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わるだくみ(泥・鳶・蠍)


「センパーイッ!!」

とある日の昼下がり。俗に言う『おやつの時間』には似つかわしくない絶叫がアジトに響き渡った。叫ばれた当人である先輩ことデイダラは、地べたに這い蹲りわなわなと震えている。その手にはかじりかけの煎餅が一枚。見た目には何の変哲もない普通の品だ。それを誰がよこしたか、ということを除けば。

「先輩っ」
「ト、トビ…」
「だから言わんこっちゃないですよもう!」
「旦那が何でもないのにものくれるだなんておかしいとは思ったんだ…うん」

薄ら笑いを浮かべる口元からスゥ、と魂が出ていくように見えてトビは慌ててデイダラの口にそれを押し込んだ。麗らかな昼下がりという言葉とは全く無縁の様相が繰り広げられている。そもそもこのアジトが麗らかだったためしなど無いのだが。

「ったく…わあわあギャアギャアうるせーぞお前ら」

そう言いながらどこからかひょっこり現れたのはサソリだ。床と親密な関係を築いているデイダラに平静で歩み寄ると、手に持ったかじりかけの煎餅の残量を確かめ、痺れで身動きが取れない様子を確認し、一人頷くと何かメモをとっている。

「サソリさんアナタ何盛ったんですかコレ!」
「んー?心配なんざしなくてもただの痺れ薬だよ。開発中の」
「また…人を実験台にするの悪い癖ですよ!」
「大丈夫だろ。こいつ丈夫だし」

しれっと言ってのけたサソリの視線の先では、先程まで起き上がることもままならなかったデイダラが既に立ち上がって残りの煎餅を袋ごと踏み潰している。

「あーあー勿体無い」
「もったいないじゃねえよ…うん」
「先輩!大丈夫なんですか?」
「大丈夫なわけあるか!クソッ足に力が入らねえ…」

少量の経口摂取であれだけ即効性があるのはいいとしてやはり持続力に難があるなそもそも実戦では経皮摂取になるわけだからうんぬんかんぬん。トビとデイダラのやり取りも、デイダラの非難の声も何も入ってこない様子で、話題の当事者サソリは煎餅に視線をやったっきりひたすらぶつぶつと独り言を呟いている。

「おい、聞いてんのかい旦那!」
「あ?あー、ともかくお疲れさん」

そしてそれだけ言うとそのまま部屋を出て行った。

「…オイラいっぺん旦那にキレてもいいかなあ」
「止めはしないッス」

斯くして、デイダラの『旦那をギャフンと言わせるのだ』作戦は幕を開けた。



「そうは言ってもですよ、あの人何したら嫌がるんでしょうね?」
「傀儡壊すとか薬捨てとくとか」
「それ本気で殺されません?」
「…だよな」

オイラそれでいっぺん半殺しにされかけたことあるし。デイダラ曰わく昔まだ小さな頃だったからそれだけで済んだものの基本的に旦那は自分の領域に踏み込まれんのが嫌いだから、そんなことすれば今なら血を見るのは明らかだとかなんとか。

「じゃあ苦手なものとか」
「…子ども?」

確かにサソリが子守をしているところは想像し難い。見た目はともかく実年齢的にはいてもおかしくはないのだが。

「その理論でいくと先輩は昔の方がサソリさんに強かったってことになりますよ」
「確かにオイラが歳とるにつれて容赦なくなってきたもんな…うん」
「大きくなってまでそんなイタズラしてた先輩も先輩だと思いますけどね」
「…そうだ、あん時はまだオイラが小さかったから勝てなかっただけで…もし本気で向かってこられても今なら旦那と互角にやれる!あわよくば勝てる。つーか勝つ」
「どっからその自信が来るんスか!さっきあっさり薬盛られときながら」
「あ…アレはアレでまた別だ、うん。正々堂々真正面からならいける」

今日こそ一瞬の美と永久の美、どちらがより芸術的なのか決着をつけるときなのだぁ!
完全に一人でテンションが上がりきってしまったデイダラにため息ひとつ。何だかんだで面白そうだとトビも荷担するのであった。日頃あれほど爆撃を受けているというのに、まだ刺激が足りないらしい。



「…で、結局部屋侵入するところからですか」
「ったりめぇだろ、まず怒らせないと本気になんねーぞ旦那は」
「(目的変わってきちゃってるな…)」

サソリがアジトを留守にしている間を見計らって部屋に忍び込む。無数の傀儡が吊り下げられた薬品臭い部屋は、正直言ってかなり不気味だ。夜じゃなくてよかった、双方思ったであろうが口には出さない。

「へ~意外ときっちり整頓してんだな」
「で、どうします」
「なんか面白いモン出てこねぇかなあ~後々弱み握れるような」
「先輩、目的目的」
「おっと…そうだったな、うん」

手当たり次第めちゃくちゃにすれば良いというわけではない。一目で変わったことが分かる物。本気でサソリが怒るであろう物。その条件に見合う物を見つけるのは難しく(薬品の類は迂闊に触って自分達に害が及ぶのが怖い)時間だけが刻一刻と過ぎていく。あれでもない、これでもない。繰り返している内にとっぷり日は暮れ結果辺りは手当たり次第めちゃくちゃ、になっていた。

「おい見ろよトビ!これ多分旦那の日記だぞ、うん!」
「えぇっ意外とマメなんですねあの人!せっかくだし見ちゃいましょ…」
「お前ら随分楽しそうだな」

背筋が凍るとはこの事か。驚くほど冷たい声が室内に凛と響き渡る。さほど大きな声でもなかったのに二人を震わせるには十分だったようだ。振り返った先の月明かりに照らされる無数の傀儡とサソリの姿が、それら以上に二人を青白くさせた。

「せせせ先輩!ホラ、本題本題!」
「お、おう!やい旦那!昼間はよくもやってくれたな、」
「言いたいことはそれだけか?」
「だぁあ!まだ途中だって、うん!」

最早発言の内容など関係ない。サソリの指先では既に糸が光り、周りの傀儡がカタカタと音を立てている。それならば話は早いとデイダラが粘土入れに手を突っ込み、トビが脱兎の如く身を翻しかけたその時。

「やめなさーいっ!」

この場にいた誰のものでもない声がそれら全てを静止させた。

「ケンカする奴らは夕飯抜きだ!それでもいいなら続けろ」

さながら行き過ぎた兄弟ゲンカを窘める親のように、ペインの言葉は重量をもって響く。
サソリが小さくオレ飯食わねえし…と呟いたが、リーダー命令は絶対だ。誰であろうと例外はない。

「しかしだ。デイダラに薬を盛ったサソリも悪いし、サソリの部屋を荒らしたデイダラとトビも悪い。ちゃんとお互い謝るべきだな」

おいリーダーいつの間に来たんだよ、知らねーよったくなんでオレまで、まあまあとりあえず面倒だし謝っちゃいましょ、ね?さっきまで一触即発だったというのに、小声でひそひそ結託する様はまるで大きくなっただけの子ども。そんな言葉が頭に浮かぶ。
有無を言わせぬ佇まいのペインを前にした三人のおおよそ悪の組織に似つかわしくないごめんなさいの声が響き、暁の夜は今日も更けてゆく。




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リーダーはなんだかんだいってやっぱリーダー

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