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すくいようがない(鳶泥)


「ちょっと付き合え」
「えぇっ!付き合えって先輩…ついにボクの思いが通じ」
「バカか!買い出しにだよ、買い出し」
「先輩いつも一人で行くじゃないすか」
「…行くのか行かねえのか」
「行きます行きます!」


一体どういう風の吹き回しか。何であれそれはトビにとっては追い風であった。
たかが買い出しと思うかもしれないが、デイダラが任務以外でトビを引き連れて行動することはこれまで皆無だった。おい、と短い呼びかけの後に続いた言葉はトビを舞い上がらせるには十分すぎる。


「あー…なるほど」


が、舞い上がった矢先に着地した。
これじゃああの鳥には乗らないな、いつもの量を遙かに越える粘土や作品作りの材料を目の当たりにして、自らの作品に乗ってどこへでも飛んでいくデイダラの姿を思い起こすとトビはひとりごちた。
早くついてこいよ、とは言うが自分がこれを持ち歩く役目なのは明白。荷物持ちったって、いくらボクでも限界ってものもあります。意気消沈のまま言いたげなトビは、何かを思いついたようで歩き出そうとするデイダラを呼び止める。


「先輩ちょっとだけ後ろ向いてて下さい」
「なんでだよ」
「いいからいいから!」


しぶしぶデイダラが荷物の山とトビに背を向ける。と、瞬き一つの内に山が消えた。(正確にはトビの面に向かって吸い込まれていったのだが、往来を行く人々にも消えたようにしか見えなかっただろう)


「はーいもういいですよー」


さっきまでここにあった、あるべきはずのものがない。
デイダラは目を丸くしている。トビはといえば手品師が技を披露した後の如く、胸の前辺りで両手を広げたポーズをとっている。そのあまりに軽い様子に大事な荷物を失ったかもしれないデイダラは当然のように怒りを露わにする。


「テメェ!荷物どこやったんだよ!」
「わーわー!先輩落ち着いて落ち着いてっ」


ちゃんとありますから、と弁明するトビを(日頃の行いも手伝って)にわかには信じられないデイダラはもう一度目の前に荷物を出してみるよう要求し、トビが同じ行程を経て再び取り出す。これを三回は繰り返した。


「それ、どうやったんだ?」
「それは…ホラ、魔法使いですからボク~」
「忍だろうが。どんなへっぽこでも一応は」
「せんぱいひどい」


仕組みはわからないがとりあえず納得はしたデイダラがそれならもっと買いだめしておけばよかったな、などと呟く隣でため息まじりでトビが口を開く。


「だって…あんな大荷物持ったままじゃデートもままなりませんし」
「寝言は寝て言え」
「あ、大荷物持って後ろからついてく~っていうベタな方がよかったですか?なら頑張ってみようかな、なーんて!」
「…いや、いいよ。うん」
「へ?」


良くて蹴り、もしくは爆発物が飛んでくると身構えていたトビはしまい込んだ荷物の代わりにいつにも増して間の抜けた声を出す羽目となった。


「今日は普通に話がしたいって思っただけだしな、お前と」


どうしていいのかわからない。
そういう類の沈黙が両者の間を行ったり来たりしている。これは、柄にもなく、照れてしまっているのではないだろうか。あれほど饒舌なトビが、だ。えーだのあーだの口ごもっていて埒があかない。


「お前何考えてるかわかんねえだろ、うん」


今は何言ってんのかわかんねえけどな。
続いた言葉は笑みを孕んでいたがトビにそこにつっかかる余裕はない。想定外の出来事に弱いようだ、この男。


「コンビとしては、ある程度お互いのことも知っておいた方がいいだろうと思ってさ」


そして普段飽きることなくからかい続けているデイダラは、トビが考えているよりもずっとちゃんと先輩だったようだ。聞きたいことがあれば今日は何でも答えてやると言う先輩に、目の前でうろたえる男がようやく発した一言。


「先輩、すきなたべものなんですか」


このていたらく。


「っ…なんだそれ!」


せっかくのチャンスをものにできない。肝心なところでしくじる。こんな調子でどうするのだ!
己の不甲斐なさに思わず頭を抱えたトビだったが、はじけるように笑うデイダラを見てまあこれはこれで悪くないか、と自分に向けられた貴重な笑顔と共に唯一聞き出せた好物を記憶に刻み込むのであった。




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やまなし おちなし いみなし 3

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