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花明かりはんぶんこ(鳶泥)

《※現代風味》



あっ、といきなり叫ぶものだから何事かと思えば近くに桜並木があったことを思い出したらしい。辺り近所に住む本人が忘れているぐらいだ。当然そんなもの知る由もないデイダラが自分の最寄りでも大分散っていると告げるもあそこならひょっとしてまだ、とやけに固執するものだから二人して確認がてら歩いて出てみることにした。まだ見頃である方にトビ、もう散り始めている方にデイダラ。賭けているのは缶ジュース一本。時刻は午後8時をまわったところ。いくら日も長くなってきたとはいえ、もう辺りはすっかり暗いし日が落ちれば冷えもする。これが俗に言う花冷えならば桜にも期待がもてようものだが。二駅の違いでそこまで差はでないだろう。結果はわかったようなものなのに付き合ってやるのは、目指すところが桜並木であるから。


「いつの間にかこんな葉桜になっちゃってたんですね」


缶ジュースはトビのおごりに決定。どこかのマンションの塀沿いにつくられた桜並木は、満開の頃にくらべればずいぶんとボリュームを失っているのだろう。街灯に照らされる枝振りは五分葉桜と言ったところだ。お花見行きそびれちゃった、としょぼくれるトビに追い討ちをかけるのはオイラは行ったけど、のつぶやき。え、の一文字で反応してはたと足を止めた。


「一番盛りを見逃すなんてもったいねえことしたな」


いつ、誰と、なんてことを聞く気はさらさらないがわざと大きなため息なんか吐いてみせたりしてさらにしょぼくれた雰囲気を助長するトビを、面白そうにデイダラが笑っている。


「しあわせ逃げました」
「逃げたらまた吸い込みゃいいだろ、息してんだから」
「お面が鉄壁のガード誇ってますし」
「そんなんつけてっから桜の見頃にも気づかねえんだよ、うん」
「わ、ちょっとせんぱ、うそです大丈夫ですってちゃんと見えて…あいたっ!」
「冗談だよ」


面をひっぱっていた手は急に放され、自由になった反動でべちんと音を立ててかえってきた。鼻の頭が痛い。意味もないのに面の上をさすりながら尋ねてみる。


「…先輩春お好きですか」
「おう」
「(普段こんないたずらするような人じゃないもんなあ)」


ましてや外で。一見すると縦横無尽に傍若無人に振る舞っているようなデイダラも、踏み込まない領域は弁えているし、のめり込んでいない時は案外冷静だ。アルコールも入っていないのに妙に明るい語調だとかは、きっと桜の高揚感や季節柄によるもの。加えて彼は芸術家気質なのだ。


「葉桜なんて言って残念がりますけど、よくよく考えたらずいぶん勝手な話ですよねえ」


歩道に伸びた枝に軽く触れながらトビが言う。


「満開の時はあれだけ桜にかこつけてどんちゃん騒ぎしたがるのに、葉っぱが目立ってきたら途端に見向きもしなくなるんだから」


夜風にゆれる枝は確かに緑が目立つ。また今年も変わらず繰り返される成長のサイクルを素直によろこべないのはこの植物に抱く特有の感傷のせい。人の多くは新緑の頃になればこれが桜であったことなど忘れてしまうか、次にくる春の一時に思いを馳せそれまではその他大勢の木々の一部としてしまうのだろう。どちらにせよ桜にとってはありがたい話ではない。桜の真意など知れないが。


「まあやっぱりボクも残念なものは残念って思っちゃう方なんですけど」
「お前もオイラも人の子ってこった」
「あら、先輩も桜が散っちゃうの惜しいだなんて思うんですか?」
「むしろオイラは散り様の方が好きだけどな、うん。満開の桜をひと思いに風がさらってく瞬間なんかが見れりゃあ、それこそ一番の見頃ってやつだぜ」
「わー…桜にやさしくないッスね、それ」
「誰も無理やりふき飛ばすだなんて言ってねえだろ、できもしないし。あくまでも自然現象でそうなればの話だ、うん」
「先輩ならできちゃいそうですけどね、なんかこうぶわーっと」
「どうやってだよ」


そう言って微笑んだ瞬間。背後から俄かにやってきたつむじ風で、デイダラの周りで一斉に花びらが舞う。地面に落ちていたもの、葉の間で咲いていたものも、全部あわせてしまって。軽くすばやい春の風は花びらと金の髪をさっと持ち上げ、少し先を歩きかけていたトビをもあっという間にすり抜けていった。まだ足元では名残の花びらがひらひらしている。


「…今なんかやりました?」
「いや、全くの偶然」
「ですよね」


偶然にしてはあまりにも出来すぎていた一瞬の出来事に、思わず神妙な面持ちで向かい合う二人。当の本人が一番驚いた顔をしているので、本当に偶然なのだろう。髪に絡まる花びらを取ってやって、その中にきれいなままの花を見つけたトビが短い軸を指先でくるくる回している。


「先輩んちの近くのパン屋さん、桜あんぱんおいてましたよね」
「そんなんあったか?」
「ありましたよ~あれ、まだ売ってるかな」
「なんでまたいきなり」
「桜っていい匂いするんだなと思って。変わり種ってあんまりなんですけど、たまには」
「案外すぐ安全牌切るもんなお前」
「…性分ですかね」


見た目で冒険しすぎな分いいんじゃねえの、と茶化す声を笑って短い並木道をぬければ辺りはありふれた住宅街。同じように街灯はずっと並んでいるのに視界はどこかくすんでみえる。思わず振り返って確認するほどに。


「来年は間に合うといいな、見頃」
「今から予約しといていいですか」
「なにを」
「先輩とのお花見の予定」
「お、自販機。トビ、さっきの賭けの分」
「きいてます?」


自販機の前に立ってなんでも桜風味にすりゃあいいってもんでもないよな、と言うデイダラに先輩それペットボトルですけど、と追いついたトビがポケットの小銭を取り出しながらも言う。


「けちけちすんなよ」
「30円の差は大きいです」
「一口やるから」
「まずかったからってもう一本ってのは無しですよ」
「どうせなら賭けにでるね、オイラは」
「先輩今日ずいぶん皮肉屋さんですね…」


吹き抜けた風とは違いペットボトルのキャップを開けた先から香ってきたのは予想通りの人工的な香りだったが、これはこれで。中身を半分ほど飲んでからデイダラはそれをトビに手渡す。


「ほらいわんこっちゃない」
「まずくはねえぜ?」
「うまくもないですけど…」
「桜あんぱんもあやしいんじゃねえの」
「あれは大丈夫ですよきっと。桜の塩漬けから店でつくってるって言ってたし」
「ずいぶん詳しいな」
「何回か行ってますもん」
「へえ、行ったことねえや」
「先輩の御用達はコンビニですもんね」
「ポイントシールとっててやってんの誰だよ」
「…いつもありがとうございます」


ちらりともう一度。遠ざかって風にゆれる並木は気のせいだろうが先程よりも青々として見える。今日を区切りにして、次気にかけた時にはもうきっと緑一色になっているのだろう。その次に落葉。そのまた次は。そんなトビの胸中を知ってか知らずか一年なんてすぐ来るよ、と隣でデイダラは言った。





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ザ・一般人
桜もパン屋もあるけれど忍も禁術もないんだよ
葉桜でもなんでもそうやってふたりで見ながら歩いてりゃそれもうお花見な

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毎度ばかばかしいお話を(鳶泥)

アジト内にこだました強烈な怒号、爆音。発生源と対象は言うまでもなくいつもの二人。しかし、今回はいつもと少々様子が違っていた。
先輩、と呼びかけたトビにデイダラが返事をする。そこまではよかった。そこからである。先輩、なんだと聞いても先輩、どうしたと問うても先輩、先輩、先輩。一向に進まない会話についに堪忍袋の緒が切れた。焦げ臭い煙にまみれながら、こういう時にやっぱり爆発袋だと軽口を叩くはずの口からは先程までと一言一句違わぬ単語しか出てこない。けほりと咳き込んで、もう一度。


「せんぱぁい…」
「だからなんだっつってんだろ!起爆粘土の無駄づかいさせやがって」


顔の前で大きなバツ印をつくってみせて何かを必死にうったえかけるトビに、デイダラもようやく様子がおかしいことを気に留めてくれたようだ。手のひらに握りかけていた第二弾が戻される。


「お前、まさか…」


そう、そのまさかなのだ。大きく縦に首を振るこの男は今『先輩』としか声を発することができない。理由は、わからない。これでは何をするにも不都合でしかたがないし、任務にだって差し支える。さて、どうしたものか。二人揃って考えてみるも、当の本人がこれなもので埒があかない。昨日何食った、どこに行った、誰と会った。まるで取り調べである。答えようにも何の因果か今トビが口にできるのはわずか四文字。目の前の相手を呼ぶことしかできない。デイダラの方もさして興味もないのに強いられる一方的な詮索に辟易しかけていた時、普段なら避けて通るがこの状況に打開策を投じてくれそうな人間が通りがかった。イタチだ。一刻も早くこの面倒事を片付けたいデイダラは背に腹はかえられぬとイタチを呼び止め、端的に状況を説明する。頭の先からつま先まで、しばし無言でトビを見ていたイタチは一言。何か術にかかっているようだな、と。そんなことは想定内。二人が求めているのは具体的な解決法なのだ。


「…で、何の術なんだよこれ」
「わからない。が、大したものじゃないだろう」
「イタチお前、解けねえか?」
「そうだな…時間が経てば戻るさ、心配することはない」


そう言い残すとイタチは急ぎの用があるとかで足早に去っていった。兎にも角にも、瞳術幻術に長けた彼が言うなら信憑性もあろう。それに関してはデイダラも専門外。根本的な解決にはならないが、今は従うほかない。


「しょうがねえなあ…これだからペーペーの忍は」
「せんぱい!」
「ボクは下っ端じゃないです、とでも言いてえのか?」


大きく一度うなずく。どうやら当たっていたらしい。よくよく考えれば筆談でもすれば多少なりとも意思の疎通もはかれたものだが。はじめは何言ってるかわかんねえよ、と難色を示していたデイダラも慣れてきたらあまり普段とかわらないなどと、もうまるで常日頃の様。せんぱい、の声に世話を焼く姿はまるで飼い主もしくは調教師。順応性があるのはいいことだ。しかし、油断は大敵。いくら慣れた動物でも、たとえそれが相方であったとしても。否、だからこそ。


「先輩先輩、」
「はいはいなんだ…」


ぱたぱたと手招きをするトビに近づくデイダラ。肩に手を置かれ、もう片方でずらされた仮面の下とゼロ距離になる。一呼吸。元通り。
豆鉄砲でも食ったかのように目を丸くしているデイダラに仮面を直したトビが一言。


「今日って四月一日なんですよね」


さらり。
流暢な話しぶりは普段となんら遜色なく。そう、即ち全て。


「うっそでしたー!」


先程しまい込んだ第二弾が大いに役立つ時がきた。


「トビィ、てめぇは…」


響き渡る怒号、爆音。本日二度目、いつもの二倍のそれはアジトを真っ白く覆い尽くして有り余るものだった。この煙がひいたら何が起こるのか。ともかく、第三弾が投入されないことを祈るばかり。





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とんだちゃばんだよ!
トビには去年のリベンジをしていただきました まさか2年連続で行事にのるとはな…

もしも一時的に先輩がなんかの術で逆の立場になったとしても案外支障ない気がするのはわたしがトビデイ脳だからかな?
それとも先輩が呼ぶだけでだいたい何のことかわかる(んだけどわざとわからないふりしてからかったりもする)し、たくさん呼ばれるのはなんだかうれしいとか思っちゃってこのままでもいいかなって思いかけたところで元に戻って後日もっとボクのこと呼んでくださいよ~あの時みたいにって変に含み持たせた言い方してうっとうしいって喝されるトビっていう流れが容易に想像できるからかな?
(トビデイ脳だから)(どっちにしても結局爆発オチ)


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アマレット(鳶泥)

《※現代風味》



昔、近所に住んでいた妹分をあやしたことを思いだした。どこにもいかないで、なんてちいさな子どもが言うには可愛いげもあろうものの。胸元に縋る筋張った手は明らかに大人のそれで、服をつかむ指もかわいくもなんともない。のびるからやめろ、と窘めたのは何年前の話だったか。まさか今頃、それも年上の男に向かって同じセリフを吐く羽目になるとは。さらに聞き分けの悪さは子ども以上ときたもんだ。いやですじゃねえだろ。まるで意味が分からない。揉めたわけでもなければ帰ろうとしたわけでもない。ただいつものように他愛ない話をしていただけだ。昔住んでいた町、口うるさいジジイ、近所の妹分や弟分。全部もう過ぎた思い出話。めずらしく聞き手に徹していたと思ったらこれだ。こいつがあまり昔の話をしたがらないのは知っていたが、知っているからこそ、そこはよく知らない。
硬直状態を数分間。指先以外も動かせることを忘れてしまったのかと思っていたら、ぼそりと動いた口から声がこぼれた。普段めったに名前でなんて呼ばないくせして。デイダラさん、と馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返すそれがあまりに頼りないものだから、もてあましていた両手で胸の前にある頭を抱き込んでやった。消え入りそうな声に頷いてあやすような心持ちで触れた手に、ようやく服をつかんでいた指はほどかれそろりと背中にまわる。不気味なほど静かな部屋で、どちらともなく床に沈む。どうかしている。どちらが、なんてことは知らない。


「…すいませんでした」
「泣き疲れて寝るとか、お前本当…ガキじゃねえんだからよ」
「泣いてませんよ!」
「便利なもんだなぁ~その面」
「泣いてない、ですけど、なんかその、安心したというか…」
「どっちにしろガキと一緒だな、うん」
「…返す言葉もないです」


なにもなかった。あるわけがない。万が一あるにしても、こんな状態で何も聞かずに受け入れてやるほどこっちもお人好しじゃない。ただ、直に床の上で一晩越してしまったものだからあちこち痛んでしかたがない。だから絨毯ぐらい買えって言っただろうが。抱き竦められていた腕がほどけず、一発蹴りを入れてたたき起こしたのがついさっき。なんでそんな体勢で熟睡できる。繊細なのか図太いのかはっきりしろ。
言いたいことは山ほどあったが、時計を見て一旦全部飲み込んだ。今日の講義は休むわけにはいかない。帰るんですか、の声に行くんだよ、と返して着の身着のままドアノブをひねる。単位落としたらお前のせいだ。捨てゼリフと一緒に飛び出した。


「後でおぼえとけ」


終業を告げるチャイムが鳴る。
なんとか出席日数を確保し、移動しようと席を立ちかけると妙な話が耳に入ってきた。いやな予感しかしない。得てして、こういう時の勘はよく当たるもんだ。外れてほしいと思いながら、事の詳細を隣の席の奴に尋ねる。とにかく中庭に行ってみろとのことらしい。幸か不幸かそれはこの棟の裏。廊下の窓から外を覗くと、遠目にも目立つ色をした見知った仮面の男が見知らぬ人間と談笑している。他にいるわけがない。というか何人もいてたまるか、こんな奴。


「あ、せんぱい」


じゃないだろう。知り合い?先輩?何科?でもない。ちょっと外野は黙れ。こっちが聞きたいのはただひとつだ。


「なんでいんだよオイ」
「今朝定期入れ忘れてったでしょ」
「わざわざ持ってこなくてもいいだろ…」
「だってもったいないじゃないッスか!塵も積もれば、ですよ?先輩すぐ金欠だなんだって言うんだから」
「お前はオレの保護者か!」


昨日とは逆だな、と皮肉ろうとして思いとどまったのは正解だ。周りがざわついている。ショートコントじゃねえよ。謎のお面野郎がいて、それと知り合いってだけでも十分注目の的なのにこれ以上話題を提供してやる必要はない。今朝の言いたいことも消化しきれていないというのに、聞くべきことが追い討ちをかけてやってくる。少しでいい。休めるだけの時間をくれ。だがまずは目の前の事態を収拾させるのが先決。有無を言わせず黒い手袋をはめた手首をひっつかむ。毎日粘土こねてる人間の握力なめんな。軽い人だかりを抜けて人気のない棟へ辿り着くと、壁にもたれかかってもう一度同じことを尋ねた。なんでいるんだ、と。


「先輩の今を見に、なんちゃって」
「部外者は立ち入り禁止だろ」
「守衛さんにあいさつしたら普通に入れてくれましたけど」


流石変人の坩堝。確かにここではその面も妙に馴染んでいる気がする。実際先程も奇異の目というよりかはむしろ、好奇心丸出しの人間がほとんどだったように思う。仮面と先輩呼びのせいで年齢不詳に見えるが、大概いい歳なのだと伝えてやりたい。まあ、正確に知っているわけじゃないけれど。我ながらなんでこんな奴と関わりをもっているのか疑問でならない。何も知らない。自分だって例に漏れずまともではない。


「で、本当のところは?」
「昨日は本当に大人げなかったなと思いまして…」
「自覚はあったんだな、うん。あのままオイラが姿を見せなくなるとでも?」
「あ、そこは心配してなかったです。先輩言いましたよね、後でおぼえとけって」


だから、じゃない。どんな前向きな発想だ。とはいえ昨日とは打って変わったいつもの調子に少し不服ながらも安心して、このままとっとと帰してしまおうと口火を切りかけた時。意外な方向から先手を打たれた。息を吸う音がする。


「昔ね、大切なひとが急にいなくなっちゃったことがあって」
「誰かの思い出話とか聞くのは大丈夫なんですよ?なんですけど、」
「なんでですかね。昨日は少しだけ、こわくなっちゃって」


少し距離を詰めて、見慣れたオレンジをノックするみたいに軽くこづいてやる。こつ、と中身にあたる音がした。


「ひでぇ顔」
「…見えないでしょ?」
「こちとら泣いてんのもわかるんだぜ」
「だから泣いてませんってば!」
「なんの意地だよ、それ」


あれだけ情けない姿みせといて今更。そう言って笑ってやったらいつもの顔に戻った。始業を知らせるチャイムが鳴る。


「ちゃんと帰れよ」
「わかってますって」
「あと帰り寄るから」
「…はいっ!」


歯切れのよい返事の後でひらひら手を振っていった背中を見送りながら思い出した。定期入れの礼を言うのを忘れた。そこはまあ、帰り道コンビニにでも寄っていけばいい。甘いものでよろこぶことぐらいは知っているのだ。
日も高くなりだした頃合、鳴り終えたチャイムの余韻の中ひとまず作業棟へと足を向かわせる。遅刻のペナルティは三回目から。問題なんてない。





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おいていかれるのがこわい後輩はだめさ3割増(※当社比)
寛大すぎる先輩にトビデイ…トビ…?ってなるのはいつものこと(※トビデイ)

場所柄不審者扱いされないお面が書きたかったんですが相変わらず設定はふんわりしてます 先輩は美大か専門生

アーモンドリキュールの名前だとばかり思っていたアマレットにイタリア語で「すこし苦いもの」「友達以上恋人未満」という意味もあると知ってうおおおとなった奴がこちらです 

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颯と突き抜け春嵐(鳶泥)

春に降るにわか雨を春驟雨、というらしい。
説明するトビにそのまんまだなと言うデイダラ。急に降り出した雨の中、立ち往生する笠がふたつ。その上では雨粒が跳ね、足下からは土の匂いがする。ぬかるんでくるのも時間の問題だろう。外套の裾がばさばさと風にはためいている。泥が跳ねても目立ちにくい色だとはいえ油断は禁物だ。


「にしても、こんなに降りますかねぇ。にわか雨ならすぐやみそうなものですけど」
「嵐になりそうだな」
「風もつよくなってきましたしね」
「飛ばされんなよ」
「先輩こそ」
「オイラが多少の風に負けるわきゃねえだろ、うん」
「そりゃまあそうでしょうけど…先輩小柄ですし万が一ってことも」
「お前だって背丈の割にひょろいくせに」


からかう口振りを慣れた様子で一蹴し、懐に手を入れたデイダラが二本指を立てるとお馴染みの真っ白な鳥が姿を現した。どうやら飛ぶつもりらしい。この天候の中を。


「え、本気ですか。一旦どこかで雨宿りした方がいいですって」
「こりゃちょっとやそっとじゃやまねえよ。どうせ蛇行で行ったって濡れるもんは濡れんだし、嵐に乗じて突っ切った方が早いぜ」
「…先輩、雷とかではしゃぐタイプでしたっけ」


トビの呟きに耳を傾ける素振りもなく、どこか楽しげなデイダラはひらりと白い背に飛び乗った。雷遁苦手なくせして、と小さくこぼしながらもそれに続くトビ。こういう時の先輩は殊更聞く耳をもたないので、大人しく従うに限るのだ。時と場合によっては、この後輩だって聞き分けがいい。雨がいよいよ激しさを増していく中、お構いなしとばかりに大きな鳥はふわりと舞い上がった。かぶった笠を打つ雨音がうるさい。しかし、それに負けないぐらい今日のデイダラは饒舌だ。


「なんかなぁこう、だーっとひと思いに降りゃ季節も変わる気がすんだろ」
「だーっとひと思いに降られてるボクらの季節は逆行してる気がしますけどね」
「そんなに寒かねえだろ」
「体感温度は結構なもんですよ」
「まあちょっとの辛抱だ」
「鳥さん大丈夫ですかこれ」
「オイラの芸術はそんなヤワにできてねえよ、うん」
「でも雷落ちてきたら?」
「うるせえ」


トビの心配を余所に先輩ご自慢の芸術作品は大の男ふたりを乗せて、荒れた空をまっすぐ進んでいく。さらに勢いを増す雨。吹きつける向かい風。笠を押さえる手を離し、うずうずした様子のデイダラが何か言った。聞き返す間もなく、加速。


「っえぇ!?ちょ…ちょっとせんぱぁい!」
「落ちるんじゃねぇぞトビィ!」


向かい風を押し返すような勢いに、頬に当たる雨粒が痛い。もっとも、ぎゃいぎゃい騒ぎ立てている方は頬など出てはいないのだが。まるでこちらの方が何もかもをふき飛ばす風を生んでいるかのよう。めずらしくデイダラが声を上げて笑った。


「すっきりしただろ?」
「もう全身びっしょびしょですけどね…」
「あー明日は晴れるな、うん」


ぬかるんだ土を踏む足音がふたつ。つま先を泥まみれにしながらも晴れ晴れした様子のデイダラにつられたのか、頭についた枯れ葉をとりながらトビも笑った。ついさっきまでそこにあったはずの笠はふたつとも行方知れず。財布役にどやされる、なんてことは後で考えればいい。相変わらず雨は降り続いているが、なんだかもやがひとつ晴れたような、そんな風にも見える。


「先輩、桜が咲いたらお花見とかどうッスか」
「まずは任務な」
「とりあえずは宿でしょ」


降り立った先は目的地の最寄りの町。ほころびかけた桜並木を見てこれが咲く前でよかった、などと見頃には忘れてしまっているであろう町の木々を勝手に案じてみたのはどちらだろう。ずぶ濡れの袖を振りながらボク服乾かしたいですと言うトビの意見はごもっとも。すっかり重たくなった外套にあらためて目をやって、ふたり揃って破顔した。春の気配の嵐の後は、果たして春と相成るものか。とりあえず、明日が晴れれば言うことはない。





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フラッドの春の嵐を聴きながら!
うちの先輩は春がお好き
たぶん近いのは雨の中ジェットコースターに乗った時の気分

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