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軌道は外れた(鳶泥)

「それにしても、なつかしいですよねえ」


机から棚へと資料を運びがてら、短い黒髪の男がはずんだ調子で口を開いた。各里合同中忍試験も中盤。部屋にあふれる資料の整頓に追われる男ともう一人、金色の髪を肩に流して座る岩の忍もまた試験担当の一員である。何かと雑務が多い立場ゆえ手持ち無沙汰になることは少ないはずだが、組んだ足の上で頬杖をついた瞳はじっと、木ノ葉の額当てに重ねられたゴーグルを見ている。視線に気づいたのかたまたまなのか、黒い両の目が青のそれをとらえてへらりと笑う。


「って、あんたはそんな昔の話でもないか」
「なめんな。9年は経ってるよ、うん」
「へぇ~…それは失礼しました」


ずいぶん優秀だったんですねえ、と意外そうに向けられた声に心外だとばかりにデイダラは息を吐いた。10歳で中忍。一般的には優秀の部類に入るのだろうが、何しろ二度目なのだ。細かい違いはあれども試験の仕組みなどそう変わるものでもない。覚えている、のは好都合なことも多い。そうじゃなければ割に合わない。


「ガキ扱いしてんなよ」
「だってデイダラさんオレより年下でしょ」
「もう19だよ」
「それでもオレより幾つ下か…いやいや、やめとこ。オレまだ若いし、うん!」


一人で勝手にうるさい男を、遠くのものでも見るように目を細めて見ている。それが不機嫌そうにみえたのか、ちょうど棚の下の方にしゃがんでいた男は少し眉を下げて上目づかいでデイダラに話しかける。やけに自然にやってのけるその仕草はきっと、近所の大人にかわいがられてきたひとりっこだ、なんて根拠もないことを思わせた。


「初日の遅刻のことまだ怒ってるんすか?もうゆるしてくださいよ~こうやって敬語も使ってるんだし、ね?」
「当たり前だ。おまえはオイラの、」


言い淀む。わかっているはずだ、誰よりも。今、目の前にいる男はふざけた橙色の面もしていなければ、真っ黒な外套に身を包んでもいない。ただの木ノ葉隠れの上忍、うちはオビトなのだと。
デイダラさん?名前を呼ばれて我に返る。後輩でなければ先輩でもない。どうもしていないしどうしようもない。途切れた言葉をつなぎ直すために、ひとつ。


「…いや。アンタに似てる奴がいて、な」


わかりやしない嘘をついた。


「オレにっすか?そりゃあさぞ優秀なできる人なん…」
「調子だけはよくていっつもやかましいわうっとうしいわ先輩は立てねえわ寄り道ばっかしたがるわでどうしようもねえ後輩」
「デイダラさんそれはその…遠まわしにオレを…」
「でもたまには役にもたつし頼れないこともないし意外と勘も働くし基本的にゃ言うこともきくし…なにかと飽きねえ奴だよ、うん」


そこまで言い終えて、気づけば隣で男は笑っていた。くつくつと楽しそうに、やわらかな声で一言。


「なんだかんだその後輩さんのこと、好きなんじゃないっすか」
「そう、かもな」


あわせてもち上げたはずのデイダラの口角は半ばで落ちて、青い瞳が滲んでこぼれた。なぜか、なんてわからない。それを反射的に抱きとめた方だってきっと、どちらも。
慌てたようなすいません、の一言ですぐ離された腕の感触が青い瞳の奥の記憶と重なったような気がしたことなどもう、確かめようがないというのに。何も知る由もない男は既に乾いた目元を腕で拭ったデイダラにこすっちゃだめですよ、と声をかける。無意識にとってしまった自分の行動に対するばつのわるさを払拭したいのか、明るい調子で矢継ぎ早に言葉を放つ。泣いてる人をほっとけるほど非情じゃない、だなんて。どの口が言うんだとは返せない。記憶の中の影とはやはり重ならないのだ。けれど。


「なんでっすかね、あんたに泣かれると、すごくこたえる」


少し抑えた声で続いた言葉と困ったように笑った顔は、さっき見たものよりも近い気がして。どうしようもない気持ちで繕ったデイダラの表情が、目の前のオビトにはどういう風にみえたのだろうか。


「(まるで逆だな)」


飲み込んだ言葉は数知れず。そのかわりに吐き出した言葉で、今の話をする。


「なんか、懐かしくなってさ」
「やだなあ昔懐かしんで涙するなんてデイダラさん、まだそんな歳じゃないでしょ」


オレも上忍になるまではそりゃいろいろありましたよ、と続く話は幼なじみのライバル、初恋の女の子、初めての任務、中忍試験。それら全部が当然、デイダラの知らない話。聞かされる今の世界で積み重ねてきた思い出に、何故自分はちがうものをもっているんだと、自らの手のひらを見る。そこには何もない。


「ね、思い出ならまだまだこれからいくらでもつくれるじゃないっすか」


若いっていいですよぉなんだってできるし自由で、そう言って笑うのだ。屈託のない顔には眩しささえ覚える。オビトが言うこれまでとこれから、デイダラのそれとはかみ合わないこれまで。これから、がどうなるのかなんて。
時計に目をやり、もうこんな時間だと新しい資料を抱えばたばたと駆けていった後ろ姿が見えなくなってから一人残されたデイダラはそっと、つぶやく。


「オレにはおまえのほうがずっと自由にみえるよ」




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CHAKAのふじこさんが描かれていた『二巡目の世界』のふたりにもえたぎって、記憶のあるデイダラさんとなにもかも逆転する二巡目ウオオオと勝手に妄想はかどらせた結果がこれです
お話してたらゴーサインいただいた気がしたのでつい…
今デイダラさんの前にいるのはオビトくんだけど、その中にトビをみてるのでトビデイだしむしろデイトビ
でも目の前の彼は、なにもしらないうちはオビト

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せせらぎ(鳶泥)

裾を両手でたくし上げ歩く様は、どこかでみたことがあるような気がする。
ぼんやりとした既視感でゆれる姿と水面が、日の光をちかりと反射して明瞭になった。裸足で水を蹴る様子はなんだか楽しげでめずらしくも思え、こうして傍観を決め込んでしばらく。実際めずらしい話だ。率先して寄り道をしたがる自分をさしおいて、用もないのにこの人が足を止めるなんて。外套を濡らさぬよう両手は塞がっているというのに、普段と変わらぬ身軽さで飛び回っている。文字通り止まっているというわけではない。重い外套なんてそこの岩の上にでも置いておけばいいのに。
そろそろなにか声をかけたくなって適当に口を開く。足、切らないでくださいよ。川の中の石は思っているより鋭利だったりする。声に気づいてこちらを見た顔がにやりと弧を描いた。ただのわるいかおだ。


「岩隠れ育ちなめんなよ」
「抜け忍があんまり大きな声で言うもんでもないですけどね」
「うるせ」


対岸の岩に飛び乗って腰を下ろすその人は、岩場には慣れていると言いたいようで。ぶらぶらさせている足には傷のひとつもあるはずなく。森に囲まれた岩場を流れる小川はさしてめずらしいものではないし、服や体がよごれたわけでもない。しいて言うならば、本日の空模様は快晴。それぐらいだ。
木漏れ日の中、水面は静かに流れている。魚はいるのだろうか、なんてどうだっていいことを考えてみる。道草や寄り道に明確な意図なんかなくて当然なのに、普段と逆の立場になるとどうにも。この人がこういう風な時は決まって芸術とやらが絡んでくる。そのことぐらいは知っていたはずが、気づくのが一足遅かったようだ。突然の水しぶきに声をあげる間もなく頭からずぶ濡れた。
振り返った先には羽をばたつかせる白い鳥。見慣れない姿は見慣れた造形でつまるところ、あそこで片膝を立てて笑っている芸術家の作品であることは明白。光と水のせいでぼやける視界をしばたいて、とりあえず間延びした声で不満をあらわせば反対に満足げな様子のその人はひらりと岩から飛び降りた。


「なんなんすか、この生き物…」


長いくちばしの喉のあたりが袋状に垂れ下がったそれは人に水を吐きかけたっきり、自由に川辺を行ったりきたり。その頭をひと撫でして作者はモチーフについて簡単に説明する。ペリカンという鳥らしい。


「水と一緒に魚を捕って、水だけ吐き出すんだそうだ」
「へえ…器用なもんですね」
「陽動なんかに使えねえかと思ったんだが…やっぱいまいち威力には欠けるな、うん」
「ボク実験台っすか」
「涼しかったろ」


あいかわらずの顔。多分実戦向けの試作、というわけでもないのだろう。せっかくなので野暮な疑問は飲み込んで笑っておいた。賢明な判断だ、我ながら。


「川遊びとかさ、しなかったか?」


言葉尻にあわせて川に石を投げる。大きく二回跳ねたかと思うとすぐに沈んだ。少し苦い顔で向こう岸をにらむ目が可笑しい。


「どうでしたっけね~あんまり覚えてないです」


同じように、平たい石を拾ってなんとなしに投げてみる。一二三四五、六。思いのほかよく跳ねた。


「やだねえ。年食うとこれだ」
「そりゃ先輩よりは大人ですけど…」


今日は尚更。と、皮肉っぽい部分は心の中でなぞる。なんとなく今は、荒立てたくないと思った。
見るといつの間にか足元を整えたその人はもう、先に向けて歩きだそうとしている。切り替えがはやいというのか、なんというか。ねえ先輩、と呼びかけると普段より丸い目が振り向いてこちらを見る。


「もっと寄り道してもいいんですよ」
「お前はそればっかじゃねえか…」
「その方がボクも普段から言い出しやすいですし?」
「目的わすれんなよ」


そう、笑って一言。たまに核心をつくようなことを言うのだ。もっとも、他意はないのだろうけれど。今はなんてことはない任務中。ぜんぶ、なんてことはない途中のはなし。川の流れる音に後ろ髪をひかれながら、前をゆく金色を追いかける。





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あそぼうシリーズ第二段は川であそぼうです
(第一段は町であそぼう)
たまには先輩だってあそんでもいいじゃんね ね

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ぬばたまのゆめ(鳶泥)

「あっ流れ星」


きっと星の方も聞き飽きたであろう常套句で紺色の空を差す黒に包まれた指先。大抵の場合、一連の動作が済んだ時にはもうお目当ての姿はなくなっている。それを知ってか知らずか、ひとり言に近い呼びかけに空を見上げることもせずそっけなく返した相手は下を向いたまま落ちている枝を拾う手を休めない。遥か上方より遥かに明るい金色が地面の近くで宙に流れてゆれている。それを後目にもう見えない星に向けて庇のようにかざした手は、夜空の下では意味はない。遠くが見えるわけでもなし、ましてや眩しいわけでもなし。ゆるりと降ろした右手のままに屈んで、地面につきかけていた金色の髪を軽く掬いあげる。かち合った視線でぴたりと止まって、揃って立ち上がると先程の流れ星に対するデイダラの反応の薄さにトビが大げさに不平をこぼしてみせる。それに対して口より手を動かせ、と返したデイダラは空いている方の手を爪をたてるような形にして手首を軽く上下させる。獣に襲われるぞと言いたいらしい。


「薪集めなんてどかーんとやっちゃえば一発じゃないっすか?」
「生木はちゃんと燃えねえだろ」


とっとと拾ってこい、とひらけた地面に抱えていた枝を置きデイダラは踵を返した。焚き火は野営に不可欠だ。忍であれども野生の生き物を甘くみるべきではない。炎は身を守るため。暖をとるため。辺りを照らすため。
しょうがないとでも言いたげな素振りで、残されたトビも周囲に落ちている枯れ枝を拾い歩く。適当な量を集めて戻ってみれば、デイダラの姿はまだない。同じように抱えた枝を先程の上に重ね置き、印を結んで息を吸う。軽く吐く。一瞬、面の下の白い肌が炎に照らされ面と同じ色に染まった。戻ってきたデイダラの目に映ったのはいつもの面と橙色に燃える焚き火。いつのまに、と問う声にボク火おこし得意なんですよね、と返してみせた表情は見えない。


「知ってました?」
「知らねえよ」


座り込んで追加の薪を火にくべながらデイダラが一蹴する。ごもっとも。少し空けてトビも隣に座る。ぱちぱちはぜる音の間でちっとは役に立つこともあるんだな、と声をかけられ、でしょう?と首を傾けてみせた。


「流れ星に願い事すれば叶うって言うじゃないですか」


時折たちのぼる火の粉を目で追って、懲りずに話題を戻す。てっきり先輩なら何お願いします?とでも尋ねるのかと思えば。もし今夜もう一回見れたなら、の前置きの後に続いた言葉はてんでばかげているがどこか冷ややかに真剣だった。


「世界征服とか、どうですか」


黒い燃え滓が炎をまとって舞い上がり、煤になる。暗闇と紺色の空の間でいつのまに、どこに消えるのかはわからない。ぱち、と小さくはぜる度に辺りの澄んだ空気は熱と煙をはらんで少しこもっていく。
でも三回も唱えなきゃいけないなんてケチですよねぇ、と黒に包まれた指を三本立てて軽い感じで空を仰いだトビにそりゃ星も身軽で流れたいんだろ、と伏し目のまま笑ったデイダラ。長めの木の枝で空気の通り道を調節すると炎は少しだけ勢いを増した。瞳の青に輝く橙が映り込む。


「先輩そういうの信じない人ですよね」
「流れ星はきらいじゃねえけどな、うん」
「三回なんて言えなくたって先輩とならできちゃう気がするなあ、世界征服も」
「なんだそれ。まあ、暁の目的はそれに近いもんもあるだろうけど」


青い目は少し細められ、炎と一緒にゆれている。最近は移動がてらのちまちました交戦が続いていた。今日は挙げ句に日が暮れ近場に町もなく、粘土のストックも残り少ないということで、こうして野営する羽目となったのだ。火をおこしたからには念のため、見張り番も必要だ。枝が燃えていく音と同じぐらいの声量で先輩、と隣から呼びかける声。青い目は顔ごとそちらを見た。


「ボク平気なんで寝といてください」
「寝不足で足手まといになられても困るしお前寝とけ」
「先輩眠たいんでしょ」
「しばらく火の番しといてやるから」
「…じゃあもう、ふたりで起きときます?」


ぱちぱち、青い目で、橙色が燃えている。じっと見ているそれはなにも言わない。引き込まれる。いつものようになんてね、と。それだけ言えれば何事もなかったかのように眠れたものを。すっと伸びてきた手が黒をつかんでひっぱる。少し空いていた間は詰まって、バランスを崩しそのまま地面に傾く。土の上に広がった外套。裏地の赤にも辺りの闇にも、どうにも映える金色を、黒が覆い隠してしまう。番をする人間がいなくなった焚き火は次第に燻り消えてしまった。獣に見つかろうが文句は言えない。なにがあろうと、誰も。誰にも。




「忍なんざ明日をも知れぬ身だろ」


まあオイラはそう易々と死ぬ気はねえけど。ほどけた髪を結い直し、首から胸元に流れた残りを後ろへかき上げ元どおり。炎の影はすっかりない。


「じゃあなんで、」
「なんでかね」


辺りは仄かに明るく日の出も近いようだ。明日はやって来た。結局は、そういうものなのだ。
埃っぽくなった外套をはたき、朝の空気を取り込んでふわりと羽織ったデイダラはいつものように一言でトビを呼ぶ。それに応えて立ち上がり一歩踏み出す。消し炭にもならずに黒と白の灰になった枝は踏まれてぱきりと鳴って、風に紛れて消えてしまった。





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(枕詞はピロートークの和訳じゃない です)


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re-.(鳶泥)

《※現代風味》



そうじ日和だった。そんなもの、ただの晴れの日と言ってしまえばそれまでなのだが。玄関のドアのすき間は水を入れたペットボトルをはさんでつくられた風の通り道。ドアストッパーなんてものがあるような部屋ではなくとも、ほこりっぽい部屋の空気と晴れの日の風とは交換したいものだ。だからこんな日をそうじ日和なんて位置づけてみる。
階段をのぼる足音がする。錆びた赤茶色をけずってはぱらりと落としながら靴底は、すき間の開いた扉の前でとまった。風以外が通りぬけることを想定していないその道を自分が通りやすいようにひろくして、当然のように進入。風の通り道はきちんとつくり直す。日光が透明な曲線に反射してちかりと光った。


「不用心だな」
「ウチなんて先輩か野良猫くらいしか入ってこないですよ」
「人を野良猫と一緒にすんな」
「やだなあ、先輩そんなかわいいもんじゃないでしょ」


わかりやすく手のひらをグーの形にしてかかげてみせたデイダラに部屋散らかるんでいまは勘弁してくださいね、と分別に勤しむトビが片手間に返す。元々物が多い部屋ではない。それどころか板張りの床にはカーペットすら敷かれておらず、まるでいつでも引き払える様相なのは相変わらず。ウィークリーマンションでももう少し色がついている、と言われた時は笑っていた。
大方分別は済んでいるようで焦げ茶色のフローリングの上ではいくつかのかたまりが小さな島のよう。まだきれいな家電、福引きで当たったような未開封の日用雑貨、もう着ないらしい服、読み終えたであろう本、ペットボトル飲料のおまけ。備え付けのクローゼットが最大限に活用されていたようだ。
見るからにゴミ、の体は成していないので第三者が区別をつけるのはむずかしい。肩からかけていたカバンを下ろしたデイダラが、かたまりとかたまりの間にしゃがみこむ。透明なビニール袋に町指定の文字はない。この辺りはそれほど分別には厳しくないらしい。ペットボトル飲料のおまけ。これは分けるとしたらプラスチックだろうか。袋に入ったままのものや裸のもの、状態は様々だったがどれも使用感はなくただなんとなく集まっただけに思える。ひとつつまみ上げると商品名と全7種類と書かれたタグがゆれた。これが7種類の内の何種類目かは知らないし興味もない、という顔をしている。手伝えと言われたわけでもないが、じっとしているのは性に合わないのがデイダラ。透明な袋ががさりと音をたてると同時に、あー!と後ろでクローゼットを掘り起こしていたトビが振り返って大きな声をあげた。


「なんだよ…いらねえだろこんなもん」
「いや、そりゃそうかもしれないですけど」


はっきりしないトビの口振りに沸点の低めなデイダラは眉を顰める。見慣れたその表情に向けてそれ先輩がくれたやつですし、と小さくつぶやくとデイダラから先程のトビばりの素っ頓狂な声がでた。身に覚えがない。かけらほどもない。そういう顔をしている。人差し指を立てながらほらあのとき先輩がいらないからってうんたらかんたら、言われてようやく記憶の片隅にあった気がしてくるぐらいの出来事を細かに話してみせるトビに唖然とするデイダラ。それは経由しただけだろ、とでも言いたげな表情は今日は一層くるくる変わる。


「使うか使わないか、で言えば?」
「使わ…ないです」
「んじゃいらねえな、うん」
「あー!」
「うるせえ片付けてんじゃねえのか!」


時折こうしてそれまでを一掃するかのように大掛かりなそうじをするトビも、物に頓着しないというわけでもなかったらしい。人それぞれものさしはあるだろうが、おそらくこの場合のそれはここにいるので結論は今に出る。袋とおまけを両手に持ちながらも未だ渋っているトビにいよいよ業を煮やしたデイダラが、細めた青い目とため息混じりで問いかける。いま目の前にいるのは?


「デイダラさん、です」
「じゃあこんなもんいらねえだろ、うん」


全7種類の内の何種類目かがデイダラの手によってビニール袋の中へと消える。もうトビはなにも言わなかった。言わんとしていることがわかったのなら、なにも言わないままでいればいいものを。先輩もしかしてかまってほしかったんですかあ?などと、丸わかりな声色でわざわざ茶化す。それをデイダラが適度にいなしてそうじは再開。馬鹿言ってないでとっととかたせよ、フローリングの上でビニール袋が風にふかれて音をたてた。


「よっし!あとはリサイクルショップもってくだけッス」
「捨てないところが貧乏性だよな」
「塵も積もれば、ですよ?案外おもしろいものもあるし。ほら先輩も食べたじゃないですか、かき氷」
「あれもか…」


いつぞや見た手回し式かき氷機のことを思い出して苦笑い。あれがこの不要品の島にないということは今後出番があるということらしい。冷蔵庫にまだあるはずのブルーハワイのシロップには触れないことにする。
風の通り道を内側からひろげて外に出る。結局ふたりして近場のリサイクルショップにぶらぶらと向かっている。荷物はひとりでも持とうと思えば持てる量だったが、暇をつぶせるようなものもない部屋なうえじっとしているのは性に合わないのがデイダラ。多いとも少ないとも言えない不要品は3枚の紙幣に化けた。残念ながら0は一桁少ない。


「なんかほしいもんないですか」


帰る道すがら、売上3枚をひらひらさせながらトビが尋ねる。3000円以内ですけど、と補足も忘れない。どういう風の吹き回しだと笑ったデイダラへ返されたのは簡潔な答え。


「や、そろそろ誕生日だなと思って」
「あー…じゃあ粘土」
「わあものすごく実用的」
「いくらあっても困らないしストックも減ってきたし」
「先輩らしいッスね」
「あの殺風景な部屋にオブジェ増やしてやるよ」
「引き取り不可なものはちょっと」
「そんときは窓から落としゃいいさ」


冗談っぽく言えばそれ以上の皮肉で返された。わかっていて殊更に言っているのだろうが、きっと半分は本気だ。


「…先輩の芸術観って、よくわからないです」
「おまえに言われたかないね」
「期待しないで待ってます」
「オイラは有言実行だ、うん」


にやりと笑んだ頼もしい表情どおり後日、すっかり片付いていた黒のローボードの上に映える真っ白な鳥の置物が鎮座することになった。その視線の先にはショートケーキ。もらってばかりでこれじゃどちらが誕生日かわからないとトビが用意したものだ。チョコレートでできたプレートまでしっかりのって、いかにもらしいのにサイズは賢明な1カット。苺とクリームとでぎゅうぎゅうになっているチョコプレートに書かれたシンプルな祝いの言葉をトビがなぞると、誕生日の張本人は特権であるプレートをおもむろに割り半分を面の下にある口にほうりこんで一言。


「ありがとな」


ふわりと笑った顔と甘さに呆けて、すこし遅れてからトビもまた、同じ言葉を返した。





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暁みんなで、ふたりで、現パロで、とこうやってお祝いするのもさんかいめです 先輩おめでとうありがとうSUKI!

ちなみに5/1でもうちょっとも2歳になりました
これからもぼちぼちマイペースにやっていきますのでよろしければおつきあいくださいませ~

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