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ぬかるみ(鳶泥)

痛い、なんて思ったのは久々だ。思いっきり殴られた面にはひびが入り、その下の顔はきっと腫れているのだろう。殴った方の手の甲にも血が滲んでいる。ああ、痛そうだ。柄にもなく申し訳ない気持ちになった。こうなるとわかって言葉を選んでおいて。我ながら実に都合の良い思考だ。
体勢を立て直そうと背中を地面から起こすと砂埃が立った。目にしみる。何だか泣きそうだと思った。自分か相手かは知れない。端から見ればその両方なのかもしれない。
立ち上がったところでひとつ思い出す。
前に、欲しいものは何なのかと唐突に聞かれたことがあった。定形詞のように勿論先輩ですよ、なんて言ったら盛大な爆撃を喰らったのでもう少し噛み砕いた答えを提示した。


「なんてことはない日常、ですかね」


それを聞いて困惑したような訝しんでいるような顔をしていたのが印象的だった。


「意外でした?そりゃそうかー!こんな組織に身を置いて何言ってんだって話ですよね」
「でも、ボクの場合先輩がいたら割と叶っちゃうんですよ、それ。だからあながち間違いでもないんです」


そう告げた後に付け足された、照れてるとも見て取れるきまりの悪そうな表情が何故だか今思い浮かんだ。向けられている視線は鋭く、その時の柔らかさは微塵もない。突き刺さるようなそれを受けて、まだ少しくらいは痛める心があったのかと自嘲する。瞳術なんかよりよっぽど強力なそれを回避するように目を伏せて間合いを詰める。何か言っているようだが聞こえない。ふりをした。自分はとことん狡い。


「ごめんなさい」


抱きしめながら呟いた言葉に腕の中の強張りが徐々に解けていくのを感じてまた少し、苦しくなった。
謝罪の言葉はどこに向けたものなのか。今日もこうやって生ぬるい甘さに浸されている。


「(いっそ突き放してくれれば楽なのになあ)」





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遅かれ早かれいなくなるのはわかってるのに、既に自分の中で思ってもみなかったぐらいにデイダラの存在が大きくなってて、ふとした瞬間我に返ってなにやってんだと頭抱えてるトビください(真顔)
抜け出そうとしても抜け出せず、挙げ句抜け出したくなくなってるそんなだめな黒幕がたまらないです たまらないです
おまえら幸せになれと思いつつも、そんなトビデイもすごくすきです

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ノーネーム(鳶泥)

呼ばれた名前に一瞬作業の手が止まった。なんてことはない。自分の名だ。ただ、普段この後輩はあまりそれを口にしない。いつも間柄で呼ぶのだ。それだけに少し違和感を覚えたのだろう。深い意味はない。


「デイダラさん」


何度目かの呼びかけともつかないそれの違和感を払拭する為、ついにオイラは返事をした。これは面倒だな、と感覚的に思った。


「なんなんだよ」
「いや、呼ばれる名前があるっていいなあと思いまして」


早速これだ。内心ため息を吐きつつ意義が見いだせなさそうな問答に少しだけ付き合う。


「お前だってトビって名前があるじゃねぇか」
「そう、なんですけどね」
「お前はトビだ。とりあえずオイラがお前をそう呼ぶ限り、お前はトビ以外の誰でもねぇよ」


呼び名なんて、何でもいい。互いに認識できていればそれで。
即物的に聞こえるかもしれないが、そうではないことをトビも自分も、知っている。
なあ、お前はトビだろう。それ以外は分からねえし知らねえよ。うん、知らねえ。


「せんぱいはやさしいなあ」
「当たり前だろ、うん」


人の為、と書いて偽りと読むがこの場合その人とは一体どちらのことなのやら。なんて、どうでもいいことが浮かんだが口には出さない。何せオイラはやさしい先輩で、こいつはバカな後輩なのだから。
そんなくだらない会話をしたのはいつだったろうか。


「なあお前トビなんだろ」


何の因果か再び舞い戻ってきたこの世で見たのは生前見慣れていた顔がいくつかと、初めて見る気のしない趣味の悪い面。これじゃあ死んだ気もしねぇってもんだ。面は造形こそ変わりはしているものの、その薄気味悪さに一目で気づいた。
随分な態度だなオイ。結局、最期まで世話やいてやってたやさしい先輩に詫びの一つもねぇのか。一方的な言葉の投げかけに既視感を覚えつつ、これじゃあ逆だと笑う。


「そんなにクールに振る舞えるならあん時からやっとけってんだ、うん」


呟いた言葉は相も変わらずひとりごとだったが、立ち去ろうとした足が僅かに止まったことに、少しだけ気が晴れた。


「(なあ、トビ)」


返事のない今、こいつはもう自分の知るそれではないのかもしれない。
オイラがそう呼ぶ限り。いつぞやの他愛もない会話がもう一度浮かんで消えていく。

死んでからのことなんて自分にも誰にもわからない。今こうしていることなど誰が想像できただろう。それと同じだ。いつまでも相方だ、なんてこと誰が言った。
ああでも腹立たしいことに、もう無いはずの心臓がほんの少しだけ、痛い。




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仮に違和感には気づいていたとしても、知らないふりをしてあげられるくらいにはデイダラは聡いと思うのです
えどてんは妄想の余地がありすぎる

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四月一日の○○(鳶泥)

「先輩なんか嫌いです」

そうきたか。
見え見えの嘘ついてんじゃねぇよ、言いたげな目でデイダラはトビを見た。何故なら今日は四月一日。俗に言う嘘をついてもいい日なのだ。既に飛段などは三回騙されている。ちなみにその内一回の犯人はデイダラである。
誰かの嘘にひっかかる前に誰かを騙すことに成功し、朝から機嫌の良い彼はまだ日も高い内から今日という日に勝利した気でいるが、これが嘘だとわかってしまっていること即ち負けでもあることには気づけていない。その点では今朝騙した飛段とおあいこである。


「もう顔も見たくありません」
「あっそ。じゃあコンビも解消だな、うん」
「サポートもしてあげませんよ」
「オイラぐらいになりゃ手助けなんざなくたってやってけるし」
「ヒマそうにしてる時もかまってあげませんから!」
「清々するな、うん」


両者の間に中黒がみっつ見える。絵に描いたような沈黙だ。万策尽きたり。勝った。
じゃあな、と手を振りデイダラが踵を返した途端。声にならない声を上げたトビがその身にすがりついた。そろそろこの辺りが限界だったようである。
いつもからかわれることが多い分、自分が逆の立場になると目に見えていきいきとするデイダラは、意地の悪い笑みを隠すこともせず振り返った。涙目で(あろう)トビは訴えかける。


「なんで騙そうとしてる方がこんな心痛めなきゃならないんすかもうっ!ボクもう今日嘘つかないッス!」
「そうかそりゃ何よりだな、うん。まあ、オイラは今朝から嘘しか言ってねぇけど」
「…今のも嘘ですか?」
「さあな」


デイダラは上機嫌でトビをあしらった。が、それが間違いだった。あとはコマ送りの動画のように。三コマも進めばいつもの様相。はなれろいやですの押し問答である。一進一退を繰り返しながらデイダラは背後からかかる重力に重い!と一撃喰らわしたところで諦めた。こうなってしまえばあとはトビのペースだ。


「先輩すきですだいすきですー」
「なんだよ仕返しのつもりか?」
「違いますよさっき言ったじゃないですか、もう今日は嘘つかないって」


結局いつもと変わらない状況に盛大にため息を吐きながら、デイダラは頭の上に乗せられた面に向かってこう呟いた。


「オイラはお前なんか嫌いだ、うん」
「先輩のうそつきー」
「うっせ!」


騙そうが騙されまいが、つまるところみんな四月馬鹿。
それだけはもう、間違いないだろう。





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めずらしく行事にのってみようとした結果ベッタベタな話になりました 勝手にやっとけ!!!

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目眩く春めく(鳶泥)

もしさわれるのならばきっとやわらかくてあたたかいのだろう。そんな手を伸ばしたくなる日差しが、金色の髪をきらきらと照らしている。髪が散らばる板の間はそれを受けて随分とあたたかそうだ。さわれない日差しの代わりに、それをたっぷり吸い込んだ金色を一房すくい上げると思い浮かべた通りの感触。
春眠暁を覚えず。そういう言葉があるが、一体この人はいつからここでこうしているのだろう。トビは日差しと同化しそうなそれに声をかける。


「こんなとこで寝てたら風邪ひきますよ」


地べたに転がるデイダラはゆるく瞼を持ち上げながら言う。金色がきらきらしている。


「ひかねぇよ、春だから」


寝起きということもあってかその表情はとても曖昧で、寝ぼけているだけとも微笑んでいるともとれそうなものだ。かき混ぜればとけてしまいそうな青い瞳を見てトビは尋ねる。


「なんかいいことでもありました?」
「別にねぇよ、うん」
「口元だらしないですよ」
「しかたねぇ。春だからな」
「なんすかその理論」


うつぶせのまま頭だけ持ち上げて話すデイダラはふわふわしている。纏う空気も日差しとあいまって中和、むしろ飽和している。普段のどこかぴりつく感じはない。


「オイラ春って好きなんだ、うん」
「先輩春生まれですもんね」
「桜も好きだ」
「儚く散りゆく~ってやつですか」
「お前も好きだぜ、トビ」
「え」


頬杖でへらっとしているデイダラにどう応えるべきなのか。わからなくなったトビはとりあえずいつもより無防備な口元に自分のそれを重ねた。
顔と顔の距離が定位置に戻ると、デイダラはちいさな粘土の塊を自らの掌に含ませた。これはいつものアレがくる。トビが身構える間にころんとちいさな鳥のようなものがデイダラの掌から姿を現す。
ぴっと二本指を立て、間延びした声で発せられた定形詞。それに応えるように羽ばたいたちいさな鳥がぽんっ、とかわいらしい音ではぜた。身構えていたトビは間抜けな声を発するだけに終わり、デイダラは変わらぬ頬杖のままけたけた笑っている。


「バーカ」


やわらかな青い瞳と頬杖をついていない方の腕がしゃがんでいたトビの頭を引き寄せる。


「(どっちがだよ)」


日差しはあたたかく、首にまわされた腕もそうで、つめたい面をずらしてふれあう鼻先も、唇も。
青い瞳に赤い瞳をとかしてまぜあわせてしまうことは叶わないが、つかの間の春の陽気の中だけではこうやってただなんとなくしあわせだと思うことがあっても咎められはしないはずだ。

春の日差しはあたたかい。





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春っぽいしあわせな話を書きたいと思ったら先輩がちょっと頭のねじがゆるい人になってしまいました
きっと春にあてられたせいです
今まで自分が書いてきた奴らの中でもこんなにちゅーさせたくなる二人は初めてなんですが、その理由のひとつが仮面の存在であることは間違いないです

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