「じゃあそれ、取れって言ったら取れんのかよ」
何気ない、本当にどうでもいい暇つぶしの会話の流れで『それ』こと面の話になった。途端にトビの口数が減った。
普段あれだけやかましいくせに自分の分が悪くなるとこうだ。何を考えているのか、何も考えてなどいないのか。デイダラの問いについには押し黙ったトビの表情はそれに阻まれ窺えないので真意は知れない。どちらにしろ喰えない奴だ。
耳に入る風が梢を揺らす音がなんとなく気まずい。誰が悪いという訳でもないのだが。
そんなに答えたくないのなら別に答えなくてもいい。四六時中それなものだから確かに気にはなるが、面を着けていることで別に不都合は起こっていない。今のところ。
不慣れな沈黙を打破するかのように軽く息を吐きデイダラは言葉を続ける。
「まあ、面の中身が何だろうがお前はお前だし」
取ったらもっと優秀で先輩をちゃあんと敬うできた奴にでもなるんだったら話は別だけどな、と投げやりにつぶやきデイダラは歩みを進める。少しの沈黙。その後ろで、黙ったままだったトビがようやく声を発した。
「先輩」
「うん?」
「抱いてください」
沈黙。カラスの間延びした鳴き声。
ちょっと先輩それ最高の殺し文句ですよ本当はボクのこと好きなんでしょ、まるで立て板に水。能面を貼り付けたようになったデイダラの表情など意に介す様子も無く、ぐるぐるの面は次から次へと言葉を紡ぐ。突拍子もないその発言を機に形成が逆転した。否、普段通りに戻ったと言った方が正しいか。
面は相変わらず真意を伝えようとはしない。だが無機質なその表情も、心なしかほころんでいるように見えることもある。
「せーんぱい!せんぱいってば」
「煩いやっぱ黙れ近寄んな」
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