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どうしようもない(鳶泥)

オイラにとって自室で粘土に触れている時間とは。
それは全くの無になれる時間でもあり、あらゆる物事を全身に巡らせる時間でもある。平たく言えば自分だけの自由な時間なのだ。そういう一人になりたい時間ってモンは誰にだってあるだろう。オイラもその例に漏れないだけだ。だから、

「だぁあああ!もう、お前は、先輩先輩先輩先輩、うるっせぇんだよ!」

いい加減にしろと。オイラの人並みに望む貴重な一人の時間を邪魔してくれるなと。
背後から聞こえてくる声を無視し続けること数刻。一向に止む気配のないそれに怒号を浴びせてようやく黙らせる。が、当人は悪びれもせず頬を膨らませて(まあ表情なんて見えないんだが)すぐに口を開く。次から次へと、こいつにクールなんて言葉は縁遠い。

「先輩だってサソリさんにおんなじことしてるじゃないですか!旦那旦那っていっつもつきまとって」
「オイラはお前みたく鬱陶しくないからいいんだよ。大体つきまとってなんかねぇだろ、うん」
「傍目から見たら十分鬱陶しいです。もうげんなりします」
「オイラはお前にげんなりだ。わかったらさっさと散れ」

こうやって構うからつけ上がるんだ。分かっているなら早めに切り上げるに限る。視線は合わせずに片手で追い払う仕草をして粘土とオイラの世界に帰る。

「せんぱいの…せんぱいの…馬鹿ー!!」

ここ一番の声で馬鹿呼ばわりされた衝撃で手に持っていた粘土の塊が地面に落ちてひしゃげた。別にショックだった訳じゃない。(そもそもオイラは馬鹿じゃない)物理的な衝撃の所為だ。後ろからがっちりとホールドされている。両手で。誰の、なんて答えは一つしか存在しない。

「って…なんでそこでこうなんだよ!今の流れだと走り去んのが筋だろ、うん!」
「うるさいです先輩の馬鹿」

勢い良く言い放ったら真逆の調子で返された。かつり、と面の当たる音がして肩口に髪が触れる。都合のいい時ばかり黙りやがって。なんとか言え。この馬鹿。お前の方がよっぽど馬鹿だよ。

「放せよ」
「いやです」
「作業できねぇ」
「知ってます」
「せんぱい」
「なんだよ」
「すきです」

ああ、もう馬鹿らしいったらありゃしない!



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やまなし おちなし いみなし

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或る五月の日の出来事(泥誕・暁all)

バサッ、大きな音をたてて掛け布団が宙を舞う。
スローモーションで落ちていく布団が寝ぼけた眼に映る。その向こうに見えたのは見知った人影。と、鎌。

「デイダラちゃ~ん!はっぴーばーすでぇっ」

オイラの五月五日は最悪な幕開けをむかえた。


「飛段てめぇ…バクハツさせられてぇのか、うん?」

寸での所でかわした鎌は真横で深々と畳に突き刺さっている。オイラに刺さっていたらどうするつもりだったんだ。(どうせ切れても角都にくっつけてもらえばいいとか言うに決まってる)
そんなことはお構いなしに目の前のバカは喋り続ける。

「聞いたぜ聞いたぜ~?今日、誕生日なんだってな!こどもの日!」

まあガキなデイダラちゃんにはピッタリだよなあ、と一人で爆笑してやがる。何がおかしいのか朝っぱらから寝込みを襲撃されたオイラにそのテンションにつき合ってやる気は毛頭もない。お前の方がよっぽどガキだろ、うん。

うっとうしい飛段の野郎を振り払い、洗面所に向かう。顔を洗って廊下に出ると向こうから角都が歩いてきた。すれ違い様唐突に手を出せ、と言われる。訳が分からないがとりあえず言われた通りにするとチャリンという小気味良い音と共に何かを握らされた。

「なんだこれ」
「小遣いだ」

それだけ言うと何事もなかったかのように通り過ぎていった。小銭ってところがなんとも角都らしい。
ひぃふぅみぃ、とりあえず、粘土が買えるな、うん。


「あら、デイダラ」

日も高くなり、居間で寛いでいると今度は小南と出くわした。

「今日誕生日なんですってね」

ペインから聞いたわ、と言葉は続く。どうやら情報源はリーダーらしい。あの人は見かけによらずマメな方だ。
これ、と何かを差し出された。紙細工の花。小南の折り紙は芸術的でわりと好きだ。

「ありがとな」

軽く笑んで居間を後にした小南と入れ替わりに、誰かが入ってきた。今日はやけに人の往来が激しい。

「…げ」

よりによってイタチのヤツだ。両手には一本ずつ団子の串が握られている。右手の団子は既に完食間近だ。左手に持った手付かずの串の行く末が予想できたので、なるべく目を合わさないように視線を泳がせる。泳がせる。泳がせる。埒が明かないのでもう一度見る。二串目の団子が口に入る所だった。

「(お前が両方食うのかよ!)」

心の中で声を大にして叫んだ。別に期待してた訳でもなんでも無いが、なんだか腑に落ちない。
無意味にオイラの隣で団子を二本完食したイタチはそのまま立ち上がって出て行くかと思いきや、去り際にオイラの頭を二回ばかしぽんぽん、と触って何か納得したように一人頷いてから出て行った。何考えてんのかわかんねえが、どことなくうれしそうでちょっと苛ついた。


夕刻。台所近くを通りがかると鬼鮫がいた。

「ああデイダラ、今日はアナタの好きなものつくりますね」

こう見えて鬼鮫のつくる飯はうまい。夕飯が楽しみになった。
さて、その夕飯まで何をしようかと考える。とりあえず粘土でもいじろうかと部屋へと向かう道すがら誰かがこちらに向かってくる。リーダーだ。

「おめでとう、デイダラ」

今日でお前が暁に入ってから何度目の誕生日だろうかそうあれは確か今から…リーダーの話は長い。いつも長い。気持ちはありがたいんだけども、とにかく長い上要領を得ない。かといって無下にもできない。一応この人、オイラ達のリーダーだからな、うん。
リーダーの話を右から左へ流していると見慣れた赤毛が視界に入った。

「旦那ー!」

大げさに手を振って駆け寄る。あからさまに舌打ちされたが気にはしない。こっちもいつものことだ。

「なあなあ旦那、オイラ今日」
「ハイハイおめでとうさん」

旦那が、あの旦那が、素直に祝いの言葉を口にするなんて!
予想だにしなかった事態に暫く固まっていると旦那はスタスタ行ってしまっていた。いや、これだけでも十分すぎる収穫だ。
上機嫌で自室に戻って粘土をこねているとふと思い出した。そういえば、こんな時一番に何か言ってきそうなトビを朝から見かけていない。

「(まあ任務か雑用かなんかだろう)」

別にいいか、長くなってきた日も沈みかけ暗くなりだした窓の外を見て粘土に視線を戻す。ゼツが生えている。

「お前…心臓に悪い出てきかたすんなよな…うん」
「悪カッタナ」
「誕生日おめでとう」
「トビナラ外ダゾ」

別に聞いてもいない情報をご丁寧にも教えてくれたゼツはあと一人だね、なんて楽しそうに言って地面へと消えていった。そうか。そういえばあとアイツ一人だ。ここまでくればコンプリートしたくなるのが人の性ってもんだろう、うん。
粘土を片付けてアジトの外へ出た。


「あれ?どうしたんスか先輩」

いとも簡単に見つかったトビはいつものとぼけたツラでいつもと変わらない反応を返す。

「(ひょっとしたらこいつ知らねえのか)」

あの飛段でさえ祝いの言葉のひとつでもよこしたんだ。リーダーのことだから、新入りとはいえ当然こいつも知っているものだと思っていた。さり気なく話をもっていっても何がなんだかわかっていない様子で、一向に誕生日に触れてくる様子がない。
頭の上に浮かんだハテナが見える気がしてついにオイラも痺れを切らした。

「おめでとうって言え」
「え、また何で?」
「誕生日なんだよ」
「…先輩の?」

少しの間が空く。トビが吹き出す。

「自分で言っちゃうなんて、どんだけボクに祝ってほしかったんですか」
「もういい」
「あ、ちょっと先輩!冗談ですって!知ってましたよ、ホラ!」

肩を掴まれて振り返った刹那、大気を震わす大きな音と共に空いっぱいに閃光が広がった。
花火だ。

「先輩好きでしょ?儚く散りゆく一瞬の美、ってヤツ」

キラキラ光る光の粒は、空に吸い込まれるようにしてすぐ消えた。


「お前花火ってのは夏のもんだろうよ、うん」
「先輩のバクハツなんか春夏秋冬四六時中関係ないじゃないッスか~」
「このやろトビ、」
「まあまあまあ!せっかくの誕生日なんだし!怒らない怒らない」

ケタケタ笑いながらそろそろ晩ご飯の時間ですし戻りましょっか~と言うトビと連れ立ってアジトへ帰る。

「先輩、お誕生日おめでとうございます」
「…おう」

喰えないこの後輩も、何かと騒がしいこの組織も、オイラは嫌いじゃない。





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ナチュラルにみんなでアジト共同生活 それもいいじゃない デイダラおめでとう!

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男前すぎるでしょう!(鳶泥)

「じゃあそれ、取れって言ったら取れんのかよ」

何気ない、本当にどうでもいい暇つぶしの会話の流れで『それ』こと面の話になった。途端にトビの口数が減った。
普段あれだけやかましいくせに自分の分が悪くなるとこうだ。何を考えているのか、何も考えてなどいないのか。デイダラの問いについには押し黙ったトビの表情はそれに阻まれ窺えないので真意は知れない。どちらにしろ喰えない奴だ。
耳に入る風が梢を揺らす音がなんとなく気まずい。誰が悪いという訳でもないのだが。
そんなに答えたくないのなら別に答えなくてもいい。四六時中それなものだから確かに気にはなるが、面を着けていることで別に不都合は起こっていない。今のところ。
不慣れな沈黙を打破するかのように軽く息を吐きデイダラは言葉を続ける。

「まあ、面の中身が何だろうがお前はお前だし」

取ったらもっと優秀で先輩をちゃあんと敬うできた奴にでもなるんだったら話は別だけどな、と投げやりにつぶやきデイダラは歩みを進める。少しの沈黙。その後ろで、黙ったままだったトビがようやく声を発した。

「先輩」
「うん?」
「抱いてください」

沈黙。カラスの間延びした鳴き声。

ちょっと先輩それ最高の殺し文句ですよ本当はボクのこと好きなんでしょ、まるで立て板に水。能面を貼り付けたようになったデイダラの表情など意に介す様子も無く、ぐるぐるの面は次から次へと言葉を紡ぐ。突拍子もないその発言を機に形成が逆転した。否、普段通りに戻ったと言った方が正しいか。
面は相変わらず真意を伝えようとはしない。だが無機質なその表情も、心なしかほころんでいるように見えることもある。

「せーんぱい!せんぱいってば」
「煩いやっぱ黙れ近寄んな」

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そうして今日も何食わぬ顔で隣にいるのです(鳶泥)


「あ、せんぱーい!」
「あ、サソリのだんなー」

「また旦那、かあ…」

このセリフと後のため息とはセットでよく現れます。出来ればあまり遭遇したくはないものですが大体五分の確率で出会ってしまいます。それもその筈、先輩の中での優先順位ってものがはっきりと決まってしまっているからです。残念ながらボクの順位は限りなく最下位に近いようで。今もこうして連れ立って歩いているというのに。まあただの任務に向かう道中なんですけど。

「先輩はほーんとサソリさんが好きですよね」
「うん?別に好きとか嫌いだとかそういうんじゃねえよ」

まあゲージュツ家としては尊敬してるけどな人としちゃあありゃどうかと思うぜそうだこの間だって云々、話す姿はなんだか楽しげでボクはへぇだのほぉだの空返事でやり過ごす他ありません。

「何お前、すねてんのか?」

突然ピタリと歩みを止めたかと思うとこの一言。
面白そうにニヤニヤ笑って、ボクはちっとも面白くなんかないというのに。(先ず、自分がこう思っているという事実が既に面白くない)
自分で言うのもなんですが、普段あれだけやかましいボクがそれでも珍しく何も言わずに黙りこくっていたもんだから先輩も気をつかったのか、普段より幾分トゲの少ない声色でボクの名前を呼びました。そんな千に一度も無いような機会をボクはあろうことか突っぱねました。

「やさしくしないでください」
「はあ?お前、本っ当にわかんねえ奴だな」

先輩はボクを一瞥すると行ってしまいました。ざくざくと土を蹴る大きめの足音がだんだん遠ざかっていって、辺りはしんと静まり返ります。ボクだけが変わらず一人その場に突っ立っていました。
そう、それでいい。
先輩はボクなんかにやさしくしなくていいんです。そんな慰めはいらないんです。

「(惨めになるだけだ)」

自分の大人げなさと意外な程の器の小ささと、いろいろなあれこれが混ざりあってなんだか笑えてきちゃいました。昔はこんなんだったかなあと一人で笑ってみたところで気持ち悪いぞ、などと声をかけてくれる人の姿は無く。(それもその筈たった今自身が追い払ったんだから)
どうしようもないこの感情は着けた仮面の内側でその姿が如くぐるぐると渦を巻くのです。
そして最後は真っ黒な穴に吸い込まれて、それでおしまい。


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