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雨の止み間と雲の切れ間のようなそれは(鳶泥)

ぽたぽたと地面を叩く規則的な音が途切れることなく一日中続いている。これが半ば強制的にBGMとなってから一体何日が過ぎただろうか。数えるのも億劫になるぐらい、梅雨というものは長い。
ふと窓辺を見るとアジサイの花の群生が目に入った。赤青紫とまあ、色とりどりのそれはこの重たい景色に文字通り花を添えている。特にするべきこともないのでじっとそれらを眺めていると、気候に引き摺られかけている気分も幾らか晴れるような気がした。まあ少し目を逸らせば変わらずどんよりした空に地面を打つ雨、というお決まりの景色が貼り付けられているのだが。幾ら自分の力を以てしても気候なんてものはどうこうできるものでもなく、そう例えばよく知る先輩達のように退屈だと嘆いた所でどうしようもないのだ。時が過ぎるのを待つほか無い。
がたんと大きな音が唐突に響く。些か乱暴に開かれた戸の悲鳴に負けた雨音が一瞬遠退いた。戸を開け放った主は遠慮の欠片もなくずかずかと部屋に入ってくると開口一番こう言った。

「あー退屈だ」

この時点で少なくとも自分の中にあったそれは吹き飛んでいるのだが、退屈を絵に描いたような顔をして座り込んだ先輩はそう簡単にはいかないらしい。あまりに退屈で退屈で、この長い梅雨の期間に暇つぶしの種も尽き果てたのだろう。じゃないと先輩がこうして意味もなく自分の部屋になんてやってくるわけがない。

「ボクはたった今退屈じゃなくなりましたけどね」
「そりゃよかったな。オイラは依然として退屈だ、うん」

何か面白いことは無いかと目で訴えてくる先輩にとりあえず当たり障り無い世間話を投げかける。雨やみませんねぇ、だのここアジサイが見えるんですよ、だの。

「あ、そうだ先輩。アジサイってどんな字書くか知ってます?」
「紫に太陽の陽に花、だろ。それがどうかしたかよ」
「梅雨に咲く太陽のような花だから紫陽花なんですよねぇ。言うなればボクにとっての紫陽花は先輩ですよ、なんちゃって」
「なんだそれ。どういう意味だ、うん?」
「ちょっとは考えてくださいよ…」

目に見える造形を重要視した芸術に拘る先輩は、見えない言葉の内包する意図をくむことに興味はないようで。まあ、わかりきっていたことだと窓の外を見ると先輩にも興味をもってもらえそうなものが見えたので声をかける。

「ホラ先輩先輩!」
「なんだよ」
「虹ですよ虹!」

予想通り、いつの間にかあがっていた雨と空にかかったそれを見た先輩の表情は面白い程に分かり易く華やいだ。その久しく見ていなかった仏頂面以外の表情につられるようにして、いつの間にか自分の顔も綻んでいたことに気づく。

「(ああ、やっぱり貴方は)」




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梅雨明け宣言まだだよね ぎりぎりセーフで梅雨話もう一本
このあと有無を言わさず外に連れ出される。

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