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身の毛も弥立つお話(泥・鳶)

暑い。
自分から発せられた熱で布団がすっかりぬくもり、僅かな涼しさ得ようと寝返りを打つ。しかし人一人分にきっちり誂えられたかのような安宿の小さな布団の上では大して暑さが緩和されるわけでもなく、またすぐにぬくもりの押し売りをされる。要らないって言ってんだろ。誰がこの時季にそんなもん求めるか。長い髪が汗で湿った体にまとわりつく。好んで伸ばしているそれすら鬱陶しく感じ、いっそさっぱり切ってやろうかとさえ思う。そう、例えば隣で寝ている相方のように。
風さえ吹かないこんな熱帯夜だというのに、いつもの面を付けたまま仰向けに微動だにしない様子を見ると、改めてこいつは変態なんじゃないかと思う。色んな意味で。暑いなんてもんじゃないだろうに。
暑さにすっかり眠気を削がれてしまったので水でも飲もうと立ち上がる。コップ一杯の水を飲み干し、またこれもすぐに汗に変わるのだろうと思うとますますげんなりした。ついでに顔も洗って戻る。面は相変わらず上を向いていた。本当に生きているんだろうか、心配などではなくただの疑問としてそう思う。そっと近づき傍らに腰を下ろすと規則正しく胸が上下している様が見て取れた。生きてはいるらしい。

(そんな簡単にくたばるような玉じゃねぇしな、うん)

それにしてもこの季節に全身真っ黒の隙一つないこの装い。見ているこっちが暑くなる。暑くないのかと興味本位で手近にあった腕に触ってみた。驚くほど冷たい。熱なんて微塵も感じさせないそれに先程と同じ疑問が再び浮かんでくる。顔を見ても面に覆われていて何も窺い知れない。仕方なく、唯一空いている片目の穴を覗き込む。

「…ッ!?」

ざわっ、と全身が粟だった。まるで幽霊でも見たかのように身体中に走る悪寒に似た感覚。いや、自分は昔これに似た体験をしたことがあるような気がする。
真っ暗闇の中に見たのは血のように赤くそして、

「なんだ先輩かぁ~…ゆっくり寝かせてくださいよぉ」

いつもの間の抜けた声と共に起き上がった相方はそれだけ言うとまたすぐに布団に沈んだ。

「うん…まさか、な」

一瞬浮かんだ碌でもない想像をかき消し、すっかり熱のひいた身体で同じように自分の布団へと戻った。
お陰様でよく眠れそうだよ、この野郎。




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トビは体温低いと思う

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