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そうして今日も何食わぬ顔で隣にいるのです(鳶泥)


「あ、せんぱーい!」
「あ、サソリのだんなー」

「また旦那、かあ…」

このセリフと後のため息とはセットでよく現れます。出来ればあまり遭遇したくはないものですが大体五分の確率で出会ってしまいます。それもその筈、先輩の中での優先順位ってものがはっきりと決まってしまっているからです。残念ながらボクの順位は限りなく最下位に近いようで。今もこうして連れ立って歩いているというのに。まあただの任務に向かう道中なんですけど。

「先輩はほーんとサソリさんが好きですよね」
「うん?別に好きとか嫌いだとかそういうんじゃねえよ」

まあゲージュツ家としては尊敬してるけどな人としちゃあありゃどうかと思うぜそうだこの間だって云々、話す姿はなんだか楽しげでボクはへぇだのほぉだの空返事でやり過ごす他ありません。

「何お前、すねてんのか?」

突然ピタリと歩みを止めたかと思うとこの一言。
面白そうにニヤニヤ笑って、ボクはちっとも面白くなんかないというのに。(先ず、自分がこう思っているという事実が既に面白くない)
自分で言うのもなんですが、普段あれだけやかましいボクがそれでも珍しく何も言わずに黙りこくっていたもんだから先輩も気をつかったのか、普段より幾分トゲの少ない声色でボクの名前を呼びました。そんな千に一度も無いような機会をボクはあろうことか突っぱねました。

「やさしくしないでください」
「はあ?お前、本っ当にわかんねえ奴だな」

先輩はボクを一瞥すると行ってしまいました。ざくざくと土を蹴る大きめの足音がだんだん遠ざかっていって、辺りはしんと静まり返ります。ボクだけが変わらず一人その場に突っ立っていました。
そう、それでいい。
先輩はボクなんかにやさしくしなくていいんです。そんな慰めはいらないんです。

「(惨めになるだけだ)」

自分の大人げなさと意外な程の器の小ささと、いろいろなあれこれが混ざりあってなんだか笑えてきちゃいました。昔はこんなんだったかなあと一人で笑ってみたところで気持ち悪いぞ、などと声をかけてくれる人の姿は無く。(それもその筈たった今自身が追い払ったんだから)
どうしようもないこの感情は着けた仮面の内側でその姿が如くぐるぐると渦を巻くのです。
そして最後は真っ黒な穴に吸い込まれて、それでおしまい。


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