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てのはなし(鳶泥)


「て」


特に居心地も悪くない沈黙をやぶったのはデイダラの唐突な一言だった。


「て?」


同じ文字を復唱し暫く意味を考えた後、つなぎます?と問いかけたトビをつながねえよの一言で一蹴し、デイダラはまた押し黙った。意図の分からないその様にトビは小首を傾げる。頭上にクエスチョンマークが浮かんでいるのが見えるようだが、それは幾らもしないうちにすぐ電球へと変わった。なんとも古典的な感情表現をする男だ。そしてすっとデイダラの前に自らの手を差し伸べる。


「ハイ!」


勢いよく言い放ったはいいが依然として沈黙は保たれたままだ。あれ?違ったか、などとつぶやくトビの手をじっと見ていたデイダラがおもむろに口を開いた。


「オイラお前の手は、わりと好きだぜ」


うん。といつもの口癖で締めくくられた会話ともならない会話は神妙な面持ちのトビの言葉によって再び動き出す。


「先輩」
「なんだよ」
「ボクのこと口説いてます?」
「どこをどうとったらそうなんだ、うん!」
「だって先輩が、ボクのこと好きって!」
「お前の手が、だ勘違いすんな!」
「手だってボクの一部じゃないですか!」
「パーツとしてだよ!あくまでも手という造形としてだ、うん」
「パーツだのなんだのって何サソリさんみたいなこと言ってんすかほんっと芸術家って人達は…素直にボクのこと好きって言ってくれてもいいんですよ?」
「誰が言うかそもそも好きじゃねぇし」
「もうっ素直じゃないんだから!」


言葉尻にタイミングを合わせたトビの両手がデイダラの頬を勢いよく掴んだ。驚いて一瞬見開かれた青い目はすぐに不快そうに細められる。すらりと伸びた長い指にデイダラの前髪が流れて落ちた。


「ようし、爆発がお望みのようだな」
「あ、先輩。ちょっとドキッとしたでしょ」
「迂闊なこと言うなよオイラの手は既に粘土入れに…」
「えー、そうと聞いちゃあ思い通りにはさせませんよっ…と」


腰につけられたケースに突っ込まれていたデイダラの手を素早くとり、自分の方へと引き寄せる。かじりかけていた粘土を落とした掌の口が文字通り口惜しそうだ。空いているもう片方の手で同じものを掴んで今度はトビがじっとそれを見つめている。デイダラは何か言いたそうにはしているが、一連の動作があまりに手際よく行われたことへの驚きでいつものように言葉が出てこないらしい。青い目が再び大きく見開かれている。代わりにべろりと舌を出した掌がデイダラの内心を代弁しているようだ。その手首を掴んでぷらぷらと弄んだままトビはこんなことをしれっと言ってのける。


「先輩の手って性的ですよね」


親指で掌に開いた口の歯列をなぞると軽くデイダラの肩が跳ねたのを見て、面の下でニヤリと笑ったであろうトビはそのまま口内へと指を押し入れていく。ゆっくりと舌をなぞり、ぐるりと指を這わせながら顔を見てみるとデイダラは唇を固く結んでいて、行き場の無い視線はどこか斜めに逸らされている。その反応と未だに拳がとんでこないことに気をよくしたトビは掴んだ手の高さまで身を屈め、空いている方の手で自身の面をずらしそのまま掌に口づけた。途端、鳩尾に一撃。


「調子のんなよテメェぶっ殺すぞ!」


いつにも増して重たい蹴りを決められてその場にうずくまったトビを上から睨みつけるデイダラはもう普段の調子を取り戻している。それを下から見上げるトビもまた、腹部を押さえて面を直しながらいつものように大げさにキャンキャンと吠えるのだ。




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手っていいですよ ね!


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