《※現代パラレル大学生》
「もしオレがシカちゃんの大切なひととか、殺しちゃったらどうする?」
大学の最寄りのファーストフード店は昼時を過ぎても尚騒がしい。
学食でもいいと言ったのに、どうしてもスペアリブバーガーが食べたいとかでここまで連れ出された俺は隣の一つのトレイに並んだ三つの同じバーガーに軽く胸焼けを覚えている。自分の前のそれはというと和風きんぴらバーガーの標準的なMセットで、それを頼んだ時のこいつときたら何が可笑しいのか、女子かよ!なんていつものうるせー笑い方で爆笑していた。俺に言わせりゃお前の方がよっぽど笑える。解剖の実習の後にこれでもかってぐらいこってりとした骨付き肉のバーガーをそれもLLセットで食いながら、こんな話題を投げかけてくるんだから。
「お前好きだよな、そういう猟奇的な話」
「いーじゃんオレが悪趣味なのなんか今に始まったことでもないし」
「一応悪趣味だって自覚はあんだな」
前に部屋に行った時も思ったが、こいつは些か変わっている。まあ人なんて皆それぞれ変わっているモンなんだけれども。とっ散らかった一人暮らしの見本のような部屋はゲームや漫画やCDの類が並んだり崩れたりしていて、大体どれもが例に漏れず『このゲームにはグロテスクな表現が含まれています』だの、表紙に血しぶきが踊っていたりしたものだった。その中でも異彩を放っていたのが円の中に正三角形をはめ込んだようなシンボルが大きく描かれたタペストリーの存在。尋ねてみると、ジャシン教のシンボルマークだとかなんとか言っていた。
汝、隣人を殺戮せよ。このご時世にとんだ物騒なことを言ったもんだ。そう思ったが当人には言っていない。人が好きでやってる物事に、さして知りもしないのに迂闊に口出しするもんじゃない。
「シューキョーとかそういうのよくわかんねえけど、あんまのめり込んで妙なことやらかすなよ」
「今ジャシン様の話はいーの。で、どう思うよ?」
二つ目のスペアリブバーガーにかじりつきながら尚もこいつの興味はそこらしい。
「例えば…アスマ先生とか。シカちゃんの恩人なんだろ?それをオレが殺っちゃったら」
「お前にゃそんなことする理由がねぇだろ」
「あるかもよ~?何だっけあれ…キジョーノモツレってやつ?」
「痴情のもつれな。色々混ざってるぜ、それ」
「さっすがシカちゃん、頭イィ~!まあそりゃねぇか。アスマ先生、嫁さんいるもんなあ~オレの彼女取られる心配なし!」
「まず取られる彼女がいねーだろ」
「あ、バレた?」
ゲハハ、といつものやかましい笑い声をたてて笑う。食いながら喋るもんだから食べこぼしがひどい。全く、幾つだよお前。(実際浪人しているらしいから幾つか年上だ。詳しくは知らない。本人が話さないし、別に知らなくても歳なんて大した問題でもない)
「まあそんなことしないけどなぁ~オレ、シカちゃんのこと好きだし。あ、変な意味じゃねぇぜ?」
「そりゃどーも」
「だから、これからもこーやって仲良くやっていきたいワケよ」
「今回は課題、手伝わねぇぜ」
「そりゃねぇよシカちゃん、お願いッ!オレの単位の為に!これ以上ダブったらシャレになんねぇもん~」
最後のスペアリブバーガーやるからという飛段の申し出を丁重に断り、すっかり薄くなった自分のコーラを啜った。ふと目をやったカウンター席のガラスの先では大学の校舎に西日がぶつかろうとしていて、気づけば店内も幾分か空いていた。
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趣味が高じて解剖学やってる飛段
心理学もかじる理数系シカマル
解剖学担当は勿論角都先生
そんなパラレルワールドで仲良くやってる鹿と飛
違うかたちで出会ってたら案外気ぃ合っただろうなと思うこの二人
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