もしさわれるのならばきっとやわらかくてあたたかいのだろう。そんな手を伸ばしたくなる日差しが、金色の髪をきらきらと照らしている。髪が散らばる板の間はそれを受けて随分とあたたかそうだ。さわれない日差しの代わりに、それをたっぷり吸い込んだ金色を一房すくい上げると思い浮かべた通りの感触。
春眠暁を覚えず。そういう言葉があるが、一体この人はいつからここでこうしているのだろう。トビは日差しと同化しそうなそれに声をかける。
「こんなとこで寝てたら風邪ひきますよ」
地べたに転がるデイダラはゆるく瞼を持ち上げながら言う。金色がきらきらしている。
「ひかねぇよ、春だから」
寝起きということもあってかその表情はとても曖昧で、寝ぼけているだけとも微笑んでいるともとれそうなものだ。かき混ぜればとけてしまいそうな青い瞳を見てトビは尋ねる。
「なんかいいことでもありました?」
「別にねぇよ、うん」
「口元だらしないですよ」
「しかたねぇ。春だからな」
「なんすかその理論」
うつぶせのまま頭だけ持ち上げて話すデイダラはふわふわしている。纏う空気も日差しとあいまって中和、むしろ飽和している。普段のどこかぴりつく感じはない。
「オイラ春って好きなんだ、うん」
「先輩春生まれですもんね」
「桜も好きだ」
「儚く散りゆく~ってやつですか」
「お前も好きだぜ、トビ」
「え」
頬杖でへらっとしているデイダラにどう応えるべきなのか。わからなくなったトビはとりあえずいつもより無防備な口元に自分のそれを重ねた。
顔と顔の距離が定位置に戻ると、デイダラはちいさな粘土の塊を自らの掌に含ませた。これはいつものアレがくる。トビが身構える間にころんとちいさな鳥のようなものがデイダラの掌から姿を現す。
ぴっと二本指を立て、間延びした声で発せられた定形詞。それに応えるように羽ばたいたちいさな鳥がぽんっ、とかわいらしい音ではぜた。身構えていたトビは間抜けな声を発するだけに終わり、デイダラは変わらぬ頬杖のままけたけた笑っている。
「バーカ」
やわらかな青い瞳と頬杖をついていない方の腕がしゃがんでいたトビの頭を引き寄せる。
「(どっちがだよ)」
日差しはあたたかく、首にまわされた腕もそうで、つめたい面をずらしてふれあう鼻先も、唇も。
青い瞳に赤い瞳をとかしてまぜあわせてしまうことは叶わないが、つかの間の春の陽気の中だけではこうやってただなんとなくしあわせだと思うことがあっても咎められはしないはずだ。
春の日差しはあたたかい。
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春っぽいしあわせな話を書きたいと思ったら先輩がちょっと頭のねじがゆるい人になってしまいました
きっと春にあてられたせいです
今まで自分が書いてきた奴らの中でもこんなにちゅーさせたくなる二人は初めてなんですが、その理由のひとつが仮面の存在であることは間違いないです
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