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ノーネーム(鳶泥)

呼ばれた名前に一瞬作業の手が止まった。なんてことはない。自分の名だ。ただ、普段この後輩はあまりそれを口にしない。いつも間柄で呼ぶのだ。それだけに少し違和感を覚えたのだろう。深い意味はない。


「デイダラさん」


何度目かの呼びかけともつかないそれの違和感を払拭する為、ついにオイラは返事をした。これは面倒だな、と感覚的に思った。


「なんなんだよ」
「いや、呼ばれる名前があるっていいなあと思いまして」


早速これだ。内心ため息を吐きつつ意義が見いだせなさそうな問答に少しだけ付き合う。


「お前だってトビって名前があるじゃねぇか」
「そう、なんですけどね」
「お前はトビだ。とりあえずオイラがお前をそう呼ぶ限り、お前はトビ以外の誰でもねぇよ」


呼び名なんて、何でもいい。互いに認識できていればそれで。
即物的に聞こえるかもしれないが、そうではないことをトビも自分も、知っている。
なあ、お前はトビだろう。それ以外は分からねえし知らねえよ。うん、知らねえ。


「せんぱいはやさしいなあ」
「当たり前だろ、うん」


人の為、と書いて偽りと読むがこの場合その人とは一体どちらのことなのやら。なんて、どうでもいいことが浮かんだが口には出さない。何せオイラはやさしい先輩で、こいつはバカな後輩なのだから。
そんなくだらない会話をしたのはいつだったろうか。


「なあお前トビなんだろ」


何の因果か再び舞い戻ってきたこの世で見たのは生前見慣れていた顔がいくつかと、初めて見る気のしない趣味の悪い面。これじゃあ死んだ気もしねぇってもんだ。面は造形こそ変わりはしているものの、その薄気味悪さに一目で気づいた。
随分な態度だなオイ。結局、最期まで世話やいてやってたやさしい先輩に詫びの一つもねぇのか。一方的な言葉の投げかけに既視感を覚えつつ、これじゃあ逆だと笑う。


「そんなにクールに振る舞えるならあん時からやっとけってんだ、うん」


呟いた言葉は相も変わらずひとりごとだったが、立ち去ろうとした足が僅かに止まったことに、少しだけ気が晴れた。


「(なあ、トビ)」


返事のない今、こいつはもう自分の知るそれではないのかもしれない。
オイラがそう呼ぶ限り。いつぞやの他愛もない会話がもう一度浮かんで消えていく。

死んでからのことなんて自分にも誰にもわからない。今こうしていることなど誰が想像できただろう。それと同じだ。いつまでも相方だ、なんてこと誰が言った。
ああでも腹立たしいことに、もう無いはずの心臓がほんの少しだけ、痛い。




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仮に違和感には気づいていたとしても、知らないふりをしてあげられるくらいにはデイダラは聡いと思うのです
えどてんは妄想の余地がありすぎる

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