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お酒は二十になってから(泥鳶泥)


「え~…っと、」

状況を整理しよう。
ここは宿で今はそれなりに夜も更けていて背中は畳についていて目の前数センチ先にはよく知る先輩の、顔。 考えてみればこんなに近くでまじまじとこの人の顔を見たことがあったろうか。否、こんなにこの人に見つめられたことがあったろうか。見たこともない挑発的な青い瞳に背筋に悪寒が走る。重力に従ってさらりと自分にかかる金色の髪がきれいだなんて思う余裕も今はない。こんなことでペースを乱されるなんて、我ながら全くらしくないのだが。
ことの発端は夕飯時、まさかあの判断がこんなことになるなんて。誰か、想像できていたなら予め知らせてほしかった。




「あー!先輩、未成年の飲酒はいけないんですよぉ~?」

宿の夕飯に珍しく酒がついてきた。そういえばこの辺りは酒処だったな、なんて思いつつ出された酒瓶に手をつけようとすると当然の如く伸びてきた手が自分より先にそれを取っていた。

「犯罪者が今更何言ってんだ」

酒を注ぐ片手間にそう返し、自分のグラスを満たした先輩は酒瓶をボクに手渡す。同じくグラスを満たし終えたボクが丁度中間に瓶を置くと、当然のように先輩はそれを自分の側に寄せた。

「先輩お酒飲めるんですか?」
「当たり前だろ、うん」
「全然そんな風には見えないんですけど」

どうせ飲んだらすぐに潰れるだろうと高を括っていた結果、みるみるうちに瓶は空いていき(ボク二回も注いでませんよ、それ)気づいた時には空になっていた。
普段飲み馴れていない奴が酒を飲むとどうなるか。大体予想できるパターンは幾つかにしぼられる。一、すぐ眠る。二、泣き出す。三、笑い出す。四、愚痴と共に絡んでくる。この人の場合大方一か四といった所だろうと思って放任したのが間違いだった。久々に後悔の念が押し寄せる。この人の場合、その内のどれでもなく。
五、

「お前、飯の時もそれ付けっぱなしでよ…そんっなにオイラが信用できねぇか、うん?」

普段からは想像もつかない力で真っ直ぐに畳に叩きつけられて、真っ直ぐな視線が真っ直ぐボクを射抜いている。

「(誰がこんなに酒癖悪いと思いますか!)」

膝立ちで馬乗りになった先輩は片手を畳につき、空いた利き手で面に手をかける。いくら冗談でこの面に触れることはあっても普段はあれで気を使っていたのだとこの状況になって痛いほど分かった。良心の欠片もなくひっぺがされて放り投げられた面が泣いている。変わりに申し訳程度に自身の両手で顔を覆ってみるものの、それに大した意味はない。

「せ…先輩?」
「うるせぇちょっとは黙ってな」

口内に侵入する生暖かい感覚。大して飲んでもいない酒の香りが頭に広がる。問いかけてきたり、黙れと言ったり、一体どうしろと。酔っ払いの言うことはころころ変わる。この人に限っては普段から割と傍若無人なところもあるけれど。ぼうっとする頭でそんなようなことを考える。

「(まあいいや)」

どうせこれだけ酔ってちゃ覚えてもいまい。素顔云々はこの際問題じゃない。写輪眼を見られたわけでもなし。いざとなれば幻術でなかったことにだってできる。それならばいっそこのあり得ない状況を楽しむべきだろう。何が起きても全ては酒の所為。
顔と顔との距離が始めのそれに戻り、青い瞳がニヤリと笑んだかと思った瞬間。突如胸にのしかかった重みに思わずぐえっ、と色気の欠片もない声が漏れた。続いてため息も。理由は一つ。
この人、寝てやがる。

「据え膳食わぬは~って言葉、知ってます…?」

ねえせんぱい、
呼びかけてみたところで返ってくる声はなし。すっかり寝入ったその顔は自分がよく知るそれと同じで、黒の装束に散る金色の髪をようやくきれいだと思うことができた。

「ほーんと、柄にもないなぁ」

呟いた言葉はどっちのことやら。天井の木目を仰いでもう一度ため息を吐いてから、人の上で寝息をたてている先輩を起こさないようにそっと敷いてあった布団に運んだ。

「全く…次の機会があれば、知りませんよ?」

シーツの上に散った髪を見てやっぱり白より黒の方が映えるな、なんて思いつつきれいな金色を一撫でして部屋の隅に転がる橙色の面を拾いに向かった。




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男前な先輩と押されると案外何もできなくなるトビ

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