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どうしようもない(鳶泥)

オイラにとって自室で粘土に触れている時間とは。
それは全くの無になれる時間でもあり、あらゆる物事を全身に巡らせる時間でもある。平たく言えば自分だけの自由な時間なのだ。そういう一人になりたい時間ってモンは誰にだってあるだろう。オイラもその例に漏れないだけだ。だから、

「だぁあああ!もう、お前は、先輩先輩先輩先輩、うるっせぇんだよ!」

いい加減にしろと。オイラの人並みに望む貴重な一人の時間を邪魔してくれるなと。
背後から聞こえてくる声を無視し続けること数刻。一向に止む気配のないそれに怒号を浴びせてようやく黙らせる。が、当人は悪びれもせず頬を膨らませて(まあ表情なんて見えないんだが)すぐに口を開く。次から次へと、こいつにクールなんて言葉は縁遠い。

「先輩だってサソリさんにおんなじことしてるじゃないですか!旦那旦那っていっつもつきまとって」
「オイラはお前みたく鬱陶しくないからいいんだよ。大体つきまとってなんかねぇだろ、うん」
「傍目から見たら十分鬱陶しいです。もうげんなりします」
「オイラはお前にげんなりだ。わかったらさっさと散れ」

こうやって構うからつけ上がるんだ。分かっているなら早めに切り上げるに限る。視線は合わせずに片手で追い払う仕草をして粘土とオイラの世界に帰る。

「せんぱいの…せんぱいの…馬鹿ー!!」

ここ一番の声で馬鹿呼ばわりされた衝撃で手に持っていた粘土の塊が地面に落ちてひしゃげた。別にショックだった訳じゃない。(そもそもオイラは馬鹿じゃない)物理的な衝撃の所為だ。後ろからがっちりとホールドされている。両手で。誰の、なんて答えは一つしか存在しない。

「って…なんでそこでこうなんだよ!今の流れだと走り去んのが筋だろ、うん!」
「うるさいです先輩の馬鹿」

勢い良く言い放ったら真逆の調子で返された。かつり、と面の当たる音がして肩口に髪が触れる。都合のいい時ばかり黙りやがって。なんとか言え。この馬鹿。お前の方がよっぽど馬鹿だよ。

「放せよ」
「いやです」
「作業できねぇ」
「知ってます」
「せんぱい」
「なんだよ」
「すきです」

ああ、もう馬鹿らしいったらありゃしない!



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やまなし おちなし いみなし

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