「お前リーダーに対してあの態度はどうかと思うぞ」
めずらしくデイダラの方から話があるなんて言うもんだから、何のことだろうと浮かれていたトビに降ってきたのは全く斜め上の内容だった。
「いくらリーダーがちょっとアレだからって、リーダーはオイラ達のリーダーなんだから。自分より立場が上の人は敬わなくちゃいけないぜ、うん」
何のことか解らずぽかんとしたのも束の間。自身の行動を思い起こしてみるとすぐに心当たりは見つかった。数時間前リーダーであるペインと二人で話をしていたのだ。ボクじゃなく“オレ”の方で。
まずい。これは非常にまずかった。理由は言うまでもなく、だ。話していた内容はさして重大な機密ではなかったにしろ、自分のことを変に勘繰られては困る。どう言い訳しようか。
生返事をしながらトビが流れる思考と冷や汗を止められずにいる間にも、デイダラの先輩としてのお説教は続く。
「…ということはだな。つまりお前はまずオイラのことをもっと敬うべきなんだよ、うん」
なんてったってオイラはお前の先輩だからな!
今までの諭すような口調とは打って変わって、デイダラは意気揚々と言い放った。
リーダーがどうのこうの言っていても結局、主張したかったのはここだったらしい。
「(この人がこういう人でホンットによかった…!)」
今ほどこの先輩の単純さに感謝したことはないだろう。ほっと胸をなで下ろしたトビはいつもの調子を取り戻す。軽口減らず口憎まれ口、口八丁ならこの組織でトビに勝てる者はいない。
「先輩のことは尊敬してますよう」
「ほう…例えばどんなところか言ってみろ」
「すっご~くカッコイイ芸術をつくっちゃうところとか?」
「心にもないってのが見え見えなんだよコラ」
「ボクの表情読み取れるなんて先輩流石ッスね」
「真面目に答えろ!」
お決まりのやり取りを終え、そうッスね~なんて言いながらトビは宙を見上げて指折り数える。長い指が次から次へときれいに折り畳まれていく。
「え~と…元気なところでしょ、反応がいちいち面白いところでしょ、クールとか言ってても馬鹿みたいに真っ直ぐなところでしょ、一緒にいると楽しいしあと眼がすっごくキレイな青色だしそれから…」
「あーわかったわかった、もういい」
「あれれ、ひょっとして先輩照れてます?しょうがないですよだって本当のこ」
「それ以上無駄口叩くんだったら爆発させんぞ」
「またそれですか!先輩の爆発じゃボクはやられませんよーだ」
「だー…から、お前のそーゆーところがムカつくってんだよ!」
「はいはいせんぱーい!そういうところってどういうところか具体的に教えてくださーい!」
指の数が果たして自身の両の手で事足りるであろうか。さあ、どうくる!と言わんばかりの愉快そうな面持ちでいるトビの視線を受けて、苛立ちを顕わにしながらも渋々デイダラも言葉を紡ぐ。息もつかず一本調子で。
「いっつもやかましいところと鬱陶しいところと生意気なところと自分勝手なところと調子だけはいいところとそれからたまに勘が働くし訳わかんねえ面着けてるくせしてオイラより背高いしスラッとしてるし…」
「先輩後半もうそれ褒め言葉です」
そう言われハッとしたかと思うとデイダラは直ぐ様苦々しい表情を浮かべた。そして舌打ちひとつ、こう言い放つ。お前嵌めただろう、と。
「言いがかりは止してくださいよ~先輩が自分から勝手にペラペラ喋ったくせに」
「大体お前な!さっきのアレ、尊敬してるところとかじゃなくてただ単に、」
「あ、ハイ先輩の好きなところですけど?」
「じゃあその大好きな先輩の大好きな芸術の糧になれりゃあ本望だよな、うん!」
「え、あ、ちょっと先輩」
「ボクは先輩の爆発じゃやられませ~ん、なんだろ?」
「イヤ、だからといって無闇に喝は止めっ…」
閃光、そして爆音。
「先輩案外ボクのことちゃんとみてくれてるんだなぁ」
もっとどうでもいいと思われてるとばかり。
爆風で宙を舞いながらも、とりあえず肝心な話をうやむやにできたことに安堵したトビは呑気にそんなことを考えている。丁度いい、気恥ずかしさも一緒に吹き飛ばしてしまえ。
先輩の容赦ない爆発も受け止められるのは自分だけ、なんて自惚れながら文字通り落ちていくのも悪くはない。
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やまなし おちなし いみなし 2
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