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小声ではなす夜(鳶泥)

《※現代風味》


ルーレットが回る。プラスチックの針が次から次へと数字を通り過ぎ、その度ぱちぱち弾けるような音が鳴った。3。丁度、時計の針もそのあたりをさしていた。一回休み。そうだ。まともな生活をおくりたいのならとっくに休むべき時間なのだ。それなのに、薄っぺらなボードの上に備え付けられたルーレットを交互に回し合っている。やけに小さい出目が続くのは気のせいなのだろうか、黒に覆われた指先が白いつまみを回せば今度は1。ひとマス戻る。
アパートのゴミ捨て場に捨てられていたのだという。まだきれいだったし、懐かしくなってつい。いつの間にか部屋の隅に増えていたボードゲームの存在にはデイダラも気づいていたので問いこそすれどもそれっきり。特段気にかけたこともなかったのがどうしたわけか今日、こうなっている。
眠れない部屋にはプラスチックの針の音。小さな車型をした駒が進み、時折話し声がする。世界一周旅行に出かける。1000万払う。止まったマスはいともたやすくとんでもないことを強いてくる。色鮮やかな紙でつくられた紙幣を数え、銀行としている箱に入れた。世界とは言わないんで行きたいっすね。どこに。どこでも。オレンジ色の車が止まっている。ルーレットの回る音。側をブルーのそれが追い越していく。土地の所有権を譲り受ける。あーあ。言葉の割にさして気にした風でもなく、すんなり紙幣と同じ大きさの権利書を譲り渡す。オレンジからブルーへ。そのまま両手の指でおもむろに四角い枠をつくって、トビはつぶやく。これくらいで十分なんですよね、もう。枠の中には金色が収められている。へえ、土地は広いに越したこたないとおもうけどね。手元の紙切れを数えながらデイダラが言う。ボク先輩のそういうところすきっす、そりゃそうだろいくら優れた芸術作品でもそこに土地と人がなきゃ最高の一瞬は生まれねえってもんだぜ。しっかりとはかみ合っていない会話で針は進んでいく。
そもそも二人でやるものじゃないのだ。こういう類のゲームなんて。何故拾ってきたかなんてそれこそ気まぐれでしかないだろうし、きっとこの日の後にはまた元あった場所に置いてくるのだろう。きっちり閉じそこねた無地のカーテンのすきまから街灯とも月明かりともしれないものが床を照らして影をつくる。部屋の明かりが手元の電気スタンドだけなのは、一旦は今日を終えようとしたなごり。今日の延長線でめぐるボードの上。延長戦は終わらない。あがるにはぴったりの数出さなきゃいけないんですよ。知ってるよ、まあみてな。ルーレットが回る。オイラの勝ちっ。ブルーの車がボードの上を駆けていき、金色が放物線を描いてそのままぱたんと着地した。眠かったんなら律儀に最後までやらなくても…、途中で投げ出すのは性に合わねえんだよ。カーペットの上で手近なクッションをかかえた、転んだ目がななめ見ている。そんなところで寝たら風邪ひきますよ。どっちにしろどっちかは床だろ。先輩を床で寝かすなんてボクにはとてもとても。いーよもう、動かねえ。断言してきたっすね、添い寝しますよ。ここにきて返事がなくなった。それならばと途切れた会話を都合よく解釈して隣にしゃがみこんでも無反応。デイダラさん、呼びかけにも返事はない。どうやら本当に眠ってしまったようだ。その寝付きの良さ、どっかの漫画の主人公みたいですよぉ。頬杖でついたため息で観念して、電気スタンドの明かりを消した。
おやすみなさい。なでられた手に切り取られてやる気などさらさらないのだろうがこうして目を閉じてしまえば、それとそんなに変わりはないのかもしれない。





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いつかの深夜のはなし

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今日はさざなみ(鳶泥)

《※現代風味》


くるくる回る羽の先で飾り羽のようにそよぐ金色を見ている。夏しか使わないというのに、夏にはすこし重たいカラーリングの機体。首振り機能なんて元からなかった。そうだとしてもなんら不思議じゃないくらい、うちの唯一の冷房器具は従順に一点だけを向き続けている。適当にひとまとめにしてわっかに結われた長い髪はこの時季の太陽の下ではなおのこと映えるのだけれど、当人からすればそれどころじゃないのはご覧の通り。髪だけをとってみれば幾分か涼しげな自分が何を言ったって、そんなに言うならいっぺんのばしてみろと返されておしまい。ボク髪質硬いし癖あるんで先輩みたいにきれいにのびませんよ、なんてはぐらかしてみせたら青い目をほんのすこしの間上へとやって似合わねえな、と頷いた。自分でもそう思う。一瞬頭をよぎったヤマアラシのような長髪を携えた身内の姿はすぐにかき消す。
残暑、にしては残りすぎの気温達に決まった三文字を時折呪詛のようにつぶやく姿を見ていると、エアコンのひとつもないのが少々申し訳なくなるのだけれども、自分はわりとこれでしのげてしまうものだから。あとは、避暑地扱いというわけじゃないのがうれしいってだけの話。近くのモーター音と遠くのセミの声。単調なそれにすこし離れたところから割って入る。たまには青だってみたい。


「先輩夏らしいことしました?」
「人並みには」
「花火とか」
「やった」
「かき氷」
「食ったな」
「お祭り…」
「これ射的でとったやつ」


いつの間にか夏の風物詩のかたまりになっていたその人に、マンションの頭からかろうじて見える打ち上げ花火のような気持ちをもてあまして。ダメ元でぼそりと吐き出したうみ、の二文字。それには明るい答えが返ってきた。


「今なんかもうくらげだらけでしょうね」
「泳ぐわけでもないんだから問題ねえだろ」
「それだけ夏満喫しといてなんで海には行かなかったんすか?」
「別に。タイミングが合わなかっただけの話だよ」


遠いとも近いとも言えない時間を電車にゆられながら、そんなことを話した。夏の盛りも過ぎた平日の昼下がり。残暑の海には人よりも打ち上げられたくらげの姿が目立つ。べしゃり、としめった感触に振り返れば先輩はいつの間にか裸足。両手にはすくい上げるようにしてこんもりと盛られた透明なくらげ。たった今頭に感じた違和感の正体はこれだった。目先数メートルで弧を描く口元に異を唱える暇も与えてもらえず、飛び交う透明な傘、傘、傘。最後の一匹が握った手からこぼれるように落ちた。じっと右手を確認。海水をばしゃばしゃ。これはどうやら、


「…薬局探しましょっか」


いつになく素直に頷く姿がすこし笑えた。

海岸から程近い町の薬局で事情を話せばこの時期多いんですよねそういう人、と笑いながら店員が塗り薬を探してくれる。それを受けて先輩みたいなおバカさんがそんなに、と大げさに世間話を繰り広げてみせれば刺された方の手で殴られた。揶揄したつもりなんだから事実にしないよう、すこしは気をつけてほしい。なんて人の気も知らないで先々向かっていった自動ドアの外には入った時にはいなかったセミが転がっていて、横を通り過ぎようとした瞬間お約束のように暴れまわって飛び立っていった。跳ねた肩がセミ爆弾め、とつぶやいていたのを聞きのがしてはいない。
海岸までの道。枯れかけの向日葵。暑い中でもしゃんと上を向いていたはずの頭はずいぶん重たげで元気がない。ぬるい風が隙間を通っていく。


「夏の終わりってなんでこう、なにもかも」
「いつだってそうですよ。目につかないだけで」


手を冷やすために売店で買ったチューブアイスをふたつに割って手渡す。よく見るコーヒー味ではなく夏季限定のソーダ味。これもそろそろ姿を消す頃かもしれない。夏の命はみじかい。


「あのくらげみたいなのはやだな」


無様だろ、と続ける先輩は早速アイスの口を切っている。手を冷やすためだって言ったのに。脈絡のない話はおそらく、今自分が考えていたのと同じような内容。


「それ投げてたの誰ですか」
「奴ら案外根性あったな、うん」
「あんまり毒性強くない種類だからよかったものの…刺されたら死んじゃうようなのもいるんですよ」
「夏で死ぬなら花火がいい」
「…打ち上げ花火?」
「どうせなら空に打ち上がって跡形もなく爆発するみたいにさ」
「花火になりたい、みたいな話になってますけど」
「くらげよりはいいだろ」
「同じ打ち上げられるのでも空と岸とじゃ大違いですもんね」


たまに、この人の話は思いもよらぬ方向へと飛んでいく。石段の上に座って見た空は、そんな花火があがるにはまだ早い夕焼け空。手のなかのアイスが溶けだして汗をかいている。口はまだ切っていない。


「なんかお前みたいだな」


視線は空に向けたまま、空になったアイスの容器を弄びながら言うのはたぶん夕日のこと。同じ色の面に吸い込まれるように濃くうつる橙。


「なに言ってんすか先輩ったら柄にもなく!」
「いや、うっとうしいぐらいに橙色だなと思って」
「それほめてます?」
「どちらかといえば」
「…でもまあ、そんないいもんじゃないですよ。オレは」
「いいかわるいかは知らねえさ」


日中あれだけ照りつけていたのが嘘のようにゆっくり静かに沈みゆく夕方の日。それに向いたままの横顔。同じ橙ならこっちをみてほしくて。広がる青よりそれがみたくて。ほとんど無意識にのばした手がつかんだのは服の裾。まるで幼子のような所業に我に返ってすぐにそれを放すと、わしゃわしゃと犬にするように片手で短い髪をなでられた。時すでに遅し。されるがまま頭を落とす。


「せんぱい」
「んー」
「花火して帰りません?」
「線香花火とかしめっぽいのはなしな」
「ロケット花火飛ばすくらいのことしちゃいましょ」
「あとでちゃんと回収しろよ」


立ち上がって砂をはらって伸びをして、夕日の下でそよぐ金色に、どちらにせよきれいなものはきれいだなんてことを思って、同じようにして歩き出す。海岸までの道。さっき見たスーパーあたりになら、花火がおいてあるかもしれない。





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くらげを投げる先輩が書きたくて
うちのふたりはなにかしらの盛りよりも終わりにいることがおおいな~と気づいた今年の夏
すぎゆく日々をたいせつに

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二泊三日のひきこもり(鳶泥)

《※現代風味》



「しちがつ」
「つゆ」
「明けてませんね」
「見ての通りな」


間延びした声が雨の音に混じって降っている。どうも梅雨といえば思い浮かべるのは6月で、月が変わればがらりと気候も変わりそうなものだが実際そううまくはできていない。テレビの天気予報士曰く、向こう一週間は相変わらずの雨模様。加えて真夏の暑さもやってくるらしい。どっちかはっきりしろ、とデイダラが画面に向けて吐き捨てたのが今朝の話。


「おまえそれ蒸れねえの」
「蒸れます」
「とればいいだろ…」
「先輩がちゅーしてくれるなら」


いち、にの、さん、3ステップで簡単に。CMの謳い文句のような軽やかさで面はからんと床に落ち、目を丸くする暇もなく近づいてきた青に飲み込まれる。


「…冗談だったんですけどね」
「じめじめうっとうしい時に湿気増やしてんなよ」


何食わぬ顔で床に置かれたコンビニの袋を物色するデイダラ。少し多めのスナック菓子にチョコレート、アイスはさっき冷凍室に入れた。籠城する態勢は整っている。退屈しがちな雨の日の過ごし方としては、そう。


「悪くもないと思うんですけど」
「この豪雨で恵みの雨だなんて言うんじゃねえだろうな」
「雨の日に閉め切った部屋って、そこだけ世界から隔絶されてる感じしません?」


まるでここだけ切り取られたみたい、などと言うトビを横目にデイダラは食べかけのポテトチップスを咀嚼しながらおもむろに窓を開ける。白くこもった空から垂直に落ちる雨。すこし手を伸ばせば当然触れる。濡れた手をトビに向けて振るって言うことには。


「映画の見過ぎ」


一蹴。部屋にいながら雨粒を受け苦笑いする男の側にはレンタル店の袋。本日限定全品100円、の響きにつられて足を運んだDVDのコーナーから借りてきたものだ。


「まるで泊まりに来るみたいな言い方ですよね」


二泊三日、とレシートの大きな文字をなぞる。新作旧作をあまり考えずにあわせて借りたDVDは、短いものでそれだけの間手元に置いておくことができる。それと、どういうわけか同じ二泊三日でやってきたデイダラ。交互に目をやって、トビは神妙な面持ちで口を開く。


「100円払わなきゃ…?」
「借りられた覚えはねえよ」


返答は想定内。笑った顔は予想外。


「それにそんなに安かねえし」
「ですよね!」


いくつかの円盤から適当に選んで再生したのは世界征服を目論む悪の組織と戦う正義のヒーロー、というよくある話。アクションや演出が派手ないかにもらしい仕上がりで。なんとなく見ていた目はクライマックスの爆発シーンでようやく少し見開かれ、エンドロールが流れ出してからあれはいい爆発だった、などと頷きながらしきりに称賛しだした。隣でクッションをかかえてボクなら世界なんかより先輩がいればそれでいいですけど、とつぶやいた声は文字通りひとり言と化している。クッションに顔をうずめる。


「なんか言ったか?」
「いや…なんでもないです」


アイスたべます?とクッションを置いて立ち上がったトビに、飯の後でいいと返してデイダラは他のラインナップを物色している。なんの気なしのこれ小学生の時やってたやつだ、の声に冷蔵庫の前で固まる背中。不思議そうな視線に本日二回目のなんでもないです、がしぼんで落ちた。


「晩なにたべたいっすか」
「なんでもいい」
「あ、なんかこの会話新婚さんみたいっすね」
「誰と誰がだよ」
「ひどい!先輩ったら人の唇うばっといて!」


両手で顔を覆っての実家に帰らせていただきます!の声で寸劇は続く。かのようにみえたが、デイダラのお前んちここだろ、の一言であっけない幕引きを迎えた。そうでした、と返すトビも一連の流れに満足したようでけろりとして冷蔵庫を覗いている。


「って言っても、チャーハンくらいしかできそうにないですけど」
「いいよそれで」
「あっこのアイス新作…先輩あとで半分交換しましょうよぉ」
「女子かよ…自分の食いたいもん買っとけっての」
「買いましたよ!でも違う種類半分ずつ食べられる方がお得感ありません?」
「やらねぇって言ったらどうすんだ」
「ボクの選んだやつ見たら絶対そんなこと言えませんって」


雨は変わらず屋根や階段、窓を打っている。テレビの音や話す声も、包み込まれて梅雨の景色。二泊三日と一週間の期限が過ぎれば開け放たれる窓から入れ替わりに、夏がくる。





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ふたりでだらだらすごす梅雨と夏のさかいめ
油断してたら現実世界はだいたい梅雨明けしちゃったけどここはひとつ…なんでもない季節を追ってほしいのだ

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re-.(鳶泥)

《※現代風味》



そうじ日和だった。そんなもの、ただの晴れの日と言ってしまえばそれまでなのだが。玄関のドアのすき間は水を入れたペットボトルをはさんでつくられた風の通り道。ドアストッパーなんてものがあるような部屋ではなくとも、ほこりっぽい部屋の空気と晴れの日の風とは交換したいものだ。だからこんな日をそうじ日和なんて位置づけてみる。
階段をのぼる足音がする。錆びた赤茶色をけずってはぱらりと落としながら靴底は、すき間の開いた扉の前でとまった。風以外が通りぬけることを想定していないその道を自分が通りやすいようにひろくして、当然のように進入。風の通り道はきちんとつくり直す。日光が透明な曲線に反射してちかりと光った。


「不用心だな」
「ウチなんて先輩か野良猫くらいしか入ってこないですよ」
「人を野良猫と一緒にすんな」
「やだなあ、先輩そんなかわいいもんじゃないでしょ」


わかりやすく手のひらをグーの形にしてかかげてみせたデイダラに部屋散らかるんでいまは勘弁してくださいね、と分別に勤しむトビが片手間に返す。元々物が多い部屋ではない。それどころか板張りの床にはカーペットすら敷かれておらず、まるでいつでも引き払える様相なのは相変わらず。ウィークリーマンションでももう少し色がついている、と言われた時は笑っていた。
大方分別は済んでいるようで焦げ茶色のフローリングの上ではいくつかのかたまりが小さな島のよう。まだきれいな家電、福引きで当たったような未開封の日用雑貨、もう着ないらしい服、読み終えたであろう本、ペットボトル飲料のおまけ。備え付けのクローゼットが最大限に活用されていたようだ。
見るからにゴミ、の体は成していないので第三者が区別をつけるのはむずかしい。肩からかけていたカバンを下ろしたデイダラが、かたまりとかたまりの間にしゃがみこむ。透明なビニール袋に町指定の文字はない。この辺りはそれほど分別には厳しくないらしい。ペットボトル飲料のおまけ。これは分けるとしたらプラスチックだろうか。袋に入ったままのものや裸のもの、状態は様々だったがどれも使用感はなくただなんとなく集まっただけに思える。ひとつつまみ上げると商品名と全7種類と書かれたタグがゆれた。これが7種類の内の何種類目かは知らないし興味もない、という顔をしている。手伝えと言われたわけでもないが、じっとしているのは性に合わないのがデイダラ。透明な袋ががさりと音をたてると同時に、あー!と後ろでクローゼットを掘り起こしていたトビが振り返って大きな声をあげた。


「なんだよ…いらねえだろこんなもん」
「いや、そりゃそうかもしれないですけど」


はっきりしないトビの口振りに沸点の低めなデイダラは眉を顰める。見慣れたその表情に向けてそれ先輩がくれたやつですし、と小さくつぶやくとデイダラから先程のトビばりの素っ頓狂な声がでた。身に覚えがない。かけらほどもない。そういう顔をしている。人差し指を立てながらほらあのとき先輩がいらないからってうんたらかんたら、言われてようやく記憶の片隅にあった気がしてくるぐらいの出来事を細かに話してみせるトビに唖然とするデイダラ。それは経由しただけだろ、とでも言いたげな表情は今日は一層くるくる変わる。


「使うか使わないか、で言えば?」
「使わ…ないです」
「んじゃいらねえな、うん」
「あー!」
「うるせえ片付けてんじゃねえのか!」


時折こうしてそれまでを一掃するかのように大掛かりなそうじをするトビも、物に頓着しないというわけでもなかったらしい。人それぞれものさしはあるだろうが、おそらくこの場合のそれはここにいるので結論は今に出る。袋とおまけを両手に持ちながらも未だ渋っているトビにいよいよ業を煮やしたデイダラが、細めた青い目とため息混じりで問いかける。いま目の前にいるのは?


「デイダラさん、です」
「じゃあこんなもんいらねえだろ、うん」


全7種類の内の何種類目かがデイダラの手によってビニール袋の中へと消える。もうトビはなにも言わなかった。言わんとしていることがわかったのなら、なにも言わないままでいればいいものを。先輩もしかしてかまってほしかったんですかあ?などと、丸わかりな声色でわざわざ茶化す。それをデイダラが適度にいなしてそうじは再開。馬鹿言ってないでとっととかたせよ、フローリングの上でビニール袋が風にふかれて音をたてた。


「よっし!あとはリサイクルショップもってくだけッス」
「捨てないところが貧乏性だよな」
「塵も積もれば、ですよ?案外おもしろいものもあるし。ほら先輩も食べたじゃないですか、かき氷」
「あれもか…」


いつぞや見た手回し式かき氷機のことを思い出して苦笑い。あれがこの不要品の島にないということは今後出番があるということらしい。冷蔵庫にまだあるはずのブルーハワイのシロップには触れないことにする。
風の通り道を内側からひろげて外に出る。結局ふたりして近場のリサイクルショップにぶらぶらと向かっている。荷物はひとりでも持とうと思えば持てる量だったが、暇をつぶせるようなものもない部屋なうえじっとしているのは性に合わないのがデイダラ。多いとも少ないとも言えない不要品は3枚の紙幣に化けた。残念ながら0は一桁少ない。


「なんかほしいもんないですか」


帰る道すがら、売上3枚をひらひらさせながらトビが尋ねる。3000円以内ですけど、と補足も忘れない。どういう風の吹き回しだと笑ったデイダラへ返されたのは簡潔な答え。


「や、そろそろ誕生日だなと思って」
「あー…じゃあ粘土」
「わあものすごく実用的」
「いくらあっても困らないしストックも減ってきたし」
「先輩らしいッスね」
「あの殺風景な部屋にオブジェ増やしてやるよ」
「引き取り不可なものはちょっと」
「そんときは窓から落としゃいいさ」


冗談っぽく言えばそれ以上の皮肉で返された。わかっていて殊更に言っているのだろうが、きっと半分は本気だ。


「…先輩の芸術観って、よくわからないです」
「おまえに言われたかないね」
「期待しないで待ってます」
「オイラは有言実行だ、うん」


にやりと笑んだ頼もしい表情どおり後日、すっかり片付いていた黒のローボードの上に映える真っ白な鳥の置物が鎮座することになった。その視線の先にはショートケーキ。もらってばかりでこれじゃどちらが誕生日かわからないとトビが用意したものだ。チョコレートでできたプレートまでしっかりのって、いかにもらしいのにサイズは賢明な1カット。苺とクリームとでぎゅうぎゅうになっているチョコプレートに書かれたシンプルな祝いの言葉をトビがなぞると、誕生日の張本人は特権であるプレートをおもむろに割り半分を面の下にある口にほうりこんで一言。


「ありがとな」


ふわりと笑った顔と甘さに呆けて、すこし遅れてからトビもまた、同じ言葉を返した。





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暁みんなで、ふたりで、現パロで、とこうやってお祝いするのもさんかいめです 先輩おめでとうありがとうSUKI!

ちなみに5/1でもうちょっとも2歳になりました
これからもぼちぼちマイペースにやっていきますのでよろしければおつきあいくださいませ~

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