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みじかい鳶泥4つ詰め

【アンコールはいらない】

デイダラが手を止めたのは聞き慣れない聞き慣れた歌を耳にしたからだった。よくしゃべりはするが歌声なんて聞いたのは初めてで、しかもそれは自分も耳なじみがあるときたものだ。どこでそれをと尋ねれば今し方口ずさんでいたものだからと返され目を丸くした。誰が。ここにいるのはボクと先輩だけですね。いつ。だから今ですよ。どちらも悪くはない取り調べのような会話は続く。


「岩のわらべ歌だな、たぶん」


ガキの頃そういうの口ずさんだりしただろ。どうやら無意識だったらしいそれに思考を寄せて結論づけたデイダラに、トビは近くにあった手頃な粘土のかたまりを弄びながらあんまりおぼえてないですと返す。


「おまえほんと…歳…旦那でもそれぐらいの記憶はあったぞ…うん」
「そんなにきてないですってば!」


そこには反論するくせに、昔の話となればのらくらはぐらかす。よくわからねえ奴。デイダラが言えば、何を今更。わざとらしく面を指す。


「でもいいんですよ別に」


なにが、言いかけた声にふたたび短い節が重なる。ね?小首を傾げた橙色。


「おぼえちゃいましたから」
「岩の奴でもねえのに」
「それ言っちゃいます?ボクら抜け忍なのに」
「そりゃまあ、ちがいねえわな」


特に深い意味なんてない。関係もない。ただ、今この時ふたりがおなじ歌を一節だけ知っているという、それだけのこと。




【かみのみぞしる(※転生ネタ)】

ハネムーン症候群、というらしい。なんだかふわふわとした名前だけれど、名は体を表すなんてことばかりじゃない。
成り行きとはいえ半ば同棲状態の生活が始まりはや半月あまり。甘い雰囲気の欠片もないのは自分たちはただの先輩と後輩に他ならないから、この状況がハネムーンなんかではなく後ろについた症候群によるものだから、だ。
ある日突然手が動かなくなった。そんなことはかわいい後輩を見つけるやいなや後ろから一蹴りして呼び止めた後で言うことじゃないし、それをなんとかしろだなんて足蹴にした後輩に頼むようなことじゃない。ちなみに手が云々の前に、この人は元々足癖が悪い。聞けば原因は作業中にそのまま机に伏せて寝てしまったことらしくそれなら尚更自分は1ミリたりとも関与していないのだけれど、こうして白羽の矢が立ったわけでして。あの先輩直々の頼みとあらば無下にすることもできず、断る理由も特になく。一応、なんでわざわざボクに頼むんすかとだけ尋ねてみれば、お前が一番暇そうだからとそれはもう単純明快で清々しいお答えをいただいた。原因を聞いた時盛大に笑ってやればよかった。
しかしどうやらそう呑気な話でもないようで重症であれば半年ほど元に戻らないケースもあるという、日常のちょっとした油断で陥るにしては少々ヘビーなこの症状。この人はよほど業が深いのだろうか、なんて。
作業台は部屋の隅で主が戻るのを待っている。日常生活の不便さよりもなによりも、創作活動ができないことがこの人にとって一番のストレスだろうに。箱庭のようなワンルームで、エベレスト級に高いプライドを持つはずの先輩が、文字通り後輩の手を借りてやっと、普通の生活をしている。こないだまでは猫の手でも借りたいなんて言ってたのになあ。そう洩らす口ぶりは何故だかどこかたのしげで。茶碗を洗う片手間にひとつ、くだらない問いを投げかけた。


「なんか前にもこういうことあった気がしません?」
「さあな。こんなこと二度も三度もあってたまるかよ、うん」


笑っているのは何故なのか。わかる気がしてもわからないままでいる。二度も、三度も。




【きょうのこんだて】

ふらふらと歩いてきた犬に足をとめて、頭をなでている。めずらしいこともあるものだと思った。そこいらの生き物を気にかけるのも、兵糧丸以外の食べ物を持ち合わせているのも、それを分け与えるのも。こちらにはふらふら、とみえた足取りすら見越してのものだとしたらこれは相当したたかな生き物だ。本日何度目の食事だか知る由もないそれを急ぎもせずゆったりと口にする姿を、しゃがんだ金色越しに見る。


「知りませんよ懐かれちゃっても」
「こいつの顔見てみろよ。筋金入りの野良って顔してる」


こういう奴はその日暮らす術よく知ってんだって。言わんとしていることはわかるが、わからなくもある。ただ青色の審美眼は確かだったようで、もらった食事を残さず食べた犬はいつの間にか姿を消していた。な?と振り返った声が今度はこちらに向かって手招きする。そう離れてもいない間合いを詰めてみれば、宙に浮いた掌にそのまま頭をなでられた。思わず洩れたえ、の一文字に目を細めて笑う顔。わかるような、わからないような。とりあえず一声、鳴いておくのが正解かと。




【ショートフィルム】

男が持っている一巻きのフィルムについて訊ねると、これはとある人からもらったものなのだときかされた。
なにが映っているのか見せてほしいと頼んでみたが生憎、映写機がないとのことだ。
いつ頃のものなのかと訊ねても、きっと最近なのだけどずっと前なのかもしれないと、なんとも曖昧な返答。
おぼえていないのか、と問えばそうじゃない。見てみたくはないのか、の問いにはすぐに返事がない。
続けざまに、そうやってとりだしてひっぱって一枚ずつながめていけば思い出せるのに、と言えば胸のあたりで両手で持ったそれに視線を落として一言。
「つつみこんだ時間はあのひとがぜんぶいっしょにもっていってしまったから」
巻き付けたまま、そのままでここにしまっておくんです。そう言った男の表情は頑丈な仮面に覆われていて、何を考えているのか到底、こちらからは窺い知れなかった。




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1|うたえばいいとおもうよ
2|いつもの現代風味とは別の突発転生ネタ
3|トビは筋金入ってない
4|エンドクレジットを含めて30分以内

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鍋底シーワールド(鳶泥)

《※現代風味》


鍋の中を泳ぐ切り身を見て水槽を思い浮かべる人間は稀だろうが、水槽を見て鍋が食べたいとのたまう人間はどうだろう。
先輩は繊細さの使いどころ考えたほうがいいっすよとのやわらかめの忠告を腹減ったもんの一言で片づけ、水族館を出たそのままの足でスーパーの鮮魚コーナーに向かう欲求への忠実さ。赤札にはまだ少し早い魚のパックを吟味する姿に、買い物カゴを持つ後輩が心の中で拍手を送った。


三等賞。一組二名様ペアチケット。新しくできた大型水族館にもっぱら客足をとられている地元の水族館。微妙なところをついてくる商店街の福引きの景品ラインナップに思いを巡らす平日。人気も人気もないっすね…ともらしたトビが無駄にするには忍びないと言うからこうなったものの、当てたのはデイダラの方だ。新聞の粗品なんかも近いものがあるよな。とってないけどさ、などと言う魚は見るより食べる派の彼曰く、そもそも水族館は誰かと来るには向いていないらしい。言うなれば展示なのだからそれぞれが見たいものを見たいだけ見ればいいと持論を述べる姿に、気にしないで好きなだけどうぞと返す殊勝さも持ち合わせているのに。その分お魚見てる先輩見てますんで。後に起こり得ることがわかっていて、わざわざ言葉を選んで付け加えるのがトビという男。案の定チケットが紙屑と化しかけたのをすんでのところで回避し、こうして一番目玉の大水槽の前に揃って立っているのだからいっそおそろしい。いろんな意味で。
ガラス一枚隔てた先には別世界が広がっている。圧迫感、恐怖感、浮遊感、違和感、高揚感、どれでも選び放題。人がつくったはずなのに途方もないものに思えて、いとも容易くのみこまれてしまいそうな。青は心を落ち着かせる色。そうは言っても。狭い視界で覗いたそれから目を逸らして隣を見れば、同じ色した眼が魚の動向を追っていた。息をついた面の内、邪魔にならないように口を開いたつもりが拾われて会話がはじまる。館内でまともに話したのはここだけで、あとは二人ともがめずらしく静かだった。


「水槽の中で飼われるのってどんな気分なんでしょ」
「海を知ってるか知らねえかで変わってくんじゃねーの。案外居心地いいかもしんねえし」
「先輩の水槽になら飼われてもいいなあ」
「海に返すぞ」
「ボク海知らないですから」


どうやって生きてったらいいかわかんないですよぉ、なんて溺れる真似をしてみせるトビにデイダラは怪訝な目で応える。あ、それか。意に介した様子もなく勝手な話は続く。先輩は海の上飛んでる鳥さんで、それにひと思いに食べられちゃうとか!立てた人差し指で宙に短く弧を描いてみせて。ほら、トビウオ。洒落のつもりか。自分の名前に掛けて例に挙げた魚は、あいにく目の前の水槽にはいない。


「それもいいなあ」
「なにがいいなあ、だ。お前なんか食ったら食中りおこすっての」
「そっか、ですよねぇ」


すっ、と。息と一緒に吸い込まれたような静けさに、泡の音でも聞こえそう。ごぼごぼ、ぷかぷか。再び動かしたのはそのどちらでもなく、深海で渦巻いているような面を小突いた音と、あてっという小さな声。ここはガラスの外側だった。

人影もまばらなローカル線で船を漕ぐ金色にあたってゆれる夕日が眩しくて目を閉じた。次に目を開けた時、最初に聞こえた声が言う。鍋食いたい。なべ、鍋。魚入ってるやつ。電車の窓に透けて映る車内の景色が流れて、まるで水槽のようにみえる。あの水槽にいた魚も、何かが違えば泳ぐ場所を鍋の中に移したかもしれない。最寄り駅はみっつ、乗り過ごしていた。


陳列棚を眺めながら、真空パックって一瞬と永遠どっちっすか?などと尋ねるトビに賞味期限がある以上永遠じゃねえだろと返すデイダラ。カゴの中には寄せ鍋の材料が二人分。魚は鱈になったようだ。白菜、人参、長ねぎ、えのき、豆腐、お好みの魚介類、そんな文字が羅列された鍋の素のパッケージ。表には二人分の文字。二人で、食べきれるだけの。カゴを任せて自由に散策するデイダラが何かを見つけて手招きする。


「このちくわ原材料トビウオだってさ」
「鍋の具には向かないんじゃ」
「おでんやろうぜ今度、うん」
「じゃあ賞味期限見てなるべく…」
「オイラが食うっつってんだからいいんだよ」


カゴに飛び込むトビウオ。さて買い物はおしまい、とばかりに手ぶらにもかかわらずまっすぐレジに向かう背中に、後輩からおまけの一言が飛んでいく。先輩、アイスは?オレンジで。振り向き様に返された声を受け止めそこねて、頭の上で一度跳ねる。


「…了解っす」


オレほんとに食べられちゃうんじゃないかなあ、なんてつぶやく声色はきっと裏腹。そうだとしても自業自得。はやくしろよと急かす声でカゴの中に最後に加わったのはオレンジと、レモンのシャーベットだった。





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ふたりで鍋つつくトビデイちゃんくそかわとおもって書き始めたはずが鍋食ってない
トビウオは天ぷらがおいしいらしいよせんぱい!

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お手を拝借(鳶泥)

投げ出された手がいつかのように見えて少しだけどきりとした。なんて言ったら、信じてくれるだろうか。
転ぶという字に寝ると書いてうたたね。語源がどうかなんて知らないけれども、まさにこれは読んで字の如く。試作品であろう彼らはとうとう日の目を見ることはなさそうだ。とはいえ、勝手にいじるとどうなるかは想像に難くないのでそれには触れず、かわりに土の塊の間で同様に転んでいる作者の手の方をとってみる。つぎはぎの先は当然ながら今はしっかりと繋がっていて異形のそれも健在。真一文字に閉じられてはいるもののぷらぷらと弄ばれるまま、起きる気配なんてまるでないのが可笑しい。これはもはやうたたねの域を越えている。流石のこの人も睡魔の前ではおとなしかったようだ。
特段大きいわけでもないその手は、よくよく見れば季節柄なのか扱う素材の所為なのかずいぶんと荒れてしまっている。当人はこんなものなんともないと言うのだろうけれど。
かさつく指に、いつかのことを思い出す。もしもあのまま戻らなければこの手が再び作品を生み出すことも、それによってこんな有り様になることも、こうしてなにかに触れることも全て、なかったのだ。いくら知っていてできる無茶もあるとはいえ千切れた手が元通りになるだなんて普通のことじゃないし、だから千切れたって構わないというのはまともな発想じゃない。でもこの組織ではそれが可能だった。
知っていたから?そうじゃなかったとしたら?
その手で生み出す芸術とやらは、この人には生きることそのものだろうに。
無鉄砲、というわけではない。むしろ意外なほどに洞察力にはすぐれているし、聡い人だ。それでいて自尊心もなかなかで短気なところもある。まあ、それがらしいといえばそうなのだけれど。
知っていてできる無茶。それは油断なのかわざとなのか。はたまた信頼、なのか。例えばこのうたたねはなんと呼ぼう。問いかけようにも手の主はぐっすり眠っている。今は手袋越しでもわかるくらいにあたたかいそれ。あのとき引き千切れた腕を、姿を、みてもなんとも思わなかったはずが。


「…罪つくり」
「んなもんつくってねーよ」
「起きてたんすか」
「わりと早いうちからな」
「わーいなんで喝されなかったんですかねボク」
「する理由が見当たらなかったから」


寝ぼけているのかと思うようなお言葉をしっかり開いた目から賜る。油断、わざと、まさか残りのひとつだとでも言うのだろうか。にやにや笑う表情に、頭を一回転。これはわざとだ。


「ねえ先輩」
「なに」
「手、だいじにしてくださいね」
「わかってるよ」


一体どこまでなのかは知れないがそれでいい。この人は、思いのほか聡いのだから。触れ合った手の先からなにか伝ってしまうんじゃないか、なんて馬鹿げたことがよぎってぱっと放した手は、振り子のようには揺れなかった。


「あ、そうだ先輩。手荒れと言えばボクこんなのもってるんですけど」
「なんだそれ」
「なんとっ馬の鬣部分からほんのわずかしか採れないという天然の保湿成分がこの一瓶に!」
「どこのうさんくせえ商人だよ…うん」
「まあまあ、モノは試しですってば」


再び目的をもって触れた手の主は、こういう時は存外素直に従ってくれる。罪悪感なんかじゃないけれども、どこかしらが痛む気がして一瞬手が止まった。それに気づいた青い目に見られて、浮かんだ言葉を飲み下す。にぎった手に塗る薬は誰のため?


「安心しろよ。試作のテストはお前でしてやるからさ」
「ぜんぜんうれしくないんですけど!?」


ねえ先輩。どうかその手で、
あとにつづく言葉ぐらいなら伝ったって構わないのに。そんな都合のいい思いでつつんだ手もやはり、あたたかいのだから困ったものだ。





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知っていてそうした先輩の手をいたわるのは自己肯定と庇護も含んでるんだよっていう ほ 補足ゥ…
(手締めできない)


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点綴するせかい(鳶泥)

《※現代風味》


深い青のマフラーに、ふんわりのっかる金色の髪。ゆるりと青にまとめられ、たわんだそこに突如として差し込まれる手。ぎゃっ。短くはじけた悲鳴は、冬の夜空がすぐに吸い込んだ。ひらひら手を泳がせている犯人は言うまでもなく。


「いや~手、寒くって」
「手袋してんだろうが年中!」


青からほどけて一房。あちらこちらが踊りだした金色をととのえる手にはご指摘通りの手袋。青と黒の間で踊る金色はどうにもうまくまとまらないらしく、一度といて巻き直そうとすれば寒い、と蹴りを一発。それもそのはず、真夜中二時過ぎ。流星群がくるわけでも特別夜景がきれいな場所というわけでもない、ただの近所の冬の日だ。
高台の公園の自動販売機でホットのボタンを二回。黄色い缶は手元において、もう一方を軽く投げる。弧を描いて黒い手袋の中に収まったのはおしるこ。気、早くないっすか?との感想に、嫌いじゃねえだろと返したデイダラはもう既に甘くはない温もりの恩恵にあずかっている。初日の出を待っているわけでもない。

夜の窓を開けたらなんとなく、抜け出したくなった。そんなくだらない理由で動けるぐらいには、身軽だった。窓の外は思っていたよりもずっと静かで、それになじむように二人も並んでいる。すこしだけ見晴らしのよいここから見える町の、ちらちらとした明かりはどこかの家のもの。こんな夜更けまで起きてるなんて、とはどの口が言ったものか。それぞれに暮らしているのだから問題なんてない。ぽわりぽわり、口を開くたびに小さく泡のように目に映る白い息。ここだけ、ふたりのせかい。面の下でつぶやいた声も白くなる。


「お前それ大概にしとけよ…うん」
「なんのことだか」
「寒くてしかたねえっての」
「ボクはあったかいですけど」
「心が、とか言うんじゃねえだろうな」
「ほら先輩だって」
「お前に毒されてんだよロマンチスト」
「…よろこびますよ?」
「じゃねえとまず来てねーし」
「潔さに惚れちゃいそうですボク」
「手遅れ」


にやりと笑うその顔に一瞬、たじろいで。ずるい!なんて両手で面を覆い隠す。お前に言われたかねえよ、ずるさの種類ってもんが、一応自覚はあんだな、うん。黒い手袋の隙間から橙色を覗かせて、そのまた奥にある瞳が赤くなった鼻先と細められた青い目をとらえる。ずるいなあ、ほんとに。かみしめるように繰り返した言葉が空気にふれる前に、先回りした声が肩をたたく。


「帰ろうぜ」


抜け出してきた窓の外側と内側がつながる。明るい金色はいつだって、しるべになる。





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あとはあったかくしてねるだけ

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