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短い文10こ(暁いろいろ)


【誰?と言われるのが怖かったから(鳶泥)】

ボクはいつもあなたのよく知るトビでいました。そう、互いの最期まで。
欺いていたことに心を痛めることはない。嘘も吐き通せば真実。
確かにあの時、ボクはトビだったのだから。

(ただ、貴方が居なくなった今、もう“トビ”なんてどこにもいない。どこにもいないんです)

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【君に殺されたのはこれでええと8回目(角飛)】

はじめの2回はイラついてしかたなかったけどよ、3回越えたら変わっちまったんだよな。
何だっけ、仏の顔も三度まで、とか言うじゃん?そんな感じ?

「意味が真逆だ馬鹿」
「馬鹿っつうな!今度はオレが殺してやろうかァ?」
「やれるもんならやってみろ」

あ、9回目だ。

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【ハッピーエンドまで早送り(鳶)】

多分そこに貴方は居ない。

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【欠陥商品が愛しい理由(蠍)】

「旦那ってホンッット自分大好きだよな!!」
「当たり前だろオレは完璧なんだからな」

思い込めばそれもまた事実。

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【食べてみればわかるよ(鼬と鮫)】

「鬼鮫ェ…これはいつもの団子屋のものではないな?」
「お休みだったんですよ、今日はそれで我慢してくださいませんか?」
「それならそうと最初から言えばいいのだ。こんなオレを試すような真似…分かるに決まっているだろう!他ならぬ団子の味だぞ、団子の!」
「(帰りたい…)」

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【っていうのはウソだけど(飛と蠍)】

「実はここをひねると口からビームが出んだぜ?」
「マジでぇ?すっげーじゃんサソリちゃん!」

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【きみのことすきなんだ(絶)】

だってとってもおいしそうだから!

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【りんご病の一種です(痛小)】

「顔が赤いぞ」
「寒いからよ」
「今日は夏日だが」
「風邪よ」
「何、大丈夫なのか?」
「心配ないわ。貴方が目の前から消えてくれさえすればすぐ治るもの」

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【瞳の青い王子様(鳶泥)】

「どのツラ下げて姫気取りだ、うん!」
「え~じゃあボクが王子様しましょうか?」
「どっちにしろお断りだ。どうせならもっとこう…そうだな例えるなら旦」
「許しませんっ!」

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【残念ながら大好きです(鳶泥)】

今日という今日は許さない。もう顔も見たくない。ふざけんなふざけんなふざけんな。

「お前なんか大っ嫌いだ!」
「残念、ボクは大っ好きですよ!」

コンビ解消だ、こんな奴!

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《title by:おやすみパンチ》


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しいて言うなら秋の所為(鳶泥)

知らない場所の匂いがする。見上げた空は見知ったものとそう変わりはないし、踏みしめる地面も変わらず硬い。木の揺れる音や人の息づかいも感じられる。知っているものばかりなのにどうしたってここは知らない場所で、自分の知る由もない生活がある。

「なーんか、愛しくなりません?」
「はあ?」
「ボクらがちょちょいっと手を加えたらあっという間に壊れちゃうのに」
「何がだよ」
「ここいら一帯のことですよ」
「今回の任務は破壊が目的じゃねぇだろ」
「そうなんですけどね。来ようと思えば来れるけど、きっともう来ないじゃないですか。こんな所。なのにここにもこんなに人がいて、それぞれが日々を送ってるんだろうなあ、なんて思うとね」
「なんだよお前。今日おかしいぞ、うん」
「そうですねぇ。しいて言うなら秋のせいです」
「なんだそりゃ。秋と言やあ芸術の秋だろ、うん」

自分はこれを季節の所為にしたけれど、同じ季節の中あなたはいつもと変わらぬことを言う。それにほんの少しだけ安心してしまったのは何故なのだろうか。芸術の、だなんて。アンタは年がら年中そうでしょう。それを大義名分にしたいだけで。ああ、そうか。先輩、ボクはきっと寂しいんです。

「ボク先輩のそういうとこ好きですよ」
「何言ってんだお前。ついにおかしくなったかよ」
「そうかもしれませんね」

渇いた風に押されてほんの少し重力に抗うのを止めてみる。殴られるかと思いきや意外にもそのまま半身は受け止められ、無言で子どもにするみたいに背中を二、三回叩かれた。むやみやたらに温かい掌をもった自分よりうんと年下の先輩にあやされている己の様が滑稽で、少しだけ笑えた。

「ねぇ先輩」
「なんだよ」
「このまま二人でどこか行っちゃいましょうか」
「さっき見た茶屋くらいなら行ってやってもいいぜ」
「芸術の次は食欲の秋ですか」
「バーカ。テメェに合わせてやってんだよ、うん」

こんな生ぬるい心地よさに浸って、このまま冬も越せたらなあ。なんて。知らない場所で知ってしまったそれにまた少し笑って、もう一度吸い込んだ渇いた空気はなんてことはないよく知る秋の匂いだった。

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一汁一菜じゃ足りない(泥・蠍)

向き合って座る座卓の上では一人分の定食が湯気をたてている。行儀よく手を合わせてから目の前のそれを口に運ぶ少年の、膳を挟んで向かい側では赤毛の青年が頬杖をついている。青年と言っても、年の頃はせわしなく咀嚼を繰り返す少年とさほど変わりはないように見える。にもかかわらずその前には膳はおろか、茶の一杯すら置かれていない。

「お前本当によく食うな」
「育ち盛りだからな、うん」

口にもの入れながら喋んじゃねえ、と窘められた少年は急いで湯呑みを片手にこう切り出す。

「旦那はさ、なんか食べたいとか、思わねぇの」

そう問いかけられた青年は、少し視線を赤毛に泳がせた。その瞳はガラス玉のように透き通っていて繊細に見える。
回答を待つ間も少年は膳に箸を運ぶ。摘んだ黄色い出汁巻きがその髪によく似ている。

「もしこれから一生飯が食えねえのと、一生ものが作れねえのとだったらお前、どっちとる」

一寸、少年の箸が止まった。

「でも飯食わなきゃ死んじまうだろ。生きてなきゃ何も作れねえよ、うん」
「そうだな。それでオレは前者を選んだってわけだ」

ふっと笑んだその表情はまるでつくりもののように綺麗で、でもどことなく人間くさかった。

「だからガキは気にせずいっぱい食っときゃいいんだよ」

あと箸で人を指すな、付け加えられた言葉を受けて少年は真向かいに突き出していた箸を再び膳の上の椀に運ぶ。残り僅かだったそれをかき込むとおかわり、の声で勢いよく店員を呼んだ。

「旦那の奢りで!」
「調子のんなコラ」
「だって旦那に追いつくためには食うもん食って力つけてその分沢山芸術を磨くしかねぇだろ、うん!」
「ほう、口だけは一人前だなガキのくせに」
「ガキっていうな!今に見てな、芸術はもちろん旦那の身長だってすぐに追い抜いてやるぜ」
「まずは同じ土俵に上がるとこからだな」

そう言って頬杖のままニヤリと笑う青年はやはりどうにも人間くさく、ぎゃいぎゃいと反論する少年がそれを際立たせているようだった。
新しい膳が運ばれてくるまでもう少し。




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ちょっと昔の泥と蠍の話 親子のような兄弟のようなライバルのようなそんな二人が好き

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お酒は二十になってから(泥鳶泥)


「え~…っと、」

状況を整理しよう。
ここは宿で今はそれなりに夜も更けていて背中は畳についていて目の前数センチ先にはよく知る先輩の、顔。 考えてみればこんなに近くでまじまじとこの人の顔を見たことがあったろうか。否、こんなにこの人に見つめられたことがあったろうか。見たこともない挑発的な青い瞳に背筋に悪寒が走る。重力に従ってさらりと自分にかかる金色の髪がきれいだなんて思う余裕も今はない。こんなことでペースを乱されるなんて、我ながら全くらしくないのだが。
ことの発端は夕飯時、まさかあの判断がこんなことになるなんて。誰か、想像できていたなら予め知らせてほしかった。




「あー!先輩、未成年の飲酒はいけないんですよぉ~?」

宿の夕飯に珍しく酒がついてきた。そういえばこの辺りは酒処だったな、なんて思いつつ出された酒瓶に手をつけようとすると当然の如く伸びてきた手が自分より先にそれを取っていた。

「犯罪者が今更何言ってんだ」

酒を注ぐ片手間にそう返し、自分のグラスを満たした先輩は酒瓶をボクに手渡す。同じくグラスを満たし終えたボクが丁度中間に瓶を置くと、当然のように先輩はそれを自分の側に寄せた。

「先輩お酒飲めるんですか?」
「当たり前だろ、うん」
「全然そんな風には見えないんですけど」

どうせ飲んだらすぐに潰れるだろうと高を括っていた結果、みるみるうちに瓶は空いていき(ボク二回も注いでませんよ、それ)気づいた時には空になっていた。
普段飲み馴れていない奴が酒を飲むとどうなるか。大体予想できるパターンは幾つかにしぼられる。一、すぐ眠る。二、泣き出す。三、笑い出す。四、愚痴と共に絡んでくる。この人の場合大方一か四といった所だろうと思って放任したのが間違いだった。久々に後悔の念が押し寄せる。この人の場合、その内のどれでもなく。
五、

「お前、飯の時もそれ付けっぱなしでよ…そんっなにオイラが信用できねぇか、うん?」

普段からは想像もつかない力で真っ直ぐに畳に叩きつけられて、真っ直ぐな視線が真っ直ぐボクを射抜いている。

「(誰がこんなに酒癖悪いと思いますか!)」

膝立ちで馬乗りになった先輩は片手を畳につき、空いた利き手で面に手をかける。いくら冗談でこの面に触れることはあっても普段はあれで気を使っていたのだとこの状況になって痛いほど分かった。良心の欠片もなくひっぺがされて放り投げられた面が泣いている。変わりに申し訳程度に自身の両手で顔を覆ってみるものの、それに大した意味はない。

「せ…先輩?」
「うるせぇちょっとは黙ってな」

口内に侵入する生暖かい感覚。大して飲んでもいない酒の香りが頭に広がる。問いかけてきたり、黙れと言ったり、一体どうしろと。酔っ払いの言うことはころころ変わる。この人に限っては普段から割と傍若無人なところもあるけれど。ぼうっとする頭でそんなようなことを考える。

「(まあいいや)」

どうせこれだけ酔ってちゃ覚えてもいまい。素顔云々はこの際問題じゃない。写輪眼を見られたわけでもなし。いざとなれば幻術でなかったことにだってできる。それならばいっそこのあり得ない状況を楽しむべきだろう。何が起きても全ては酒の所為。
顔と顔との距離が始めのそれに戻り、青い瞳がニヤリと笑んだかと思った瞬間。突如胸にのしかかった重みに思わずぐえっ、と色気の欠片もない声が漏れた。続いてため息も。理由は一つ。
この人、寝てやがる。

「据え膳食わぬは~って言葉、知ってます…?」

ねえせんぱい、
呼びかけてみたところで返ってくる声はなし。すっかり寝入ったその顔は自分がよく知るそれと同じで、黒の装束に散る金色の髪をようやくきれいだと思うことができた。

「ほーんと、柄にもないなぁ」

呟いた言葉はどっちのことやら。天井の木目を仰いでもう一度ため息を吐いてから、人の上で寝息をたてている先輩を起こさないようにそっと敷いてあった布団に運んだ。

「全く…次の機会があれば、知りませんよ?」

シーツの上に散った髪を見てやっぱり白より黒の方が映えるな、なんて思いつつきれいな金色を一撫でして部屋の隅に転がる橙色の面を拾いに向かった。




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男前な先輩と押されると案外何もできなくなるトビ

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