聞いているこいつもこいつだ。どうせ興味なんてないくせして。


「お前はそんなに暇か」
「先輩の話聞くのにいそがしいです」


頬杖を横から肘で突いて崩してやったら面が机に平行にぶつかった。どこだかわからない鼻をさすりながら皮肉じゃないですよもう!とわめいている。しばらくおとなしかったと思えばこれだ。こいつには中間ってもんがない。寝てたんじゃないのかさっき。それなら納得だ。そう言えばちゃんと聞いてました、だと。それはご苦労なこって。


「聞いても実になるわけでもなし。しょうがねえだろうが」
「そんなことないです」


仕切り直しとばかりに組み合わせた長い両指の上に顎を乗せて小首を傾げた後輩が、咲いて散るだけの花には意味がないと思いますか?と、かみ合わない問いを投げかけてくる。


「そういうことですよ」
「はっきり言えよ、うん」
「先輩がボクにくれるものは一瞬だろうと無駄なんてひとつもないってことです」


それだけ言うとボクこれからリーダーに呼ばれてるんで行ってきますとかなんとか、いつもと変わらない調子で席を立った。誰かこいつをどうにかしてくれ。
同じように机にぶつけてしまった顔は、しばらく上げる気になれない。





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はずかしい台詞連発した挙げ句言い逃げするトビちゃん
頭膿んでるのはわたしです

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クレープをひとつ(鳶泥)

暗黙の了解という言葉があるが、この二人の間でもそれは成立しているらしい。四六時中やかましいように思えるトビという男も、黙っている時もあればそこにいるデイダラにちょっかいをかけない時もある。例えば、デイダラの目が本気で芸術に向かっている時。それを判断するのはトビの観察眼でしかないのだが、今は正にそれに該当するらしく先程から不自然なくらいに大人しい。当人に言わせれば今はこれが自然なのかもしれないが。
しばらくして纏う空気がやわらいだのを感じたトビがおもむろに立ち上がると、粘土と作品の前に立っているデイダラに声をかける。


「おつかれさまです」


そう言って、気まぐれに頭をなでた。わざわざ怒らせるような行動をとるのは大人しくしていた時間の反動か。しかし、てっきり怒声と共に振り払われるとばかり思っていた手は、笑みを含んだやめろよの一言だけで今も変わらずそこにある。
想定外な反応によっぽど疲れているのかと思ったが、なんてことはなく、嫌ではないだけだと認識できた瞬間、トビは自分もまたそんな行動をとっていた。頭から手を退け、ぎゅっと音がしそうな勢いで金色を腕の中に抱えこむ。その頭に再びぽんと手をのせる。しばらくの無言。無音。


「なにやってんだ」
「なにやってんでしょうね」


何故自分がこんなことをしたのか、されているのか。どちらもよくわかっていないようだ。が、人間の行動全てに何故ならで始まる理由付けが必要と言うわけでもあるまい。なってしまったものはしょうがないのだ。
さて、このしばしの平穏。トビがおどけてうやむやに流してしまうか、デイダラの爆撃をもって幕が引かれるか、はたまたそれ以外か。





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先輩がトビのうらやましいところと言えば背丈ぐらい(笑)だろうけど、
そんな先輩がトビの手はすきで、それが無意識の安心感からだったらいいなと
つつみこむつつみこまれる たぶん二人ともあまり経験ない
たまには意味もなくお互いに照れくさいことしとけ!!!


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まほうのへや(鳶泥)

鉛筆が紙の上を走る音だけが響いている。簡素な部屋の中で頬杖をついてもう一人が立てるそれを聞いていた。おもむろに音が止まったので視線をやると、うんざりした様子で口を開くところだった。そのまま続きを聞く。


「必要なもんが多すぎて困る」
「そうですか。ボクは先輩ぐらいですけど」
「え」
「え?」


もう一人こと先輩が、持っていた鉛筆を買い出しリストの上に落とした音で我に返った。同じ文字についてきた疑問符は自分に向けて。一体何を口走っているのだろうか。


「うん、まあ…オイラもそうかもな」
「はい?」
「行ってくれんだろ、買い出し」


久しく見ていなかった気がする笑顔で言う先輩に、完成したばかりのメモを手渡される。外に出される。扉が閉まる。ばたり。その音で状況を把握した。


「…ボケてんのかな、オレ」


渡されたメモを手に乾いた笑いとひとり言を吐く。アジトから買い出しのできそうな町まではそれなりに距離があるので、人目に付くわけでもなく問題はない。そもそもひとり言以前に怪しいところだらけの自分が今更そんなものの一つや二つ。
閑散とした道を歩く。今は一人なんだから術でも使えばいいものを。考えごとする時は散歩しながらって人も多いでしょ、と誰がいるわけでもないのに言い訳じみたことを思ってみる。
平和ボケ、なんて笑ってしまう。どの口が言えるそんなこと。まだ何も成し遂げていないのに。


「ずるいよなぁ…あの人は」


取り留めのないことを考えていても歩いていれば足は進むし町は変わらずそこにある。さっきのメモを取り出し開くと、流石困ると言っていただけあって上から下までびっしりと文字が敷き詰められている。とりあえず上から順番に店を回ることにした。非効率かとも思ったけれど、よく見れば一箇所に訪れるのは一度で済むようになっている。あの人はあれでいて頭がいいから。


「ええっと、後は…」


やっと辿り着いた一番下の行に目をとめて往来で本格的に噴き出してしまった。
ああ、これはもう、ごまかしようがない。平和な町に不審者一丁上がり。ほんとずるいです先輩。


「いつの間に書き足したんだろ」


斜線だらけになったメモに残った最後の文字は『お前の好きな店の団子(種類は任せる)』と、きたもんだ。まいったね。
既に両手は荷物だらけ。これに団子まで加わっちゃうもんだから、さあ大変。いろんな意味で早く帰りたい。けれどもひたすら歩く、歩く。ボクは大した術なんて使えないですから。なんちゃって。それでも歩いていれば足は進むしあの部屋は今のところ、変わらずそこにあるのだからかまわないことにする。






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先輩がいるからいるボク、は何かと自由で不自由
でも個人的なしあわせは結構単純 そんなにむりばっかしなくてもいいのよ
いろんなずるいがあるだろうけど、お互い思っててもきっと本人には言わないんだろうなあ

タイトルはひげちゃんの曲から 君がいなければ急転直下、ってね

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